1話
「実は、な」
とラデン叔父は言った。いかにももったいぶって、深刻そうな顔をつくって。
似合わぬ真似をする、とエイルは思った。普段が底抜けに明るい叔父だけに、その表情がわざとらしく思える。
「何ですか叔父上」
「お前に話があるのだ、エイル―――とても大事な話が」
「またですか」
この叔父は、何事もおおげさに騒がなければ気が済まぬたちである。
先日、眠っていたところを、大変だ大変だという叫び声に叩き起こされたうらみをエイルはまだ忘れていない。そのときは、ばかばかしいことに、自分が食べたはずの茶菓子がテーブルの上に置いてあったということだった。
そんなもの、侍女が補給したに決まっているではないか。
「今度は、飲んだはずの葡萄酒でも現れましたか」
「そんなことで、いちいち騒いだりはしないぞ」
嘘つけ、と口に出さなかっただけ、エイルは大人である。
「では、どうしたのです?」
「うむ」
叔父はたいせつなことをさっさと言わず、悩んで言葉をにごした。
どうせまた、くだらないことだろう。叔父がこういう態度をとるときは、いつもそうなのだ。
予想がついてしまったエイルは、半眼になって叔父を見た。彼が何を言い出そうとも、絶対に驚かない自信はある。
だが。
このわずか数秒後、エイルはこの考えをあっさりと手放すことになる。
叔父は、言ったのだ。
「実は、兄上に頼まれた、お前の婚約者のことなのだが」
と。