ミツキ様
城塞都市ーフォストロールー
おおよそ1000年続く、歴史ある街
かつては王族が住み、統治していたとされるが、今は王族は住んでおらず将軍と呼ばれる領主が納めている
その昔の建築物や魔法遺物も豊富に残っており、そのほとんどは重要文化財として、あるいは国宝として指定されている
おおよそ20kmにも及ぶ大きな外壁に囲まれ、東西南北4箇所の入り口には門番が配備され、どの門番も屈強な剣士や魔法使いで固められており、城壁の上ではパトロールする憲兵も見える
現在では最先端の魔法学問、剣術、さまざまな勉強ができる学術都市としても有名であり、人口おおよそ2万。人種を中心にさまざまな人々が暮らす街であった
「と、いうわけでですね、この巨大な時計台が作成されたのはおおよそ200年前だとされています」
今俺たちは街の中を案内してもらっていた
「なぁソラ、あの搭の中には入れないのか?」
今説明を受けていた時計台はまるで搭のようになっておりかなりの高さをそのままに威厳を誇っている
中世ヨーロッパのような雰囲気をもつこの街の中にはあちらこちらに巨大な建物はあるが、その中でも中心部にそびえるこの時計台の大きさはまるで都庁がごとく大きい
「あー入れないことはないんですけど、中には魔物が住んでいるという話もありますが、基本的にはそこの憲兵さんに止められちゃいますね」
なるほど、入り口の大きな鉄扉のそばに甲冑姿の憲兵が数名、立っている
「さ、そろそろ宿に向かいましょうか」
石畳の上をてくてくとソラについていく
「そういえばその格好、似合ってますよ」
出立前に、アリスにジーパンとパーカーを取り上げられてしまった
その代わりにこの世界の服装だと、いかにもな布のズボンとシャツを渡されたのだった
胸には軽装鎧とでも言うべきプレートをしていて、いかにも冒険者という格好だ
「あー着心地は悪くないんだけどな、なれないな」
「そのうち慣れますよ」
「主殿は何を着ても似合うからだいじょうぶじゃよ」
何が大丈夫なのか
まぁまわりとそう大差ない格好なので恥ずかしくはないんだけどな・・・
宿はこちらですと、進むソノに付いて行く
その宿は概観はきれいで、風情がある感じだ
「こんにちはー。ソノですー」
ソノが相変わらずの大声で叫ぶ
うるさい
「はぁ~い・・・」
もぞもぞとカウンターに黒い何かがうごめいている
「いらっしゃいソノ・・・」
よく見ると人だった
長い黒髪で、顔のほとんどは隠れている。まるで幽霊のようだ
「こちら、シンタさんとミオさんです。お師匠様のお客人ということで、こちらにご厄介になりにきました」
「あらそう・・・・ちょうど部屋は空いているわ・・・部屋が全部ね。くふふ」
こぇぇ!
髪の中でうっすら笑っている
こぇぇ!
「しかも全部部屋あいてるのかよ・・・・ほかに客いないのかよ」
「主殿、声に出ておるぞ」
ミオもなんかふるえている。俺の背中からでようとしない
「えー珍しいですね、空いているなんて。いつもお客さんたくさんいますよね?」
「ええ、ちょうど昨日まで宿泊していた団体さんが・・・」
「だ、団体さんが?」
俺はゴクリとのどを鳴らす
死んだのか!?
「聖都に向かうとかででちゃったから・・・くふふ」
普通の話だった
「じゃ、いつもの部屋に泊まらさせていただきますね」
鍵を受け取ると、そのまま二階へ行く
部屋の中にはベッドが2つとテーブル
豪華なつくりではないが、ビジネスホテルだとしたら上等な部類だろう
ソラが背中のリュックを下ろし、小さなリュックに必要なものを詰め替えていく
「さて、主殿どうするのじゃ。我の魔力感知によるとなかなかこの街はおもしろいぞ?」
そんなことやってたのか・・・
「ふむ、盗賊に魔物、魔人。かなり数の悪党がおるのう」
その言葉にはソラが、
「え・・・・・・・・そ、そんなはずはありませんよ、ここは平和の代名詞とも言える街ですよ、悪党なんていたら即憲兵さんが捕まえているはずです!」
ミオに習って、俺も感知スキルを発動させる
すると頭の中にこの街の地図ができあがってゆき、その中に小さな光点が瞬き始める
そして、黄色く光る点のほかに黒い点が浮かび上がっていく。
一番大きな黒点に集中してみると・・
アーグラ:盗賊頭
HP 50
MP 26
攻撃力 100
魔力 0
俊敏 100
スキル
盗賊の心得 人心掌握 非道の限り
剣術Lv3
おお・・・・・・・・
「なぁ、もしかしてこの黒い点・・・・」
「そうじゃな、これが悪事を働いたことのある、または悪人のものじゃろ。黄色い点は善人というところかの」
うーん結構な数が黒い
だが別に世直しでこの世界にきたわけではないので、危害があるまでは放っておくことで
意見が一致する
火の粉がかかってきたら、ミオの魔法で払っちゃうけど
「とりあえず、晩飯でも食いますか」
宿で出る飯を食った俺たちは、宿の目の前にある酒場に向かう
情報収集なら酒場というやつだ
年齢的に酒は飲めないが、そこでジュースでも飲みながらなんか食べてるだけでも良いらしい
だがそこで、進む目標ができた
「・・・・・・・・ガヤガヤ・・・・」
20人くらいだろうか、屈強な男たち、またその日の仕事帰りの男たちがエールを片手に談笑している
冒険者らしき男たちもいる
この中にあって、女性は店員だけだ
あてがわれたテーブルで茹でた豆をつまみながら周りの声に耳を傾けていると、
「ミツキ様ご一行は北の砦に向かったとよ」
「へぇ、ついに吸血鬼退治にむかったのか」
なんて声がきこえた
俺は立ち上がり、その男たちのテーブルについた
「なぁ、悪いんだけどそのミツキ様っての、詳しく教えてくれないか?」
男たちが怪訝な目を向けてくる。だが、酔いの席だからか親切に教えてくれた
「聖国の勇者様さ。ミツキ様は10ヶ月程前だったかふらりと来られたらしくてな」
「そうそう、初めて現れたときは見たこともない格好だったそうだ」
「だが、そこからが凄かったらしいぜ。1ヶ月もしないうちにメキメキと頭角を現していったんだ」
「あぁ、俺も見たぜ。国王立会いの試合で優勝したんだ。」
なるほど、ミツキで間違いないかもな
だが10ヶ月前か・・・俺は1ヶ月ほど遅れてきたからな
これは時差か?ちょうど、1日が3日くらいの差があると言うことかもしれない
「それで勇者として認められたんだ。その後、アウラ地下遺跡攻略、ミカネ山の魔犬退治、とまらない英雄っぷりよ」
「でだ、この街の北の砦にな、吸血鬼が出るっていう話があってな、今度はその退治ってわけよ」
ふむ、吸血鬼退治な
「その吸血鬼ってのは、強いのか?」
俺はミツキの足取りを聞いて、かなりの強さを手に入れていると思ったが、吸血鬼といえば俺らの世界では伝説レベルに強いってのが相場だ
「吸血鬼か・・強いとは聞いている、北の賢者、グレファールがやられたらしい」
「賢者がか!」
俺はわざと驚いたフリをする。グレファールって誰かしらんもん
話は合わせておかないとね
「ああ、それでミツキ様に声がかかったってわけだ」
酒を飲みながら得意げにその男は喋った
「ふぅん。で、そのミツキ様ってのはいつごろ出たんだ?」
「たしか今日の昼だな。1週間程前からこの街に滞在していたんだが、準備ができたとかででてったよ」
どうやら俺が魔力うんぬんしている間、ミツキはこの街にいたようだ
それならば・・まだ近くにいるな
「ミオ、ソノ、今から行こう」
「唐突じゃのう主殿、じゃが今はそれが最善か」
「ちょ、シンタさん危険です!北に向かう街道には魔物もでますし!」
ほう、魔物!だがミオの魔法があれば問題あるまい?
「大丈夫だ。ミオがいる」
「大丈夫じゃ主殿には傷ひとつつけさせぬよ」
自信たっぷりに言い放つ。さすがですミオ様
「でももう暗いですし、とりあえず明日朝からにしませんか?北の砦までは確か2日程の距離ですし」
「きっと昼に出たと言うことは、途中で野営しているんだろう?ならそこに追いつくためには今から出ておきたい」
「そうですかーーー」
泣きそうな顔をして叫ぶソノ
せっかく街でのんびりできそうだったのにすまない
悪いな、だけど自分でも思っていた以上に、近くにいるかもしれないという情報は早く行かなければならないという焦燥感が芽生えてしまっている
ミツキがどれだけ強くなっているかは知らない。きっと吸血鬼すら倒せるから向かっているのだろう
だが、あの最後に見たアイツはそんな事ができる風なやつじゃなかった
それに、彼女はなぜ、この世界に来たのか?
それがなによりも知りたかったのだ
いったん宿に戻ると、ソノは必要な荷物を持って出かける準備をする
俺は宿の女将に事情を話し、すぐにでも出る話をした
「あら・・・お気をつけて行ってくださいね・・・ふへへ」
やっぱ怖いこの人
「ああ、アリス様よりこの剣を持っていくようにと手紙にありました。この剣は昔、アリス様がこの宿に預けていかれたものですのでお持ちください」
「助かります」
「いえいえ・・・ふへへ」
剣を手に入れた
思ったより軽い。両刃の西洋剣だが良く切れそうだ
「主殿よ、この街の先50kmのあたりに、それらしき一団がおるのう」
「わかるのか?」
「んむ、我の探知範囲ぎりぎりじゃがな。今なら動いておらぬようじゃ」
「よし、行こう」
「おーい、ソノ行くぞー!」
それから数分後、ソノが降りてきた。相変わらずでかいリュックだ
ミオの収納にいれてやればいいかもしれないな・・
街の北までいくと、馬車が借りられるということで借りることにする
お金はソノが払ってくれた
馬車といっても、荷台に屋根はなく貧相な馬が一頭付いているだけだ
俺は馬の乗り方などわからないというと、ソノが馬にまたがって、さぁ行きますよ!なんて張り切っている
さっきまでしょんぼりしてたのに・・・ふっきたな
荷台に座ると、ガラガラと街道を北に走り始めた
「ふむ、じゃがこれでは遅いのう?」
ミオがつぶやく
「ミオまさかまた・・・・」
いやな予感がするんですけど
「そりゃ!魔法で筋力倍増、持久力倍増なのじゃ!」
馬が・・・ヒヒーン・・・ではなくて
「ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアッ」
と雄たけびを上げて走り始めた。
「きゃあああアアアアアアアアアアアアアアアア」
とソノが叫んで馬のたてがみにしがみついている
俺はガガガガガガガガと揺れている、というより振動している荷台にしがみついて・・・・・
30分後に吐いた。
「オロロロロロ」
「すまん、主殿・・まさかああなるとは思わんかったのじゃ・・・」
「オロロロロロ」
「ソノ、おぬしにもスマン・・・・」
すげぇ酔った
ひとしきり晩御飯を地に返した後、1時間程休憩をすることになった
ぱちぱちと焚き火が燃える
ちなみに火は俺が魔法でつけた
魔法、超便利
「はー・・・やっと落ち着きました」
「あー俺もうちょっと・・・・」
具合がわるいなんてもんじゃねぇ
「ミオさんの魔法、凄すぎますよ・・・あんなの馬じゃないです」
「悪かったといっておるじゃないか」
「確かに馬じゃねえな・・アレは。バケモノだ」
ヒヒンと馬が微笑む
「強靭な肉体を持った馬の恐ろしさを知りましたよ。馬車なんて引かせたらだめです」
ちなみにその馬車の車輪はもうボロボロになっている
「で、ミツキはどのへんにいるんだ?」
結構進んだはずなんだけど
「ふむ、ここから2キロ先といったところじゃの」
「かなり追いついたな。もう少し休憩したら行って見るか」
とりあえずコーヒーをミオに出してもらい、飲みながら考える
俺の姿を見たら、彼女はなんと言うだろうと・・・