13話
何度目になるかはわからないが、エイルは沈黙した。もしかして、いままでのひとを脅すような言葉の数々は、この少年の口癖なのだろうか。
「絶対に言わない、と言ったら、信じるか?」
エイルは訊ねた。
対するヴァティの返答は、こうであった。
「信じない。絶対なんて、軽々しく口にするやつは、だいたい約束を守らない」
………先に口に出したのは、お前の方じゃないか、と。エイルは思ったが、それは言葉には出さなかった。
「だったら、この名に誓ってもいい。お前と約束したことは、けしてユリルに言わない」
対し、ヴァティはどこか冷ややかな目付きになる。
疑うような、からかうような、ためすような、そんな表情。
「そう軽々しく“名の誓い”を口にしていいのか?」
「そこまでしなければ、お前はおれを信じようとはしないだろう」
「ふん」
ヴァティは、エイルの正面まで移動し、天界の王子の黄金眼を見上げた。
こうしてみると、ふたりの間には頭半分ほどの身長差がある。
「本当に、それだけの覚悟があるのか?」
「ある」
「本当か?」
ヴァティはしつこく念をおした。
それも当然だ。名の誓いを破れば、その命、名誉、権威のすべては失われる。それは地上で言えば、貴族階級の男たちが交わす剣の誓いに相当するだろう。
天界人にとって。すなわち、エイルにとって。名の誓いを破ることはすべての終わりを意味する。その不名誉からは、たとえ天界の王子と言えども逃れられない。
それは生きながらの死だ。けれど―――だからこそ、エイルは生半可な覚悟でそれを口に出したのではない。
「本当だ」
エイルは言った。本心から。
ヴァティはにらむような半眼になって、エイルを見た。やがて、言う。
「なら、誓え。俺が天界人の血を引くことも、ユリルの呪いのことも、お前の正体のことも、何もかも。ユリルには何ひとつ言わないと」
「誓おう。天界王子エイル―――エイレシオン・デュエの名において」