第二話「大切なもの」Part.3
「‥‥客様、お客様?」
気が付くと、バーテンが真の肩を優しく叩いていた。
「気がつかれましたか?」
そこはあのカフェではなく、元いたBAR『幸せ一丁目』だった。
「よくお休みになられていたので悪いかと思いましたが、そろそろ始発の出る時間ですので」
時計を見ると、もう五時を過ぎていた。
(一晩中寝ちゃってたのか‥‥)
ふと見ると、肩には膝掛けがかけてあった。
「冷えるといけないと思いまして」
バーテンが優しく微笑んだ。
「ありがとう。ごめんなさい、お世話になったわね」
真は恥ずかしそうに膝掛けをバーテンに手渡した。
「お会計お願いします」
真は、バーテンに料金を払い、深々とお辞儀をして出て行った。
店を出た後、真は眩しい朝日に瞬きしながら背伸びをした。
「ん~~!いい天気!!」
それにしても妙な夢を見たものだ。
(あの日に戻ってやり直すなんて、出来っこないのに‥‥‥)
それでも、何故か真は、胸のつかえがとれたようにスッキリした気持ちになっていた。
(頑張ってみようかな!)
今度彼に会ったら、今度こそあの夢のようにハッキリ断ろう。
そう思いながら向かった駅のホームで、真は思いがけない人に会った。
(俊ちゃんだ!!)
真が彼を見付けると、彼も真を見付け、こちらに駆け寄ってきた。
「久し振りだな!!どうしたこんな朝早くに?」
俊ちゃんこと、俊一はニコニコとまこに話し掛けた。
(久し振り、なんて白々しい。昨日もアタシにお金せびりに来たくせに)
真はちょっと頭にきて不機嫌に答えた。
「ああ、今仕事終わったとこだよ」
すると俊一の顔が驚きに変わる。
「こんな時間まで仕事?無理すんなよ、まこの一人くらい、俺が養えるんだからさ」
「えっ‥‥‥」
真は驚いて俊一を見た。
俊一はそんな真の手をとり、指にはめられた指輪を撫でた。
「この婚約指輪に誓って、まこのこと守ってくからさ」
真は信じられない思いで自分の指を見つめ、そこに確かに嵌められた銀の指輪を見た。
そして、彼の瞳に宿る優しい光に気付き、思わず抱きついた。
「俊ちゃん!!」
「まこ、おい、どうしたんだよ、急に」
戸惑いながら、嬉しそうに照れ笑いする俊一を見て、真は感激に打ち震えた。
(あの夢は夢じゃなかったんだ!)
俊一はもう、結婚どころか仕事もせず、真に金をせびるような男ではない。
真は、本当の幸せを掴んだのだった。
その頃幸せ一丁目では、バーテンがグラスを片付けながら先刻の女性客の事を思い出していた。
(可愛い人だったな‥‥)
ガシャン!!
ボーッとして、グラスを落としてしまった。
(しまった‥‥)
ここは幸せ一丁目。
幸せになれるカクテルを出すお店。
優しいバーテンが、きっとアナタにピッタリの美味しいカクテルを入れてくれることだろう。
特に女性のアナタには‥‥。
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< 次回予告 >
男は、冷徹無非な凄腕殺し屋だった。
無垢な魂が凍てつく心に触れた時、男は何を思ったのか・・・・。
次回【ここは幸せ一丁目】第三話「殺し屋」
☆お楽しみに☆
☆マスターのカクテル講座☆第二回「レッドアイ」
材料:ビール、トマトジュース。(各同量で)
作り方:よく冷やしたグラスに冷えたトマトジュースを注ぐ。冷やしたビールを注ぎ、軽くステアする。
特徴:レッド・アイとは二日酔いの赤い目の意。迎え酒や風呂上がりにピッタリのヘルシーカクテル。素材の味が決め手なので、トマトにこだわって作るバーテンもいるとか。