5話
頭痛、目眩、吐き気。どれも普段のエイルには縁のないものだったが、この時、彼が目を覚ましてすぐに、それらは一気に襲ってきた。
エイルはすぐ動かずに、じっとして症状のおさまるのを待った。どうやら、頭を強打したようだ。頭痛や吐き気はその後遺症だろう。
しばらく経って、それらの症状はおさまった。エイルは身を起こし、自分が寝ているのが、見知らぬ小屋のなか、積まれたワラの上だということに気付いた。
と同時に、気を失う直前までの記憶がよみがえってくる。
あの少年に、気絶させられたのだ。そうと思い出して、エイルは慌てて、服の上から胸を押さえた。
指環がなかった。
「あいつ―――」
十中八九、あの少年の仕業だろう。エイルは跳ね起きて、ワラの山から下りた。この小屋から出ようとする。
けれど、すぐに異変に気がついた。立ち止まって、周囲をよく見る。
間違いない。この小屋には、扉がなかった。
おそらく隠し扉がどこかにあるのだろう。エイルは壁まで歩み寄って、木目に手を触れてみたが、そのような仕掛けがあるとは思えなかった。
場所を変えて、押したり引いたり、試してみる。だが、とうとう狭い小屋の壁を一巡しても、隠し扉など見つからなかった。
「どういうことだ……?」
思わず、エイルはそう、つぶやいた。
扉がないということは、出入りができないということだ。しかしエイルは、この小屋のなかにいる。気絶したあとに、誰かによって運ばれたのだ。
「この小屋は―――」
エイルは何も考えず、天井を見た。
そして、絶句した。
「よぉ」
そこには人がいた。言葉を失ったエイルに笑いかけ、その人物は腰掛けていた木組みから立ち上がった。
屋根の梁からひらりと飛び降りてきたのは、彼。
あの少年だった。