ジェノ・ブリークス
「ユウセイ、結果が出た。」
「こっちも出ました。まさかこんな結果が出るとは・・・・・・。」
一日中ルリの研究室に籠り、今まで倒したリザードマンとこの前手に入れた吸血鬼の血痕の解析を行っていた俺達。
寝ずの番であったがアドレナリンとエナジードリンクのお陰で眠気は一切ない。
「リザードマンですが、コモドオオトカゲとクロコダイル、そして人間の遺伝子が発見されました。どれも地球産ですね。」
「吸血鬼も同じ。ナミチスイコウモリとニホンオオカミ、そして人間の遺伝子。全て地球。でもタランシュラの方は全く違う遺伝子。地球上のどの生物にも該当しない。」
「つまりリザードマンと吸血鬼はこの地球上の生物をかけ合わせて造られた生物―――合成獣と言って差し支えないでしょう。」
「ユウセイ、ジェノ・ブリークスにキメラを作製できる科学者はいるの?」
「わかりません。」
「分からない?ユウセイはジェノ・ブリークスに詳しいはず・・・。」
「タランシュラは以前の俺の母星ブレンリッド星を滅ぼした張本人だったから詳しかっただけです。そもそもジェノ・ブリークスは謎多き集団なのです。」
知的生命体を襲い、その星を破壊する殺戮集団――ジェノ・ブリークス。
その全貌は未だ解明されておらず謎が多い。
分かっている事は首領と呼ばれるボスが数多くの幹部を従えている、と言う事。
その幹部の正確な人数も把握できている者は首領以外、誰もいない。
拠点の場所やその首領の姿さえ判明していない謎だらけのジェノ・ブリークスの行動理念はただ一つ。
破壊と殺戮。
狙われた星々は隅々まで喰い滅ぼされ、最後は塵となり消え去る。
「ジェノ・ブリークスに滅ぼされた星は数多くあります。ブレンリッド星を含めて。でも、このようにキメラを使っていたという話は聞いた事がありません。」
「ユウセイには話してなかったけど、実はリザードマンの最初の襲撃時、行方不明になっている人達がいる。もしかしたら―――。」
「合成獣の素材の為に攫われたと・・・。可能性はありますね。ルリ、吸血鬼から採取された人間の血液、DNA鑑定は可能ですか?」
「可能。そこから人間の素性が特定出来れば、何かが分かる。」
「お願いします。ん?」
「どうしたのユウセイ?」
ルリから受け取った吸血鬼の解析結果で一つ気になる箇所を見つけたのだ。
「えっと、これなのですけど・・・・・・。」
その所を説明しようとした時、研究室中に突如大音量で鳴り響く警告音。
「な、何の音ですか?」
「緊急連絡!何があったの?アメジスト。」
大急ぎで通信を開くルリ。
スピーカーから聞こえたのはアメジストの涙声だった。
「せ、先輩!大変です!お姉ちゃんが!お姉ちゃんが!」
その言葉は俺の血の気を急激に引かせた。
「沙織!!」
「悠星?!」
病室の扉を勢いよく開けると点滴を受けて横たわる沙織の姿が。
首に巻かれている包帯が襲われた事実を突きつける。
上体を起こした沙織を抱きしめる。
咄嗟に出た行動だった。
「良かった、無事で。本当に。」
抱きしめる腕から伝わる沙織の体温。
彼女の無事を噛み締める。
「サオリ、何があった?」
「吸血鬼に襲われたの。」
沙織の説明に耳を傾ける俺達。
「人間が吸血鬼の味方を?」
「ええ、眷属と言っていたわ。」
「ユウセイ、サオリをお願い。」
棚に置かれていたサファイアの指輪を持って病室を出るルリ。
「体調は?」
「軽い貧血。今日は遅いから明日詳しく検査して何もなければ明後日退院できるわ。今、明日香に頼んで私の家から着替えを持ってきて貰っているわ。」
「無理しなくてもいいよ。」
気丈に振る舞っているのは一目瞭然。
「今は俺しかいない。無理に気丈を張る必要はないよ。」
見開く沙織の眼に浮かび上がる涙。
しかし涙が流れることはなかった。
姉としての自負が上回っているのだ。
「大丈夫。私は大丈夫だから。」
「そう、か。」
もう一度、そっと抱きしめる。
小さく震える沙織。
俺は気づかないふりをした。
サラサラの髪を透くように優しく撫でる。
「悠星・・・・、もうしばらくこのままでいい?」
「ああ。沙織が満足するまで傍にいるよ。」
その言葉にようやく沙織の身体から緊張感が無くなる。
恐怖に震える彼女の心が癒えるまで俺はずっと温かく包み込んだ。




