手掛かり
「ユウセイ、サオリは寝た?」
「ええ今しがた。」
整った呼吸での寝息を立てている沙織。
気持ちが落ち着いた事で疲労が出てきたのだろう。
俺に抱きしめられたまま寝たので、ベッドに寝かせてシーツを静かに被せる。
視線で合図するルリ。
俺は物音を立てないように部屋を出て、屋上へ。
「サファイアの指輪に記憶されたデータ。サオリの言う通り吸血鬼の味方をしている人間が映っていた。」
ルリのスマホに表示される動画。
サファイアの動きを邪魔する若い女性の姿が写し出されていた所で映像を止める。
「眼が真っ赤に輝いていますね。この人が沙織が言っていた眷属ですか?」
「吸血鬼の伝承には吸血鬼の血液を体内に取り込ませる事で眷属にする事が出来る、と記されている。」
俺はルリからスマホを受け取り、その女性の顔を凝視。
「俺の記憶にはない人ですね。この女性の身元ってわかりますか?」
「既に調査済み。木之本蒼衣19歳。高校卒業後アイドルグループ『セフィア』のメンバーとして加入。芸能活動を行っている。」
セフィアと言う単語に引っ掛かりを覚える。
「どこかで聞いた単語だ。何処だ?思い出せ・・・・・・・・・・・、そうだ!赤間!赤間が言っていた。確か喜多街陽子が所属していたアイドルグループ名だ。」
「喜多街陽子・・・、前にユウセイを誘惑してきたあの人、ね。」
あの、ルリ・・・、眼が凄く怖いのですけど・・・・。
「すぐに思い出した。ユウセイ、もしかしてあの女性に興味があるの?」
「ありませんよ。全く。露ほども。」
「本当に?あの女性、ワタシは好きになれない。」
睨み付けるルリの迫力にたじたじ。
その拍子に映像が再生される。
――蒼衣、そのまま沙織ちゃんの身体を支えていろ。――
「え?」
スピーカーから聞こえた吸血鬼の声に俺は慌てて停止。
「変身しているサファイアを沙織と呼んだ?どうして沙織の名前を知っている?」
「ワタシ達の情報は一切開示されていない。絶対に漏洩されないように徹底されている。それなのにどうして?」
「それに今の沙織の名前を呼ぶこの発音・・・聞き覚えがあるぞ。」
巻き戻してもう一度聞き直し、確信を得る。
去年海水浴に行った時、初対面なのに馴れ馴れしく「沙織ちゃん」と呼んだあの男の顔が浮かび上がる。
「間違いない。牧崎雅行だ。」
沙織を執拗に付け狙っていた芸能プロダクションのスカウトマンでマネージャー。
「ユウセイ、牧崎雅行は木之本蒼衣のマネージャー。」
「本当ですか、ルリ先輩!」
今まで阻んでいた霧が拓けてきた、そんな気がした。
「牧崎雅行、調べる必要がある。」
頷き合い、俺達はすぐさまラボへと駆け戻った。




