英雄の遺志
アレンは、冷たい夜風が吹きつける中、手早く火を起こした。長年の傭兵生活で培った技術を駆使し、小さな炎を保ちながら野営の準備を進めた。森の静けさが、先ほどまでの激しい戦いの余韻を引きずっているかのように感じられる。アレンは体の疲れを感じながらも、携帯食料を取り出し、食事をとる。
食べながら、ふとある噂話が頭をよぎった。傭兵なら誰もが一度は耳にしたことがある話だ。時を止める目を持つ英雄――彼はかつてフェル王国を大国へと成長させる原動力となった存在だった。その英雄は、圧倒的な力で敵を打ち破り、戦場で無敵の存在として知られていた。しかし、フェル王国は彼を裏切り、その結果、彼は無念の死を遂げたと言われている。
「英雄の力は魔道具となり、今もフェル王国のどこかに眠っている…」
アレンは自分に言い聞かせるようにその噂を思い返す。
「その力を求めて、多くの傭兵が遺跡に送り込まれていると聞いていたが…まさか本当だったとは。」
アレンの片目には、今も異様な感覚が残っていた。遺跡で手に入れた魔道具が、彼の体と一体化してしまったのだ。まさか、自分が噂の英雄の力を手に入れることになるとは思ってもいなかった。しかし、この力がもたらすものが何か、まだ理解しきれていない部分も多い。
「もし、この力が本当に英雄のものであるなら、フェル王国に戻るべきではないのかもしれない…」
アレンは考えた。今の状態で王国に戻れば、彼はどうなるのか、どんな運命が待っているのか、想像するだけで不安が募る。
フェル王国に戻ることへの恐れ、そして新たな力をどう扱うべきかの悩みが、アレンの心を支配していた。彼は深い思考の中で、今後の行動をどうすべきか決断できずにいた。
火の温もりが次第に体を包み込み、アレンは疲れ切った体を休めるため、眠りにつくことにした。だが、心の奥底には、不安と緊張が消えることなく残り続けていた。