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I am spy.

「それではスパイの人は挙手して下さい」

 教室内は粛然たる空気を纏っている。クラスのほとんどが周りをキョロキョロし始める。

 そして、誰も手を挙げていないことに気づき始めざわつく。

 だが、スパイがいないわけではない。

 時間差をつけてある人物が手を挙げる。



 多くの生徒がその驚きを声に出したように聞こえた。先ほどのざわつきよりも遥かに強い喧騒に変化する。



 なぜなら、手を挙げた人物は俺たちの担任である一条雄いちじょうゆうだからである。


「僕がスパイということが分かった人は素晴らしいですね、分からなかった人も退学することにならないように次は頑張ってください。それではこれで今日のホームルームは終わります」

 多くの生徒は唖然としたままである。逆に言うと冷静でいる生徒は先生がスパイの正体であると分かったのだろう。


「なんで、先生がスパイなの?普通に意味が分からない」

 隣の真凛が小さな声で俺に行ってくる。

 だよな、次は頑張れとか言いつつ解説をしないあたりはかなりの鬼教官だ。

 誰かが答えを流しそうではあるけど。


 屋上。


「こんなところで1人何してるのですか?」

 景色を見て黄昏ていた俺の耳に宇治原ひまりの声が聞こえた。

「考え事だよ。それでお前はどうしたんだ?」

「さっきのスパイの件、わたしの解答が合ってるのか気になって」

「合ってたんだろ?」

「結果はそうですけど、大事なのは結果では無く、その結果に行き着く過程だと思っています。」

 なんで俺に聞く?って言いたいところだがこいつには意味のないことか。

 俺は周囲に人がいないか見渡す。


「俺は結果の方が大事だと考えるがまあしょうがないな」

「ありがとうございます」


「まず一つ目、最初にあのルールにはこのクラスの誰かではなく『教室内』と記載されてた。つまり、あの時教室内にいた先生も含まれるわけだ」

「そうですね、ここは私もわかります」

 宇治原は俺の解説に同調する。


「二つ目、先生は学校の課題は『公正で平等』だと言った」

「なのに、運でスパイになればこのゲームは全員にとって平等とは言い難い。もちろん、運は等しく全員にスパイに選ばれるチャンスがあるので平等とも言えるかもしれないですけどね」

 俺の言葉を奪いながら続きの説明をする。


「もう一つ、ルールにはスパイ側について一切記載されていなかった」

「それこそスパイ側としては質問の機会も無くバレなかった時のメリットが分からなく平等ではないですもんね」

 またしても最後だけ持ってかれる。

「スパイには別で質問の機会がある可能性もあるが、この三つが重なるとなると選択肢は先生ぐらいしかいない。そもそも、この課題は本当にランダムに選ばれたスパイを特定する力を求めているとは思えない。」

 宇治原は俺の解答と全く同じだったのか納得した顔になった。


「流石、クローです。やはりこの程度の問題は簡単ですね」

 今回の課題は簡単ではあった。だが、確実性を持って先生としたわけでない。99%と100%は天と地の差があることを俺は心の底から理解している。だから、今回の課題の答えを100%これだと断言できなかったのは仕方がないかもしれないが少し悔しい部分もある。


「これからもこの程度の課題が続くなら、期待してた分、残念だ」

「そうですね、クローにとってはどの遊戯も簡単だと思いますけどね」

「そんなことは無いけどな、レッドブリエル家壊滅の時もビッグベン決戦の時は流石の俺も冷や汗をかいたしアドレナリンもドバドバだったぜ」

 久しぶりに昔のことを思い出した。

 宇治原の顔を見ると目を輝かせながらこっちを向いている。

「な、なんだよ」

「クローのその話もっと聞きたいです。特に単独でガイゼルハード家破壊していった話が聞きたいです」

 その話か…。

「また、今度話さないよ」

「ん?」

「ん?どうかしたか?」

「いや、なんでもないです」

「あと、学校であんまりそういう話をしないでくれ」

「分かりました」

 もし、こいつが俺のスクールライフを脅かす存在だと判断したら、いつでも潰す準備はできている。



 その日の夜、1年生全員に知らせが『SoL』で届いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

     実技課題のお知らせ


 5月31に実技試験であるサバイバルゲームを行います。


 6人で一組となり学年で40組作ります、

 チーム編成は下記のURLより参照してください。


 ゲームの詳細は別途でお知らせしますが星の増減としましては下の表を参照してください。

優勝  10個   ベスト5 3個

準優勝 5個   ベスト10 2個

ベスト3 4個  ベスト20 1個


 それ以下は−1個

※決勝のみ3チームによるもの1対1対1の試合とする。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 サバイバルゲームか...。あまり経験したことがないな。立ち回りさえ勉強すればできるだろうが。


 チームメイトでも見るか。

 俺は下に添付してあったURLを開き、自分の生徒番号と名前、生年月日を入力する。


 チーム22

 1年A組 黒羽悠人

 1年B組 国枝くにえだ》さゆり

 1年C組 碇将暉いかりなおき

 1年D組 斎藤尚弥さいとうなおや

 1年E組 高橋香菜たかはしかな

 1年F組 佐久間茉由さくままゆ


 うーん、誰も分からない。  

 何処か顔合わせの機会は設けられるだろうし俺以外の生徒も同じこと思っているはずだ。仮にも陽キャで交友関係が広い俺ですら思ってるのだもの。


 翌日。すぐにチームのお見合いの時は来た。


「昔、少しだけサバゲはかじってたから、頼りにして欲しい」

 そう言ったのは碇将暉であった。


「そうなんだ、よろしくねー」

 全く感情のこもって無い反応をしたのは佐久間茉由であった。見るからにギャルって感じだ。俺はあんまり好きなタイプではない。

 

「それより黒羽くん、わたし茉由ね、よろしく」

「あぁ、よろしく」

 明らかに態度が違うのを聞いて碇が流石に可哀想に思える。

 俺のイケメン度合いが高すぎるのは本当に罪なことだと自覚する。


「わ、わたし国枝さゆりです。運動はあんまり得意ではないのでお願いします」

 言い方は良くないが根暗な印象を受ける。

「わたしも運動は全然できないんだよね」

 そう言ったのは高橋香菜だった。女子組は全員あまり運動ができそうではない。もしかしたらサバゲで才能が開花する可能性も僅かに残っているが。

 

「尚弥くんはどう?運動とか得意?」

 佐久間茉由が尋ねる。

「それなりに出来るとは思ってるけど、期待されるほどではないな」

「そっか、なら、碇くんと黒羽くん頼りになっちゃうね」

 俺もそんなに期待しないで欲しいんだけどな。そこそこの結果でやり過ごそうと思ったのに。


「どっちにしろ、今日は解散にしよう。顔合わせの目的は達成できたし」

 俺は早く帰りたいのでそう提案する。

「そうだな」

「そうだね」

 そして、その日は解散した。

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