停止した刻の中で
全ての感覚が途切れたかのように感じたアレンは、暗闇の中で一瞬混乱した。だが、それは錯覚だった。実際には、彼の体から魔力が全て吸い取られた結果、体の感覚が一時的に麻痺したに過ぎなかった。
「な、なんだ…これは?」
アレンは痛む頭を押さえながら、周囲を見渡した。目の前には、今まさに彼に切りかかろうとしていたゴブリンが、その剣を振り下ろす寸前の姿勢で動きを止めている。そして、彼の視線を追うように、周囲のゴブリンたちも全く同じように停止していた。まるで時間が完全に止まっているかのようだった。
「どうなってるんだ…?」
心の中でアレンは自問し、冷静さを保とうと努めた。状況を把握しようと頭をフル回転させたが、理解が追いつかない。だが、理解ができなくとも、この状況を利用しない手はない。彼はその短い瞬間に思考をまとめ、行動を決めた。
魔力切れによって鉛のように重くなった体を無理やり動かしながら、アレンは動かないゴブリンたちに近づいた。敵がまるで石像のように立ち尽くしているこの奇妙な状況に戸惑いを感じつつも、彼はためらうことなく剣を振り下ろし、次々とゴブリンたちを切り倒していった。まるで無防備な標的を斬るように、彼は一体一体を確実に仕留めていく。もはや戦闘とは言えないその行動は、まさに処刑のようだった。
全滅させた後も、周りの時間が停止しているような感覚は続いていた。アレンは息を整え、異常な状況に戸惑いながらも、冷静さを取り戻すために再び周囲を観察した。しかし、何も変わらない。あたりは静寂に包まれ、時間だけが止まっているように感じられた。
「これが…魔道具の力なのか?」
アレンは自問し、手にした魔道具の力を思い出した。どうやら、彼が手に入れたこの神秘的なアイテムが、この奇妙な現象を引き起こしているようだ。だが、その詳細はまだ分からない。ただ一つ確かなことは、この力は時間を停止させるものだということだった。
7秒ほどが経過したとき、突然、周囲の時間が再び動き出したように感じられた。停止していたゴブリンたちの姿が崩れ、切り裂かれた体が次々と地面に崩れ落ちる。まるで何事もなかったかのように、時間が再び正常に流れ始めた。
「…やはり、あの魔道具の力か。」
アレンは呟きながら、再び深呼吸をした。この異様な体験に戸惑いを覚えつつも、彼は自分が持つこの力をどう使うべきかを考え始めた。この力は強大であり、使い方を誤れば自分自身をも危険にさらす可能性がある。だが、同時にこの力を使いこなせば、遺跡を脱出し、仲間たちと再び合流するための大きな助けになるだろう。
「まずは、出口を探さないと。」
アレンは新たな決意を胸に、剣を握りしめた。彼の中で何かが変わり始めていた。この未知の力が、彼の運命を大きく変えることになると、彼は直感していた。
重くなった体に鞭打ち、アレンは再び遺跡の奥深くへと歩みを進めた。遺跡の出口を探しながら、彼は慎重に歩を進め、次なる戦いに備えた。時間を停止させるこの力は、彼の最も強力な武器となるだろう。しかし、その代償が何であるかは、まだ知る由もなかった。
彼の冒険は、今までとは全く異なるものになりつつあった。