命の危機<シスコン
「あれ、雨傘君?」
「お、坂月」
飯を食い終えて雑談に移行していた俺達だったが、そこに来たのはリッパー女子ことクリスと坂月のコンビだった。
「そちらは……妹さんかな? 目元がよく似ているよ」
「だろぉ? 俺によく似て可愛い妹、凛だ」
「あ、雨傘凜です! よろしくお願いします」
あー、がちがちに緊張して猫被ってる妹も可愛いなぁ。
沈まれ俺の右手、今撫でたらしばらく怒って近寄らせておらえなくなる。
「坂月幸平だよ。こっちは」
「クリス・L・メイラードよ。さっきそこの男にぼっこぼこにされたクリス」
超睨んでる……。
そんなに根に持つほどか?
模擬戦ならあのくらい普通にやるし、こっちもそれなりに頑張ったんだぞ、手加減。
本機だったら同世代機相手に近接戦で負ける事は無い程度には強いからな、俺。
ランカーじゃないが、ラスボス戦まで生き残ってた奴らは大体一芸特化でそれなりの戦闘力あったし。
「Lって……リッパーのLですか!? というかそれをボコボコに!?」
「いや、そこまでじゃないぞ。接戦に見えるように加減はしたし、射撃戦においても足を止めるなって言う基礎を忠実に守っただけだ」
「あ?」
睨みの鋭さがさらに増した……やべぇ、口滑った。
「じゃあなにかしら?」
かしゃんと、少々乱暴に置かれた食器がテーブルの上で跳ねて音を立てる。
クリスの昼食がチャーハンだったからよかったが知る物だったら大惨事だったかもしれん。
「私は手加減されて、その上であの無様を晒したと? それもあれだけ煽った私が、逆に馬鹿にされていたと? 正直に答えなさい」
その手に握られてたのは食事用ナイフ……チャーハンのどこに必要なんだよと思ったけど、坂月がハンバーグ持ってた。
この一瞬で盗ったのか……あ、無刀取りと同じ原理かな。
それなら少し納得できる。
「まぁ落ち着けよ。何も無抵抗の人間を切り裂くのがLの由来ってわけじゃないだろ」
「いいえ? 殺人鬼の祖先を持ち、その類まれなる暗殺術を買われたのがLの家系よ?」
ジャックザリッパー……こっちにもいたんだ。
いや、それはどうでもいいが言ってることが物騒すぎる。
「食器じゃまともに人を切れると思えないしなぁ」
「この程度でも刃物、切ろうと思えば簡単な事よ」
「……痛そうだなぁ」
「痛いわよ?」
にっこりと笑みを張り付けているクリス、これは……どう答えても刺されるルートしか見えない。
本当の事を話したら刺されるだろう、冗談でしたとか言ったらふざけるなと刺されるだろう、嘘ですごめんなさいと言ったら煽るなと刺されるだろう。
……詰んでる?
「さぁ、答えなさい」
「……わかった。話すからまずは座れ。こんな所で暴れるべきじゃないと思うぞ。なぁ坂月」
空気になろうとするなよ、この際だから使えるものは何でも使ってやる!
「……ミスター坂月?」
「あー、うん。そうだね、とりあえず座ろうか」
その言葉にヒュンヒュンとナイフを指先で弄びながら坂月の持っていたトレーに戻したクリスは俺の隣に座った。
だがその手にはスプーン……あれで切りつけようというのか?
なんで逆手で持ってるんだ……。
坂月は凜の隣に……お前凜に手を出したらぶち殺すからな?
「それで、聞かせてもらおうかしら。手加減したって本当?」
「あー、まぁ……ある意味では本当だな」
IQ103の俺の脳細胞をフル回転させて導き出した答えがこれだ。
ある程度は認めてしまえ、だがごまかしを入れろ。
どっかで見たあれだ、嘘をつく時は真実を織り交ぜろというやつ!
もっと言うなら嘘っぽい本当の事と、本当っぽい嘘と、嘘っぽい嘘を交えるってやつ。
真実なんて適当にはぐらかしておけばいいのだ!
「へぇえ?」
下からのぞき込まないで、超怖い。
「けどそれは試験としてという意味だ。殺さないようにコックピットを避ける、地面を蹴り上げて目潰しをしない、機体と武器だけで戦うという意味での手加減だ。要するに奇麗な戦い方を心掛けたってことだ」
「……なるほどね、そういう事ならひとまず納得するわ。けど」
乗り切ったと思ったんだけど、けどってなに⁉
「それをやってたら私はどうなってた?」
「答えにくい質問をしないでほしいな……」
「答えてくれるわよねぇ。隻眼になりたいかしら?」
抉るのか? そのスプーンで抉るのか!?
「想定なら開始直後にコックピットと両手足狙いの射撃。それに紛れて地面を撃って目隠しをする。流石にセンサーまでどうにかできるとは思えないからそのまま突撃、そっちがセンサーと熱探知で迎撃しようとするところに腕を撃ち抜いて、そのままコックピットを刺す。時間にすれば5秒だ」
「銃が無ければ?」
「そん時はさっき言った通り地面蹴り飛ばして砂煙あげるわ。そのまま抑え込んでコックピット串刺し。失敗しても機体にダメージ入るからな」
ボディの胸部にコックピトがあるから、身体をひねって回避したところでどこかしらには当てられる。
そうなれば動きが悪くなったり、最悪の場合だと四肢が動かなくなったりセンサーが死んだりするからな。
パイロットを狙うのは定石よ。
おかげでゲームだった時は終盤PKなんて一人もいなくなってた。
というか絶滅させた。
ランカーじゃない俺等が、旧世代機で次世代機のコックピットをぶち壊して回って機体を売って金に換えて言ったのだ。
結果的にこっちの装備を新調するタイミングを失ったのが俺なんだよね!
格闘戦に限って言えば第三世代が一番向いてたから……こう、世代を重ねるごとに精密になっていくんだけど、第三世代はまだ雑に使っても壊れない頃合いだったんだよ。
あるいは多少壊れたところで問題なく戦えるような設計というべきか。
比較的頑丈なフレームと、可変機構を両立させたことで得た機動性。
一方で機動力は本当に最低限で安全第一みたいな機体だったから。
エネルギーもかつかつだったしな。
「目潰しに避けにくい射撃。確かにできるでしょうけど……」
「それやったら試験官もモニターできなくてどうなるかわからなかったからな。それにあぁいう立ち合いなら正々堂々が俺の性分なの。それが手加減って言葉になったのは煽りみたいで悪かったと思ってる。すまない」
「いえ、こちらこそ頭に血が上ったわ。ごめんなさい」
よかった! 乗り切った!
頑張ったな俺!
「つまり手加減しながら余裕で勝てるくらいに雨傘君は強いってことだね」
「あ?」
坂月ぃ!
お前余計な油を注ぐんじゃねえ!
というかそのにやけ面、含み笑いというか肩を震わせている辺りわざとだなこの野郎!
「いや、俺が強いかどうかは判断に迷うがクリスは強かった。ただ動きが洗練され過ぎていたのが敗因だよ」
「どういうことかしら?」
「奇麗すぎる動きだから先読みもできたし、対処法もすぐにわかった。それを実践に移すのも難しくなかった。要するにかみ合いが良かっただけだ。これがもっと……例えばド素人が相手だと何してくるかわからないから速攻で殺しにかかるしかなくなるんだよ」
格ゲーとかと同じで、ある程度の実力者なら次に何をしたいのかがわかってくる。
上級者になれば何をするかという択を迫りつつ、その裏で本命を隠していたりする。
けれど初心者にセオリーなんか無いから何をしてくるかわからず恐ろしいというのが本音だ。
今回の場合はクリスがそこそこの実力者で、実戦経験が不足していたからこそ楽に勝てたというのが大きい。
……仮に実戦経験豊富でも勝てないとは言わんけど、苦戦はしそうだな。
「なるほどねぇ。泥臭いと言ったのも訂正するわ。ごめんなさい」
「あれはあれで意味のある行動だからな。相手の意表を突くって言うのは戦闘において定石だ。なんかそういうのを持っていた方がいいのは事実、目つぶしとか古典的だが有効だぞ。特にフラッシュ系のは必要エネルギーも少ないし場所を選ばない。重量もそこまでかさむことがないからな」
光を使った目くらましである。
あれやられると地味にうざいんだよな……。
高性能な物になってくるとジャミング付きのライトでこっちの動き封じてくるから。
とはいえ、その程度ならセンサーの出力を上げるだけで対処できるんだけど、その手間とエネルギーの消費考えるとちょっとな……。
「勉強になるわね。けどそれって結局一対一を想定しているわよね。軍事行動的にはどうなのかしら」
「それをこれから学んで行くんだろ。俺もその辺はド素人だからわからんよ」
その言葉になるほどと呟いたクリスはチャーハンを一口食べて「冷めてる……」と呟いた。
坂月はいつの間にかステーキを平らげ、凛と談笑している。
凜は凜で坂月の話を聞いて楽しそうにしているし、クリスへちらちら視線を送っている。
……なんだろう、坂月とはライバルになりそうな気配がする。
シスコンの血が騒ぐんだ。




