コミュ強妹
「私クリスさんの大ファンなんですよ! 握手してください! あと良ければサインも!」
「え、あ、えーと……」
「すまんが頼めないか。妹は俺と違って純粋無垢だ」
「そ、そうね……敗者は勝者の言う事を聞くのが普通だものね。けどこれで貸し借り無しよ!」
「いや、2勝してるからな。射撃の試験でもボロ負けだっただろ。そういう意味じゃまだひとつ貸してる」
あの勝負、俺はまだまだ続けられたしストップかかった段階でダブルスコアだった。
教官の合図が無ければトリプルもクアトロも狙えたわけだ。
ただまぁ残弾の問題があるから無限にとは言えないけど、二枚抜き三枚抜きをしていければもうちょい伸ばせたとは思う。
「ぐぬぬ……」
「あぁ、でもクラス分けだから試験結果だけじゃなく過程も重視されるか。そういう意味じゃ順位でまたどっちが勝つかという話になるが……それで決めるか?」
「……やめとくわ。過程がどうあれあなたの方が上位の成績だと思うから」
「どうだか。今度は過程ならぬ家系の話まで出てくるかもしれん。そうなったら一般家庭出身の俺には勝ち目がない」
「それこそこの学園を含めた私達パイロットを馬鹿にする発言よ。戦場で家柄なんて捕虜返還金以外に価値は無いわ」
「まぁ……それはそうかもしれんが」
だからと言って前提からして違うからな。
いい所の出身ならそれなりの訓練ができる。
坂月はその辺詳しく語っていないが、たぶんこいつもそれなりのボンボンだ。
クリスなんか海外でも有名な一族という事で贔屓目が入る可能性がある。
そうなってくると本当にただの一般家庭出身でしかない俺に勝ち目はない。
つーかパイロットがエリート扱いされているならそういうお家柄だけで見られる連中も出てくるだろうしな。
「じゃあもう一つの貸しは凜を鍛えてやってくれ。こいつも歳相応にパイロットに憧れがある」
「あら、憧れなの」
「将来を見据えたものだが、所詮は憧れだ」
侮りというか、少々苦々し気な視線が凜に向けられたのを察した俺はそれに同意する。
だってなぁ、パイロットって一山いくらで換算される立場だから。
言うなれば先陣突っ走る穂先みたいな存在。
折られて砕かれてなんぼ、生きて残ったらすごいね勲章あげちゃう程度の扱い。
「そういう事なら本気でやっていいのよね」
「本気じゃなきゃ意味がない。頼めるか」
「いいでしょう。まぁあなたが教えた方がいいとは思うのだけど。あるいはそちらでにやけている彼とか」
ちらりと坂月を見るクリス。
言わんとすることはわかる。
だが奴には貸しがない。
つーか道案内とかで俺が借りてる立場だ。
あと凜に男を近づけたくないという本音は黙っておこう。
「そりゃ俺だって教えられる事は教えるがな、年頃の女の子だ。同性の方が身体の鍛え方とかもわかりやすいだろ」
「そういうもの? パイロットになったら性別なんて言い訳にもならないわよ?」
「まだ憧れてる段階だからその程度は許してやってくれ。それに男女の筋力差とかそういうのは俺にはよくわからん」
「まぁ……構わないけど、本当に本気でいいのよね」
「むしろ全力全開で頼む」
俺の発言に対し、言質を取ったと言わんばかりの獰猛な笑みが一瞬見えたがスルー。
これで凜もパイロットがどんだけ泥臭いかわかるだろうし、逆にクリスの訓練を乗り越えられるくらいになれば一端のパイロットデビューはできるだろう。
なんなら師弟関係という事で後ろ盾もできるしな。
「そういえばあなたも教えられる事はあるって言ってたわよね。それ、なんかのシミュレーターとか?」
「あー、既存の奴をいじった程度でしかないがな。世間に出回ってるのよりはマシだと思うぞ」
空き時間にデバイスで調べたが、どれもこれも敵配置があらかじめわかってたり、任務が想定通りに進んだりとどうにも一味足りない感じだった。
こう、騙して悪いがみたいなのがないし、イレギュラーが発生しない。
とにかく一本道というやつだ。
「それ、僕も気になるな。良ければ教えてくれないかい?」
「ん? まぁ構わんが……そうだな、例えばだまし討ちやステルススナイプが想定されてないってのはありえないだろ?」
「まぁ、実践訓練なら普通にあるわね」
「シミュレーターにはそういうのがほとんどない。たまにあるから緩急付けられているように見えるだけで、実際は誰もが狙ってくるだろ」
ステルススナイプ、要するに隠れて遠距離射撃だがこれがまた強い。
対人戦でもボス戦でも使える方法で、センサーとかの範囲外から狙撃してくるから一発撃たれないとどこからの狙撃かもわからない。
更に追いかけようとしたら相手はもう移動しているとか当然あるし、何なら一発目を囮に囲んで集団狙撃とか平然とやってくる。
ボス相手には前衛が距離を詰めさせないようにしつつ、超長距離射撃をして削るのが常套手段だった。
「あとは任務内容そのまんまのシミュレーター。絶対イレギュラーが起こらないんだ、つまらん」
「つまらんって……お兄ちゃん……」
凛があきれ顔を見せるが、実際詰まらんのだ。
言われるがままに動けば終わり、うん、悪い事じゃないよ。
それは上官が有能だったらという話だけどな。
実際は戦場を知らない馬鹿が指揮を執る事もあるわけで、そういう時は何か起こって当然と考えておくべきだ。
むしろパイロットならそういう想定外に常に備えておくことが必要になる。
デバイスで調べた限り過去のパレードと、軍事演習でもその差は如実に出ている。
パレードでは全ての機体が盾を持っていない。
これは純粋に機体を見せつけるという意味もあるのだろうけれど、それ以上に市街で発生するような戦闘には盾は不要、むしろ邪魔になる可能性が高いので装備していない。
まぁ住民を守る役割の機体がいるんだろうけど、とりあえず全員がケースレス弾を使った実銃だ。
ビームよりは被害が出にくい類だったな。
一方で演習の際は盾の持ち方を変えたりして、まぁ見た目だけならファランクスって言われた方がしっくりくるような姿勢になっていることが多い。
がっちり前方と左右と頭上を守るようにして盾を持っているのだ。
ステルススナイプや爆撃対策として自然と編み出されていった陣形だろう。
そこから乗り込み、機体の立ち上げ、小隊単位で別れての出撃というのが演習のスタートだったな。
まずパイロットが乗っていない前提から始まるのはなかなかリアリティがあって面白かった。
……そのうちやらされるんだろうけど。
「とにかく内容が一本道すぎたり、こっちの想定を超えてくることがなかったり、明らかにこういう戦術使ってくるだろうって環境でもそういうのがなかったりしてなぁ」
「なるほどね、参考になるよ」
「おう、好きなだけ参考にしてくれ。そんでいくらか取り分あれば文句なしだ」
「はははっ、本当に雨傘君は面白いね。幸助って呼んでもいいかな?」
「構わんぞ、良平」
こうして生まれた友情もどきだが、クリスは納得しながらなにやら考え込んでいる様子。
凜は呆れていたが……結構重要な事言ったと思うんだよ、お兄ちゃん。




