11話
「従兄弟!?」
聞き間違いか、とすら、エイルは思った。いきなり話が飛んだので、イトコという単語が、すぐには思いつかなかった。
「だってお前、天界の王子なんだろ。天界王の子供だろ」
「ああ……まあ」
子供という年齢ではないが。
「じゃあ、やっぱり従兄弟だ」
「待て、待ってくれ………従兄弟というのは、親が兄弟同士の関係のことを言うんだろう」
「当たり前だろ。お前の父親と俺の母親が、兄妹なんだよ」
「父上の、妹?」
ということは、天界王の妹である。
そのような人物など、エイルにはひとりしか、心当たりがなかった。
天界の禁忌と呼ばれる、ラザーリン叔母だ。
「まさか、ラザーリンの叔母上の!?」
「ああ。息子だぜ」
だって、という声を、エイルは呑み込んだ。天空祭壇で交わした誓いを破り駆け落ちをした叔母がその後どうなったのか、エイルは知らない。
「そんなこと、信じられるか」
「別に、誰も信じてくださいなんて言ってない」
信じないならそれでもいいのだと、ヴァティは言う。
「でもな。事実は何があろうと事実だからな」
「……………」
こんな事態を、誰が予測しただろう。だいたい、地上に来て叔母の名を聞くことすら、この旅を始めたばかりの頃は考えもしなかった。
「じゃあ、叔母上は、どうなされたんだ」
「死んだ」
ヴァティは即答する。
「病で死んだよ」
「病…」
「いくら天界の王族だろうが、地上じゃ普通の人間も同然だよな」
そう言うヴァティの口調は、自身の肉親のことを語っているとは思えないほど、そっけない。
「その様子じゃ、俺のことは知らなかったみたいだな、天界の王様は」
「…、ああ」
「俺のことを天界に知らせるか?」
エイルは、すこし考えた。この目の前の少年がラザーリン叔母の息子だというのなら、彼も天界の王族には間違いない。その存在を報告しないわけにはいかないだろう、だが。
「知らせる、と言ったら、どうする」
軽く相手を脅すつもりで、エイルは言った。
その手段だって、手の内にはある。
しかし、ヴァティの返答はといえば、ある意味予想したものだった。