終わりに
コンコンコン。
窓を叩く音に微睡の脳が覚醒。
その音に導かれカーテンを開けるとそこには制服姿の沙織。
「お帰り沙織、身体の方は大丈夫?」
「ええ、何も異常がなかったわ。」
沙織の言葉にほっと安堵。
彼女は今しがた病院で検査を受けていたのだ。
「それよりも悠星の方は大丈夫なの?」
「ああ、ぐっすり寝たお陰で。」
あの時倒れた理由は3日連続徹夜のせい。
勿論、怪我の影響もあったが、根本的な原因はエナジードリンクを飲み続けて限界まで起き続けていたから。
結局俺は1日半、死んだように眠り続けた。
現在は無事回復。
「沙織やルリ、明日香にも随分心配をかけたね。ゴメン。」
「ねえ、そっち行ってもいい?」
「いいよ―――ってちょっと待って。」
窓の冊子に足を乗せ窓から渡って来ようとする沙織の行動に驚き、咄嗟に彼女の手を掴み自分の元へと引き寄せる。
「危ないだろう、落ちたらどうするつもり?」
「だって1秒でも早く悠星の傍に居たかったから。」
俺の胸元に顔を埋める沙織。
吸血鬼を倒した後、俺は気を失う様に寝ていたし、沙織は検査入院で会えない期間があったからその反動が今ぶり返している模様。
「ねえ悠星、何で貴方がダークダイヤなの?」
その質問に俺は全てを白状する。
前世の事も含めて、自分がダークダイヤになった経緯を全て話した。
「そんな経緯があったのね。」
「俺からも質問してもいいか?いつから俺がダークダイヤだと気付いた?」
気を失う寸前、ダークダイヤに向かって俺の名前を呼んでいたし、それ以前から俺の正体に気付いている素振りが幾つかあった。
その質問に沙織は顔を真っ赤にして恥ずかしそうに答える。
「吸血鬼に初めて襲われた後、その・・・瑠璃子と、3人での時に。ほら、キスしたでしょう。あの時、ワタシが作ったカルパッチョのソースの味がダークダイヤからしたから。それで。」
「成程、それでバレたのか・・・。」
納得。
(良かったぁ〜、それで納得してくれて。本当の事なんて言えない。寝ている時に何度かキスしていてその時の感触と一緒だったからなんて、絶対に言えない。)
「ルリはその事にいち早く気付いたから俺に協力してくれている。」
「全て納得したわ。これで胸の支えが無くなったわ。本当にもう、もっと早く教えてくれたらよかったのに。」
「ルリがあれだけ怒らせた後、何を言っても聞いてくれないだろ。」
「まぁ、そうかもしれないわね・・・。でも、もっと早く教えて欲しかった。」
より一層身を寄せ、抱きついてくる。
「もう一つ教えて、悠星は瑠璃子と付き合っているの?」
「ルリは俺にとって大切な女性だ。」
「そう。」
気丈に振舞う沙織。
無理しているのが手に取るようにわかる。
だから俺は自身の想いを口にする。
「沙織、愛しているよ。」
「っ!!」
耳元で囁くとビクッと体を震わして喜びを見せる。
「ルリの事も好きだ。でも俺はそれと同じぐらい沙織の事も、そして明日香の事も好きだ。快羅なんかに、他の誰にも渡したくない。アイツの手で穢されるぐらいなら俺が。」
「あっ!」
優しくベッドへと押し倒す。
「ちょっと悠星!こ、こんな事・・・・・。」
「大丈夫。ルリなら許してくれるさ。」
「許してくれるって。悠星は瑠璃子と付き合っているのでしょう!だったらこんな事は――――」
「沙織、愛している。俺では、駄目?」
「バカ・・・・。」と一言漏らして目を瞑る。
受け入れてくれたのだ。
優しくキス。
「ちゅっ・・・ちゅ・・・、はむっ・・・ちゅっ。」
俺からの口づけを受け入れ、深いキスを味わう。
「沙織、指輪を出して。」
不思議そうにサファイアの指輪を取り出す。
「沙織は牧崎にも、快羅にも、誰にも渡さない。これがその決意だ。」
それを俺は受け取り、左手の薬指にそっと嵌める。
そう、吸血鬼がした行為を上書きするように。
「あっ・・・・。」
嬉しそうに指輪を眺める沙織にそっと近づき、耳元で囁く。
「今日はこのまま俺のベッドで一夜を明かしてもらうからな。」
「・・・・・・・・・悠星のスケベ。」と呟いた沙織は小さく頷いた。




