混沌を照らす光
モール内はパニックに陥っていた。
何処に逃げればいいか、統率が取れておらず、皆散り散りバラバラに。
スタッフすらも恐怖で正気を失っているのだ。
そんな中、俺は二人を安全な場所に導く事を最優先する。
幸い、明日香も沙織も運動神経はいい方。
だから上手くいけば逃げ切れる、そう思っていた。
「シャーー!」
驚異の跳躍力で俺達の頭上を飛び越え、先回りしたトカゲのバケモノ。
灰色の全身と爪、牙には多くの返り血が。
細長い舌を見せつけ、俺達を恐怖に陥れようとしている。
「沙織、非常口!」
俺は近くに転がっていたパイプ椅子を投げつけて注意を引かせる。
「明日香、こっちよ。」
明日香の腕を掴み、方向転換したのを視界の端で確認。
トカゲのバケモノが二人へ向かわせない為に買い物カートと共に突進。
「シャー!」
力の差は歴然で簡単に受け止められて押し返される。
スニーカーが擦れる音と焦げた匂い。
「でもそれは承知の上・・・。」
沙織は明日香の腕を掴み非常口へと逃げ込む時間稼ぎができればいいのだ。
(そして後は隙を見て――っ!)
トカゲのバケモノの舌が俺の右眼を狙う。
焦った俺は大袈裟に避ける。
だがそれが良くなかった。
それにより押す力が弱まった事でカート吹き飛ばされ、俺は下敷きに。足に激痛が走った。
反射的に倒されたカートを払え退ける。
それを見越してか、トカゲのバケモノは太い尻尾を横振り。
受け止める事も避ける事できず、吹き飛ばれて壁に激突。
「悠星!」「悠星くん!」
「来るな!逃げろ!」
咳込みながら叫ぶ。
トカゲのバケモノの意識が非常口まで逃げ込んだ二人の方へ向く。
「行かせるか!」
痛む背中を省みず、駆け出して尻尾を脇に抱えて行手を塞ぐ。
(これは!)
地面に転がっているハサミを発見。
手にして高々に掲げて掴んでいる尻尾に突き刺す。
「ジャー!!」
痛みの叫び。
尻尾を激しく揺さぶり、再び吹き飛ばされる。
「ジュロロ・・・。」
爬虫類の黄色い眼が俺を初めて捉える。
赤い血を流された事で俺を敵と認識したようだ。
瞳孔が開いている眼は血走ってる。
睨まれて一瞬怯む俺。だが、トカゲのバケモノの後方にいる沙織達の不安げな顔が見てすぐに金縛りが解ける。
「おいバケモノ!かかってこいよ!」
大声を張り上げたのは相手を俺に意識付ける為と沙織達を逃がす為。
「っ!」
沙織が息を呑む表情が見えた。
彼女は俺の意図を読み取ったのだ。
背を向けて逃げる。
この場から離れて沙織と明日香の安全を確保したい思いからの行動。
(よしついてきた!)
追いかけてくるトカゲのバケモノ。
至る所からの痛みを堪えながら走り逃げる。
沙織と明日香を逃がす為に。
「シャー!!」
俺の言葉を理解したのか、トカゲのバケモノは身を伏せ、二足から四足へ。
走る速度が一気に速まる。
俺はエスカレーターを駆け降り1階へ。
これは考えがあっての事。
(トカゲは変温動物だ。低温の場所には弱いはず。)
向かっているのは食品コーナーの倉庫、低温保蔵倉庫だ。
上手くいけば倒せる。
倒せなくても逃げ延びる事ができる。
だが、その思いを打ち砕く光景が目の前に広がっていた。
「なっ!」
食品コーナーには無数のトカゲのバケモノで溢れかえっていたのだ。
食材を貪り、逃げ遅れた人々の死体を弄ぶトカゲのバケモノ達の行為に俺は驚愕、足が止まる。
本能が逃げ延びれない事を悟ったのだ。
気が付けば後ろから追いかけてきたトカゲのバケモノの太い尻尾を不用意に受け、お菓子が封入されている段ボールの山まで吹き飛ばされていた。
肩を強打して激痛が走り、口から血の味が。
起きあがろうとする俺の腹部を踏みつけるトカゲのバケモノ。
俺を追いかけてきたヤツだ。
奇声を上げ周囲の注目を集める。
俺を見せしめにするつもりだ。
(ああ、俺はここで殺されるのか・・・。)
明日香と沙織はうまく逃げ延びたのだろうか。
朦朧とした意識は腹部を踏みつけられた事で無理矢理引き戻される。
「が、が・・。」
踏みつける足に力が徐々に増し体内の空気が無理矢理出され、内臓も外からの圧に悲鳴をあげる。
「シャシャシャシャ。」
俺が苦しみもがく様を眼にしてトカゲのバケモノの口が大きく裂ける。
「くっ、そ。」
抵抗も意味なし。
身体中が限界を訴え、視界が霞み始めてきたその時、
ズーン!
頭上から何かが大きく崩れた音と振動が。
天井から落ちる砂埃。
異質な物音にトカゲのバケモノ達が少し騒めき始める。
動物的本能が何か危険を訴えかけたのだろう。
俺を踏みつけていた足の圧が無くなった。
今がチャンスだと察して地を這うように逃げだす。
「そこまでよ!」
後方から聞こえた少女の声。
トカゲのバケモノの群れが、そして俺もその声が聞こえた方を振り返る。
「あ、あれは・・・。」
俺は言葉を失う。
それは三人の少女達であった。
未知の金属に身を包んだその姿は俺が良く知る姿。
前世の俺が故郷から持ち運び、長年研究の到達点。
八重島快羅に奪われた未知なるエネルギー〈ストーンジュエル〉から作られた戦士。
「装輝戦姫 ビジュエール・セイント・・・。」