ビジュエール・セイント
「悠星くん!」
自分達から離れていく彼を追いかけようとするが、沙織の手によって止められる。
「駄目よ明日香。悠星は私達の為に囮になってくれたの。私達は逃げるのよ。」
「イヤだ。」と泣き叫びたい、が思いとどまる。
沙織の手は震え、口を一文字で食いしばっていたから。
彼女も自分と同じ気持ちなのだ。
「悠星くん。」
涙が流れる。
また助けられた、彼に。
大好きな彼を助けたくて頑張ってきたのに、また自分は・・・。
Prrrrrr。
非常口の鉄製の扉を閉めてカギを閉めたと同時に沙織の携帯が鳴る。
着信先は白露瑠璃子からだ。
「サオリ、今どこにいる?アスカは?」
「明日香は今一緒にいるわ!それより大変なの!悠星が!」
「ユウセイがどうしたの?」
瑠璃子の声色が少し変わる。
沙織は早口で今の状況を説明。
「二人とも至急屋上まで来て。」
「屋上?」
「そう、ユウセイを助ける為に。」
通話が切られた。
二人は顔を見合わせ、階段を駆け上る。
幸い、トカゲのバケモノはこの非常階段の存在には気付いておらず、二人は何事もなく屋上に到達することが出来た。
外に出ると上空から突風とヘリの音が。
報道用ヘリでも救助用ヘリでもない、個人所有のヘリだ。
そのヘリは屋上へ無事に着地。
後方の扉からは瑠璃子が降りてくる。
そして運転席と助手席から二人の大人の女性が。
明日香と沙織にとってその二人は顔馴染み。
黄白色の髪を肩口真で伸ばしている美しい大人のお姉さん雰囲気がある女性――雪羽根樹里。
もう一人は物静かでボーイッシュな印象の大人な女性――蓬里乃亜である。
「サオリ、アスカ。無事でよかった。」
ほっと胸を撫で下ろし、そして手にしている小型アタッシュケースを横にして開く。
そこには髪飾りと指輪が入っていた。
ピンク色デイジーが模られたリボンの髪留め。花びらの中央にはアメジストが装飾。
もう一方の指輪は白の桔梗が模られた指輪で花びらの中央にはサファイアが装飾されている。
「最終調整は終わっている。」
瑠璃子の言葉に彼女達は頷き合い、明日香は髪飾りを、沙織は指輪を手にする。
「・・・・・・。」
髪飾りを見つめる明日香。
緊張で手は震え、顔も強張る。
そんな彼女にそっと肩に手を添えたのはスーツを着ている樹里だった。
「落ち着いて明日香ちゃん。」
「樹里さん。」
「訓練通りにすれば大丈夫よ。」
その励ましで手の震えは止まり、緊張も和らぐ。
「樹里と乃亜は逃げ遅れた人の避難誘導を。敵――トカゲのバケモノの総称をリザードマンと固定――はワタシ達三人で掃討する。」
「わかりましたお嬢様。」
「お気を付けて。」
「アスカ、サオリ、行くよ。」
「うん。」
「ええ。」
瑠璃子の掛け声に明日香は髪飾りを胸の前に、沙織は指にはめた指輪を前に突き出し、そして瑠璃子は髪を耳にかけてエイレイソウの形をしたルビーのイヤリングを露わにして指で弾く。
「「「JEWELLERY DRESSUP!」」」
それは音声識別のパスコード。
三人の声にそれぞれの宝石が反応。
眩い光を解き放ち、それぞれを包み込む。
紫の光に包まれた明日香。
彼女が着ていた服は粒子となって消え、全裸からバンドゥビキニとスパッツの姿へ。
―SET ARMOR-
機械音を合図に紫の光が各部位に収集。
うち反りした二本の角が付いた額当てと紫色のフェイスガード。
両肩には楕円形の大袖。
洋風の胸当てと小手、腰には可愛らしいミニスカートと剣が装備。
脛当てに先端が尖った靴をそれぞれ装着。
明日香は女剣士―――ジュエリー・アメジストに変身を遂げた。
隣にいた沙織も同様、サファイアブルーの光に包まれる。
全裸からセパレート型レーシングブラと紐ショーツの姿になると―SET ARMOR―の機械音を合図に各部位へ光が収集。
左側頭部にI字アンテナとスライド可能のスポーツサングラスが搭載されたヘルメット。
胸部には重量感ある武装付きのアーマーで左肩に可変スナイパーライフルが装着。
両腕には特殊樹脂であしらえた手袋の上に武装が搭載された小手が装着。
臀部には金属加工されたスカートが。
側部には特殊フレームが収納、後ろにはハンドガンが2丁。
足にも重量感ある武装が装着され、沙織は狙撃武装――ジュエリー・サファイアへと変身した。
そして瑠璃子も。
赤い光に包まれて全裸。
次の瞬間、ホルダーネックのモノキ二型のボディスーツを着用。
同じく―SET ARMOR―の機械音を合図に各部位に光が収集。
両サイドにI字型アンテナ搭載のライダーヘルメットに重量級の鎧。
肩と背中、太腿には特殊フレームで連結された金属製の湾曲盾。
両腕には沙織同様、特殊樹脂製の手袋に機械製のグローブ。
変身した瑠璃子のその姿はまさに重戦士。
その名はジュエリー・ルビー。
こうして三人は装輝戦姫として、変身を遂げる事に成功した。