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ここは幸せ一丁目  作者: 七瀬 夏葵
13/21

第四話「友達」Part.1

大人になんてなりたくなかった。

ずっと無邪気な子供のままでいられたら、こんなに辛い恋もしなくて済んだのに‥‥。


女子大生のメイは、瞬く星空を見上げながら物憂げに溜め息を吐いた。

星空、と言っても、新宿のそれは都会のスモッグの所為か、今は薄ぼんやりとしか伺うことが出来ない。


(まるであたしの心みたい)


ネオン輝く新宿の街の中で輝けない星に自分を重ね、さらに溜息を吐いたその時だった。


ドンッ!!


「キャッ!!」


突然の衝撃に、メイは勢いよく後ろに倒れ込んだ。


「あぃたたた‥‥」


したたかに打ち付けたお尻がズキズキ痛む。

一体何が起ったというのか?

メイは痛みに眉をしかめながら前を見た。


「ごめんなさい!大丈夫ですか!?」


若い男が、心配そうに覗き込んでいる。


(黒服に、蝶ネクタイ‥‥?)


この辺りの店の者だろうか。

新宿歌舞伎町という場所柄、そんな服装は特に珍しく無い。

しかし、歌舞伎町が初めてのメイはしげしげと男を見つめた。


「大丈夫?立てますか?」


差し延べられた手を握り、なんとか立ち上がると、男はなおも心配そうにこちらを見た。


「本当にごめんなさい、何処か痛くないですか?」


メイはまだズキズキするお尻をさすりながら、それでも出来るだけ平常を装い答えた。


「大丈夫ですよ。ボーッとしてたあたしもいけないんで、気にしないで下さい」


言って手を振ったメイだったが。


「あ!血が出てるじゃないですか!!」


言われて見ると、手の平が少し擦り剥いている。


「これくらい・・・・つぅ!」


平気だと言おうとしたものの、滲む血を認識した途端にズキンと痛みが襲って来た。

思わず顔をしかめていると、男はさきほどより更に申し訳なさそうな顔になった。


「ごめんなさい、すぐ近くに私の店があるんです。よかったら傷の手当てさせて下さい!」


男の申し出に少し驚いたが、傷口はジンジン痛むし、目の前には心配そうな顔がある。

メイは素直にその申し出を受けることにした。


連れてこられた先は、歌舞伎町の先にある小さなBARだった。


「ちょっと待ってて下さいね。すぐ傷薬持ってきますから」


男は慌てて奥に引っ込んでいった。 残されたメイは落ち着かない様子であたりを見回す。

店内はさほど広くはなく、幾つかある椅子は、長いカウンターの前に整然と並んでいる。

カウンターの中の棚には、たくさんのきれいなビンや、ピカピカに磨かれたグラスが並んでいる。

メイは、物珍しくそれらを眺めていた。


「ごめんなさい、薬持ってきたんで、傷見せて頂けますか?」


薬箱を抱え戻ってきた男に、メイは素直に手を差し出した。


「ちょっと染みるかもしれませんよ」


消毒液を染み込ませた脱脂綿を傷口に当てた。


「うっ!!」


構えていても、やはり薬は傷に染みてしまい、メイは痛みに顔をしかめた。


「ああっ、ごめんなさい、大丈夫ですか?」


「だ、大丈夫です。続けて下さい」


メイの言葉に、男は少し躊躇いながらもテキパキと手当を進めていった。

傷口に薬を塗り、大き目の絆創膏を貼り付ける。


「ふぅ。終わりましたよ。お疲れ様でした」


「どうもありがとうございました」


お礼を言い、帰ろうとするメイを男が引き留めた。


「あ、ちょっと待って。お詫びに何かお好きな物を一杯奢らせて下さいませんか?」


「でも、悪いですよ‥‥」


遠慮するメイに、男は優しい微笑みを浮かべた。


「遠慮しないで。あなたのお好きなものをお作りしますよ。お酒がダメなら、ノンアルコールでも作れますよ?当店とっておきの、幸せになれるカクテルレシピでね」


そう言ってにっこりと笑った。

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