強襲
「ハァ・・・。」
自室のベッドに制服のまま倒れ込む沙織。
彼女の気持ちはモヤモヤしたまま。
その理由は明確。
瑠璃子のせいだ。
「何で電話に出ないのよ。」
話があるから放課後残って、伝えたのに無断早退。
しかも悠星と二人で。
それから1日経つが音沙汰なし。
「悠星も何も言わないし。二人で何をしているのよ、バカァ。」
不意に唇をなぞる。
ダークダイヤにキスされた事、カラダを弄られたあの日の事を思い出す。
正直嫌な気持ちは一切なかった。
寧ろもっとして欲しい、と言う気持ちが勝っていた。
幾度もイかされた感触はまだ残っている。
「無理矢理だったけど気持ち良かった。私の事も大切にする感じで。」
初めて犯されたあの恐怖感はなかった。
黒い仮面の奥からの眼差しから感じた優しさ。
「・・・この気持ち、どうしたらいいのよ。」
ふと向けた視線の先にはカーテン越しの悠星の部屋。
彼は未だ戻っていていない。
(いつからだろう。こうやって視界を遮るようになったのは。)
昔はカーテンがなく、窓から互いの部屋を行き来していた。
なのに今は隔たりがある。
「変わった・・・。変わらないで、て言ったのに。」
幼少の頃みたいに、姉弟のような近い存在でいて欲しい。
「そう願ったのに変えたのは私。カーテンで遮ったのも。悠星の事を男として意識し始めたのも。全て私から。」
大きなため息。
そして起き上がる。
「駄目!このままじゃあ。」
自分から動く事を決意。
瑠璃子の家に向かう事にしたのだ。
服を着替える手間さえ惜しくそのまま外へ。
空はやや夕暮れに差し迫る模様。
「ちゃんと聞かないと、二人の関係を。そして―――きゃあっ!」
曲がり角で女性とぶつかる。
「ごめんな「助けてください!」え?」
謝る声を遮り、助けを求める若い女性。
「い、今、吸血鬼に襲われて、怖くてここ迄逃げてきたのです。」
「何ですって!」
その言葉が正しい事を証明するかのように姿を見せる吸血鬼。
「また証拠にもなく女性を。」
逃げてきた女性を後ろに隠し、変身のポーズ。
「JEWELRY セッ―――ちょっと何をしているの!(何?力が強い。こんなの女性の力じゃ―――)」
腕ごと抱きしめて沙織の動きを封じた女性。
「今です。マスター。」
「よくやったぞ蒼衣。」
不敵な笑みを浮かべ二人に近付く吸血鬼。
身動きを封じられた沙織の肩を掴み、そして首筋に犬歯を突き立てる。
グサッ!
「あっ・・・・・ああ・・・・・・。」
その瞬間、沙織の身体から力が抜ける。
「じゅうる、う、上手い。思った通り――いやそれ以上の極上だ!」
歓喜の声を挙げ、夢中で血を吸う吸血鬼。
麻痺状態を受けたかのように沙織の身体は自分の意思で動かせない。
「蒼衣、そのまま沙織ちゃんの身体を支えていろ。」
「はい。」
(わ、私の名前を知っている?どうして?)
考えが纏まらない。
それどころではなかったのだ。
臍辺りに当たる熱い感触。
これから自分の身に何が起こるのかを察知し、悪寒が走る。
「や、やめて・・・・。」
「さぁ、沙織ちゃん・・・。遂に沙織ちゃんを俺様の眷属に・・・。」
抵抗できない沙織の片足を持ち上げ、挿入しやすい体勢へ。
今から起こる現実に血の気が引く沙織。
「(い、いやよ・・・・。ここまで守ってきた初めてをこんな形で・・・・こんな化け物に・・・。そんなの、絶対、絶対に)い、いや~~~~~~~!」
心からの悲鳴にサファイアの指輪が応える。
サファイア色の光に吸血鬼と蒼衣は目が眩み、衝撃波で吹き飛ばされる。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・・。」
ジュエリー・サファイアへと変身を遂げた沙織だが、両膝から地面に崩れる。
血を吸われた影響でまともに立つことが出来ないのだ。
霞む視界に吹き飛ばされた吸血鬼が近づいてくるのが見え、ふらつく手でビームガンを構えて引き金を引く。
が明後日の方向へと放たれるビーム。
「だめ・・・。狙いが定まらない。」
不利な状況、撤退を試みる。が、それを蒼衣が許さない。
「は、離して!離しなさい!!」
腕にしがみつく蒼衣を乱暴に振り払う。
自分の力すら支えられないサファイア。
ふらついた事で体勢を崩したことで再び吸血鬼に捕まる。
ビームガンを持つ腕を壁に叩きつけられ、再び血を吸われる。
「がっ・・・ああ~~~~~。」
「沙織ちゃんの血、美味しいよ。これから毎日飲んであげる。オレ様の眷属として、飼ってあげるよ。」
「だ、誰が眷属に、なんか、あぁあ~~~~。」
深く犬歯を刺され、痛みに体が震える。
「ち、力が、入らない。助けて・・・。」
ビームガンは手から離れ、ガクガク震える両足も自分の身体を支えられない。
薄気味悪い笑い声を出す吸血鬼。
このままサファイアの初めてを奪おうと動く吸血鬼に襲い掛かる一陣の刃。
「させない!」
「ちっ、またしても邪魔が入ったか!」
アメジストの投げた剣をひらりと躱した吸血鬼。
状況の不利を察し、気を失う蒼衣を脇に抱えて上空へと逃亡。
アメジストは追いかけない。
飛行能力がない事もあるが、それ以上に倒れたまま動かないサファイアの方が心配だった。
「お姉ちゃん。しっかりして!お姉ちゃん!!」
何度も呼び掛けるアメジスト。
しかしサファイアの眼は開かれる事はなかった。




