7話
………あれだけ格好をつけて出てきながら、エイルはいま、来た道を戻っている。
いや、当初の目的からすれば、その方向は正しい。
つまり、彼は、あの少年の場所に再び戻ろうとしているのだ。
もちろん、あの少年の不興を買うことなど承知の上だ。だから、できるだけ見つからないようにと、気配も殺して注意しながら道を進んでいる。
何故、そんなことをするのか。あの少年に会いたいから、ではけしてない。
理由はふたつある。
ひとつは、エイルの剣が、少年に取り上げられたまま返されていないこと。
ひとつは、もう一度確かめたところ、エイルの指環の光はやはり、あの少年のいた方角を示したこと。
あの少年がエイルを追い出したがっていたのは、偶然だろうか。それとも、エイルをその先に通したくない理由があったのだろうか。
そう、たとえば、エイルの婚約者。
「…考えすぎ、か?」
エイルは婚約者のことなど何も知らないが、仮にも天界の王子の婚約者なら、それなりの者が選ばれたはずだ。それがどうして、地上でも明らかに辺鄙な、こんな場所にいるのだろう。
もしかしたら、とエイルは仮定してみる。エイルの婚約者がこの近辺にいるのだとしたら、あの少年は、その護衛だったのではないか。そして何かの理由があって、近付く者すべてを警戒しているのでは。
「理由……」
いくら憶測で考えても、何にもならない。
エイルはしばし考え事をやめ、目の前のことに集中した。
あの少年のいた村が、道の先にあった。