第三話「殺し屋」Part.2
――12年前、S国。
同盟国の裏切りにより、この国はまさに激しい戦争の最中であった。
そんな中、アカハチは特殊部隊でもよりすぐりのエリート隊員として、日々要人暗殺を請け負っていた。
毎日毎日、殺戮の血にまみれるうち、アカハチはだんだんと人の心を保てなくなっていった。
そんなある日のこと――。
ちょっとした油断から、アカハチは瀕死の重傷を負ってしまった。
逃げ込んだのは、町外れの小さな教会。
ズルズルと痛む脚を引きずるようにして進んだが、キリスト像の前でついに力尽きてしまった。
(もうだめか‥‥‥)
アカハチは、意識が遠くなるのを感じた‥‥。
( ・・・・ここ・・は・・・・?)
気がつくと、目の前に白い天井があった。
「うぅっ!!」
動こうとすると、右脚に激痛が走る。
「あっ、だめよ動いちゃ!」
修道服を着た女性が駆け寄って来た。
「シスター?俺は一体‥‥‥」
「あなた礼拝堂で倒れてたのよ。まったくあの怪我でよく死ななかったもんだわ。運がいいわよアナタ」
ケラケラと可笑しそうに笑った。
「アンタおかしな女だな。普通シスターならこういうとき、神のご加護、とかなんとか言うんじゃないのか?」
「あら、だってあたしシスターじゃないもの」
「え?」
「あたしね、小さい頃日本から医者の両親に連れられて来られたの」
彼女は語った。
両親が二人とも兵隊に殺されてしまった事。
それからずっと修道院でお世話になっているのだという事。
「シスターなんてガラじゃないしね!」
そう言ってほがらかに笑った。
「アンタ、名前は?」
「美和よ」
「ミア?」
すると彼女はふぅと小さく溜息をつき、ベッドサイドにあった紙とペンで何やら文字を書いた。
「日本の文字でね、こう書くの」
彼女の書いた文字は知らない異国の文字で、アカハチには読めなかった。
「私の国の言葉でね、美しく平和にって意味でつけられたんだって」
美しく、平和。
その意味は、目の前の彼女によく似合っているような気がした。
「美和って、この国の人に発音は難しいわよね。いいわ、ミアで許してあげる」
そう言って笑った。
これが彼女、『ミア』との出会いだった。