第19話 事件の後始末
照りつける太陽。
吹く風は涼しく陽の暑さを和らげてくれる。
最高のお出かけ日和。
変わりない日常が待っている。
昨日の不安要素が嘘のようだ。
ボロボロな体もくっついて元気いっぱい。痛みは残っているけど……。
流石はリーシア。傷一つ残さず治してくれた。
その代わりにガチ泣きされた。レッゾやブランネの前でも構わず泣いた。
泣いて泣いてブランネに慰められて……ブランネにお説教された。
女の子はムートさんが思うより弱いのだから考えてください、と。
なんか聞いてた話と違う……かなりズカズカきた。
貴族のお娘は心が強いな。
泣くリーシア、慰めるブランネ、とりあえずブランネに追従するレッゾ、反省の僕、何が起こったのか分からず朝9時頃に帰ってきてハテナを浮かべたランス。
全員で騒ぎ立てた。
ランスが早く帰ってきてくれれば……とどれだけ思ったかな。
ランスは鍛冶屋のおじちゃんと仲良くなり一晩過ごしたらしい、おじちゃんの娘にも気にいられたと……ランスめ、巡りが悪い。
殴り飛ばしてやろうか、僕は死にかけたった言うのに。
なんて考えない考えない!
みんな元気に、行きましょう!僕以外の人は元気……元気じゃない人もいる。
「レッゾさん!あの、あの良い香りがするところはなんでしょう?お菓子が出されているのですが、食べて良いのですか?」
「あれは菓子の露店だな。買うまでは食べちゃいけないからな」
レッゾとブランネは元気いっぱいだ。
流石は子供、昨日のことは気にしない。今日は今日、楽しみましょうの精神だ。
レッゾは昨日の服装を継続しているが、ブランネは趣向が変わっている。
ドレスは脱いで平民服、旅服の方が適切かな。
リーシアの服、ミニスカートだ。僕の趣味が反映された服を着ている。健康な足が……。
別に、リーシアのが好きなのであって、なんでも良いわけではないぞ。
ある程度は、まあ好みではある。
服も髪も全てがリーシアアレンジ。
彼女が愛用しているローブも借りてフードで顔を隠している。サイズもピッタリ、リーシアって結構小さいしブランネとそこまで身長差はないので違和感はない。
それだけではバレるのではないか?と思ったが、人避けの魔法を使うので違和感はもたれないとの話だった。
なんだそれ、そんなのあるのか……リーシア天才すぎ。
リーシアのローブのフードは僕が誕生日にあげた彼女のお気に入り。
基本彼女はそれ以外で顔を隠さない。もしかしたら持っていないかもしれない。
だから今日は……
彼女の素顔が晒されている。
目を引かれる白髪、月のような薄金の瞳、幼いながらに妖精族特有の整った顔立ち。
見る機会は多々ある。僕が1番見ている自信がある。
でも外出して彼女の顔をまじまじ見れることは、この2年間1度たりともなかった。
僕としては嬉しい。彼女が何かを乗り越えられた気がして……しかし不安もある。
西方大陸ならよかったが、まだここは北方大陸。
亜人差別がある。
街ゆく人達の目線が生々しい汚物を視ているような目をリーシアにぶつけている。
全員殴ってやりたかった。
昨日の戦闘態勢のままならやっていたかもしれない。けれど、リーシアはただ一言「いい」と言った。
当事者の彼女がいいと言うのなら、僕からなにかすることはできない。彼女がやれというのなら僕はすぐさま飛びかかる勢いだ。
それもあってか、リーシアの機嫌はすこぶる悪い。元気とはかけ離れている。
「何?」
声色に威圧感がある。
顔を見ただけでここまでとは……嫌われたものだ僕も。
リーシアだけにはと思いかっこつけたのが、そのかっこつけも逆効果でリーシアの期限を損ねただけだった。
自分も行ったらこうはならなかった。僕1人で行かせたのが間違いだった。
そんな感情が渦巻いている。
「……俺、帰りたい」
保護者役ランスがなにか呟いている。
駄目だ。最悪な状態である僕とリーシアではレッゾとブランネの面倒を見きれなくなる可能性がある。
お前はそこにいてくれ。
「なあ、2人とも……本気で喧嘩してんの?」
「喧嘩?してないけど」
「いや、してるだろ!さっきから全然会話してねえし空気が重い!」
「してない」
リーシアが凄く端的。
ランスが怯むほど淡々としている。声に感情を感じさせないほど冷たい。
秋季の寒さが霞む……。
確かに喧嘩かと言われると……喧嘩ではない、と思う。リーシアと喧嘩なんてしたくない。
悲しませたのは100が僕のせい。なので全て僕の責任。
ダブルデートなんて提案したのも和ませるため……和めているかは分からない。
レッゾとブランネ。
こんなことさせてはいけないとわかっている。
陽が沈む前にブランネは屋敷に帰らせる。これを条件として1日限りの外出とした。
レッゾの方の親御さんも心配だけど、家出経験があるということでまあ大丈夫かとなった。家出したことのない僕が言うのもなんだが……この状況が家出かもな。
「おい……」
ランスが耳元で話しかけてきた。
「早く仲直りしてくれ。俺の心労も考えてくれ、近くにいるだけで刺されそうで怖い」
誰も刺したりなんてしない、それはランスの妄想だ。
元はと言えば君が道草食ってたのが原因だかんな。
ランスが居てくれればルスト相手にも割と余裕の勝利ができていた。
ランスの耐久と攻撃性能、そこに僕の連携が合わされば
そう!ランスが居れば!
と、言い訳してもリーシアの機嫌が良くなることはない。
何とかして紛らわせなければ……。
「あ!アイツら、どこまで行ってんだよ!」
保護者ランスの目が光る!
先へ先へと行くブランネの手網を握りきれていないレッゾは何とか説明しながら彼女の欲求を満たしている。
それでも足りきらない。ランスは助け舟をすべく駆け足で追っていく。
ランスもランスで、やる時はやる男だ。きっちりやってくれると信じている。
しかし、ブランネ……元気だな。
聞いてた話と真逆の性格な気がする。
内向的な性格が活発的に変わるほど、こちらの生活に興味を抱いているということだ。
お嬢様もお嬢様で、苦労というか不満はあるんだな。
「元気だよね、ブランネちゃん」
ぽつりと、リーシアは発した。
僕に言った言葉とも捉えられるが、独り言のような孤独感もあった。
返すべきか、返さないべきか……返しても損は無い。返してあげるべきだ。
1人にさせない、ここが重要。
「そうだね。聞いてた話とはまるっきり別っていうか……初めて会話した時に面食らったよ」
「昔のムートみたい」
昔の僕……?
言うほど昔な気がしない。今も元気いっぱいだから。
「レッゾくんもムートに似てるよね。何でも1人でこなそうとして、ブランネちゃんにいいところ見せようってかっこつけて」
それは分かる気がする。
彼ほどの勇気はないけど僕とレッゾは似ている。
在り方というか、誰かへの接し方が。
簡潔に言えば好きな異性への接し方。アプローチがすごい。
8歳にしてよくあそこまでズカズカ行けるものだ……僕も割と人のことは言えない。
これが西方式、聖峰教会の教えである。
愛は逃すな、恋は手に取れ、好きは離すな……だ。
意味がわからない。どんな教義だよ、とツッコミを入れることが出来ないほど宗教というのは恐ろしい。
「1人でやるとレッゾくんみたいになるよ」
ああ、今の嫌味に繋げるためか。
回りくどい……正面切って言っても聞いてくれないから死角から殴ってきた。
リーシアも強敵になったものだ。
確かに例があれば人ってのは理解しやすい。
レッゾみたいに……人攫いに捕まることのことを言っている。
冗談にしては笑えない。特にリーシアが言うと。
「そこは本当に、反省してます。ごめんなさい」
今日何回目か……何回言っても謝意に重みがない。
謝罪はやりすぎると信用なくなるんだぜ。
今の謝罪もリーシアの心に響いているとは思えない。上っ面だけの謝罪が推し通ることはない。
反省はしているが、また同じような状況になれば……リーシアの安全を第一に考えてしまうはず。
リーシアは傷つけたくない。
他者から見れば過保護だなんだと非難されるかもしれない。
でも僕は、子犬のように弱々しいリーシアを知っている。何もすることが出来ず、絶望だけで生きていた彼女を知っている。
1度でも見てしまえば、彼女を傷つけさせまいと思い込んでしまうのも必然だと思える。
何より相手はその元凶。
少しでも危険は無くしたい。
無論、リーシアが僕より強いのは知っている。
魔闘法を習得したからといって簡単に勝てる相手ではない。
リーシアに遠距離から魔法を連打されれば負けるのは僕の方だ。
それでも、戦闘の強さと精神の強さは全くの別物だ。
リーシアは戦闘の強さはあるが、精神の強さは少女でしかない。
そう、僕は認識していた。
「……なんでわたしが強くなろうとしたか、ムートわかってる?」
そういえば、聞いたことはなかった。
僕と一緒に居るうちに自然と魔法を身につけて一緒に修行して、それが当たり前になっていたから忘れていた。
彼女には僕のように強くなる必要性はない。
ただ帰るためならば、僕に頼るだけで良い。旅は楽になるが研鑽を積む理由としては、不足とは言わないが理由としては小さい。
では、何故か……それを聞くより前に、リーシアは喋り始めた。
「いつくらいは分からないけど……ふと、思ったんだ」
歩き始める。
レッゾとブランネは遥か遠くに、何とか目視できる範囲にいた。ランスの姿もしっかりあり、2人をみてくれている。
このままでは見失う、だからリーシアの歩みに合わせて僕も歩く。
しかし、遠い。
少し早足なのか、リーシアの方が前にいる。
合わせようとすると、さらに早くなっていく……。
「このままじゃいけないって」
「何がいけないの?」
「ムートの後ろにいるのは……守られるだけなのは違う」
後ろにいるのは駄目だからこうやって早足になっていると?
そんなことじゃない。はぐらかすな。
意味は、理解できている。
しかし、僕自身が守ってあげたいと思っている。リーシアはそういう存在だから……。
「ムートに守ってもらえることは嬉しいよ。わたしとしてはそっちの方が好きだもん。……でも、それだとムートの足を引っ張る、夢の邪魔でしかない」
僕が英雄になるためにリーシアは邪魔だと言うはずがない。
そう思うことはいつかあるかもしれないけど、それは絶対に言わないし思わないと努力もする。
そもそも、リーシアは守らないといけない……………
ああ、そうか。
こういう考えが彼女をそう思わせているのか。
守らないといけない存在。必然的に自分を蔑ろにして、リーシアを優先してしまう。
そうなっていることが、彼女は嫌なんだ。
僕の足手まといだと自覚して、それが嫌だと彼女は言っている。
「だから強くなろうと思った。ムートの背中ばっかり見てるんじゃなくて……」
自然と、彼女とは隣り合わせになっていた。
「こうして、隣に立ちたいな」
……………うん。
言っていい?言っていいよね?言わせてください。
最高すぎない?
いい子というか可愛いというか、やはり天使の名に恥じない。
なんていい子なんだ、リーシアは。
両親に言ってあげたい。あなたの娘は素敵な子ですよ。
嬉しい、が複雑だ。
彼女にこんな決意をさせてしまったことが少しやるせない。
僕の人生は、これから戦いにまみれるだろう。
それを彼女にも背負わせるのは酷というか……。
いや、僕が勝手に決めていい事じゃないな。
彼女が……リーシアがそう決めた。僕の隣に立つと言ってくれた。
なら、決意を踏みにじることはしてはいけない。
静かに受け入れるしかない。
「同じ強さかどうかは分からないけど、わたしも頑張るから何かあったら頼ってね?」
自分もいるから1人で突っ走るな。
僕はなんて、愚かなんだろう。子供だから間違えると言っても、女の子の気持ちがわからなすぎる。
教会の懺悔室にでも行こうかな……ここらへんには、ないな。
西方大陸だ、西方大陸。早く西方大陸に行かなければ。
じゃない。
牧師様に頼るのが悪いわけじゃないが、この問題は他者に介入させていいようなものじゃない。
僕自身が、考えて直していかなければならない問題だ。
大丈夫、年取っていけば自然とわかるようになるさ。
「ブランネちゃんたち見えなくなっちゃうよ、早く行こう?」
満点の笑顔が、視界を覆う。
声も明るい。憑き物が取れたように爽快だ。
リーシアの素顔が、いつもより輝いて見えた。
これを曇らせるのは、しちゃいけない。
守るべき存在なのは僕の中では変わりない。変わりようがない。
共に立ち、共に戦い、共に守り合う。
こうすれば良いだけなのだ。
彼女とは対等でいたい。上も下もない。
リーシアとはずっとこんな関係でいたい。
せっかく彼女がこうやって本音を語ってくれたんだ。
この関係は崩さない。崩れないようにしたい。
何があっても、絶対に……。
*
聖皇歴516年──冬季。
誘拐事件より2週間後──
こうして、今回の騒動は全てが終結した。
とにかく遊んだ。
街の店全てを見る勢いで。無論、全てを制覇できるほど時間もお金もないので程々にだ。
それでもブランネは心の底から楽しそうで、使った分のお釣りが帰ってきた気分だ。
年下の同性と関わる機会が少なかったからか、リーシアはブランネに甘々だった。
お母さんと言ってもいい。眠れる母性が爆発していた。
美少女と美少女の戯れ、絵になる。画家の才能はないので目に焼きつけるだけ焼きつけた。
忘れても言われても忘れないぜ。
レッゾがいいところ見せようと空回りもしていた。
失敗してもなおかっこつける。自分の鏡を見ているようで、応援してくなった。
頑張れレッゾ、お前は出来る子だ。
楽しんで、楽しんで、昼の陽が沈みかけた頃合にブランネを屋敷に帰した。
門番の人達が目を丸くして慌てている間に、ブランネの教育係だという人が出てきた。
名前は、アメリアさんだったはず。
こうしてブランネ誘拐事件はブランネをお屋敷に帰して終了……だと思われたが、カルド侯爵直々にお呼び出しされた。
愛娘が居なくなって1日半ぶりに知らない人達と共に帰ってきたんだ。聞きたいことはあるに決まっている。
レッゾは帰らなかった。
カルド侯爵に謝罪するために。健気だけどどうなるかは正直分からず帰るよう命じたのだが……頑なに、ブランネを事件に巻き込んだ責任を取ると言って聞かなかった。
彼は本当に勇敢であった。
カルド侯爵に呼び出された部屋……応接室というのだろうか。座るだけで腰が柔らかくなるソファ、必要ないのに繊細な絵が彫られた調度品、高級感を漂わせる木目が付いた長机。
これがお貴族様か、と思いながらソファに座るのを躊躇っていた僕に優しく座って良いと声をかけてくれたブランネ。
机を挟んでの対面。
前にはカルド侯爵と思わしき黄金の刺繍が施された執務室を着た黒髪の男性と新たなドレスで着飾ったブランネ。
一礼して、座り。こちらは僕、リーシア、ランス、レッゾ。
険悪な雰囲気になる……かに思えたが、そうではなかった。
ブランネという名の女神の助けで証言はこちら有利。カルド侯爵が娘を大切にしているのは本当らしく、外と完全遮断する教育方針は改めるとの話。
しかし、レッゾ・ロート、彼がやらかしてしまった事への償いもあった。
誰もが緊張の面持ち……レッゾも覚悟していた。ブランネはカルド侯爵を相手に必死に抗議していた。
僕も弁明を差し伸べる……前に、カルド侯爵は決した。
その生涯をカルド家のために尽くすことを。
予想の裏の裏、これは表か、ならさらに裏だ。
用心棒やお手伝い、そういったカルド侯爵家へ就職しろという内容だ。
8歳にしてレッゾは侯爵家への就職が決まった。
軽率に思えるその行動、カルド侯爵の目は何かを見据えていたのだろう。
それともブランネの説得を許しただけの親バカなのか、真意はカルド侯爵当人にしか分からない。
ブランネも大喜び。
レッゾはぎこちない作法で礼をして、レッゾ・ロートとブランネ・ネージュ・カルドの恋物語は一旦の保留となった。
その後は事件の事後報告のようなもので、奴隷売買組織について。
レッゾとブランネは退出させ、教育係の者が責任を持ってレッゾを家に帰すと言い別れをした。
誘拐事件のことは、聞く必要ないしな。
リーシアも少々不安だったが、聞くと言ったのでそのまま同席。ランスは関係ないが一応同席。
今回の主犯はルストとその取り巻き2名、そして郊外に待機していた御者。
全員牢屋行き。然るべき罰を受けるとのこと。余罪含めてたっぷりあるだろうし一生良くて獄中生活になる。
僕がルストと取り巻き2名を倒したことはちゃんと伝えた。
今回は許すが今後は衛兵を呼ぶようと厳重注意で処罰はなし。隣でリーシアが頷きまくっていたのは、あとで謝っておこうと思った。
主犯格のルストに事情聴取をしたが、何も知らないの一点張り。知らないはずがないのに、組織への忠誠だけでしらを切ったと考えられる。
面会するか、と提案を受けたが丁重にお断りさせてもらった。別に会いたいとも思ってないし僕を攫った事を悔いろという気もない。
もう関わりたくもない話だから、そのまま僕の目の届かないところにいるだけでいい。
今回の件で誘拐犯の組織が割れた。北方裏社会では有名のようで手をこまねいている様子。
奴隷売買組織『クラシアウス』。
全国各国に販売網を広げどこぞの国の国王すらも手玉にとっているやばい組織。
関わりたくはないが、もしかしたらターゲットにされるかもとの話だった。
怖い……夜は眠れなくなりそう。
対策として早く北方大陸から抜けることを勧められた。
中居は厳禁なので報酬金と竜車の手配、大陸通行許可証を頂いた。
自分で蒔いた種なので遠慮しようとしたが、お礼ということで食さがる他なかった。
リーシアとランスのパーティメンバー2人からも貰っておいた方がいいと言われては、リーダーとして判断を間違えるわけにはいかなかった。
何より組織に追われるとなると僕たちではどうしようもない。逃亡以外の選択はなかった。
その日のうちにフリァの街を離れることになったしまった。
装備点検は西方大陸に入ってから、西方大陸への入口である商業連盟国コスタールであればレルシアム王国以上に物が揃うのでまあ良いかと納得してたった数日でフリァの街に別れを告げる。
手荷物を宿に置きっぱなしにしていたので、贅沢にも屋敷から宿屋まで竜車で送ってくれた。
竜車……竜車だ。馬のかわりに竜に引かせる貴族、王族が乗ることを許された特別な車。
調教された小型竜。体力も速度も一角馬を凌駕する最強の引手。
西方大陸まで竜車で送ってくださるとの事、本当にカルド侯爵にはお世話になりまくりだ。
屋敷を出る途中、リーシアとブランネが何か話していたが、
「えへへ〜秘密」
乙女の秘密ということで教えてはくれなかった。
秘密なら聞く気はないさ。
可愛いは正義なのでね。
遠ざかる屋敷の前で、精一杯手を振るブランネに手を振り返しお別れをした。
彼女は……成長した気がする。以前のブランネを知らない僕でもわかるほどにこれまでにない良い笑顔をしていた。
荷物を纏めて後にする直前、レッゾが夜間なのにお見送りに来てくれた。
親御さんも一緒に……ご迷惑をおかけしましたと謝るため、そしてお礼をするために。
迷惑はかけられたが僕たちが首を突っ込んだ事なんだしそこまで気にはしないことを伝えても、両親は止まらないよな。
皆さんに一言一言誤っている最中、僕とレッゾの最後の会話があった。
夢の話だ。将来の夢。男同士の友情の示し合わせ。
レッゾの将来の夢はブランネの隣に立つこと。
なんとも時機にかなっている願い事だ。僕も応援する気持ちが強くなれる。
こちらも彼の覚悟に応えて、英雄になる夢を語った。
互いの夢を語ったことで、より一層絆は固くなった。
「頑張ろうぜ」
最後の一言以降、何の言葉もなかった。お互い言葉はいらないと判断した。
ブランネだけじゃない。レッゾも成長した。
リーシアも僕も。唯一何もなかったランスを除いて、今回の事件に関わった皆が一段成長できた。
騒動が今以上に大きくなりそうな予感は外れていてほしい気持ちでフリァの街を離れる。
何事もなければ、また来よう……。何年後でもいい。
生きていれば機会はある。その時は強くなって組織なんて気にしないようにすればいいだけの話だ。
そんな決意を置いていくほど竜車は早い。
たった2週間でレルシアム王国から、駆け足気味で大陸間の境目に到達した。
西方大陸。
故郷がある大陸。
思ったよりも早かったせいで達成感というのがあまりないが、これも1つの巡り合わせによって起きた偶然の喜ばしい縁の賜物だ。
感謝して渡ろうと思う。
こうして僕たちは、早めの西方大陸入りを果たした。