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思い返される惨劇

ピチャン、ピチャン。

 太陽の光が遮断されている下水道。

 水溜まりを踏みつける音が響く。

 そのモノ達は地上の人達に気付かれる事無く、光なき道をただひたすら進む。

 向かうべき場所へ確実に。



「悠星くん。どっちがいいと思う?」

 明日香の問いに俺は真剣に考察した結果、右手に持つビキニ水着を指さす。

「こっちかな。ピンク色のフリルが付いたこの水着の方が可愛い明日香に似合うと思うよ。」

「本当に!じゃあこっちにしようかな。」

「ほら悠星、これはどうかしら?」

 明日香と入れ違いに姿を見せる沙織の手には黒の谷間から腹部が大きく露出しているモノキニ水着。

 俺は心底驚いてしまう。

 何故なら去年着ていた白のビキニ&パレオという清純派王道から大舵を切ったからだ。

「それはちょっと過激すぎないかな・・・?」

 去年着ていた水着でも数多のナンパが押し寄せ、しまいに芸能界からのスカウトされたのだ。

 今手にしている水着を披露すれば去年以上更なる騒動が起こると確信。

「止めておいた方がいいと思うけど。去年の事があるし。」

「大丈夫よ。もしそうなってもまた悠星が助けてくれるでしょ。」

 素敵なウインクに頷かされる俺。

「でも・・・・確かにこれはちょっと過激かな?他にするわ。」

 沙織が自重してくれたことにほっと胸を撫で下ろす。

(アレはマズい。絶対に男達が言い寄ってくる。)

 そんな俺の心情を読み取ったのだろう。俺の耳元で「この水着は悠星の前だけで着てあげるね・・・・~~~。」と顔を赤面、恥ずかしそうに呟く。

「恥ずかしいなら言わなければいいのに。」

 揶揄うも恥ずかしさに耐えきれず自爆した沙織に苦笑。

「ぅるさい。」と言葉を残して明日香の元へ。

 楽しそうに色々な水着を見て回る二人を遠目で眺める。

「ふう。これは今年も二人の護衛で忙しくなるな。」

 もうすぐやってくる夏に期待を込めていた時だった。

Grrrrrrrrr!

 突然モール中に響き渡る非常ベル。

「何何々?」

「火事か?」

「皆様、落ち着いてください。今スタッフの者が原因を確認しています。どうか慌てずその場に待機してください。」

 店員の声に困惑していた客達は落ち着きを取り戻す。

「悠星くん。」

 非常ベルに驚いた明日香と沙織が俺の隣へと駆け寄る。

「大丈夫だよ、明日香。」

 青ざめる明日香の手を強く握り落ち着かせる。

「そうよ明日香。悠星が近くにいるし。」

「とにかく、状況を良く確認して落ち着いて行動しよう。」と言った時、

「ぎゃあああ!」の悲鳴と爬虫類の奇声が一階から聞こえた。

 俺は店から飛び出し、吹き抜けフロアから一階を見下ろす。

 するとそこには逃げ纏う人々とそれを追いかける大きなトカゲのバケモノの姿が。

「ッ!」

 俺の心臓が大きく跳ね上がる。

 軽い過呼吸に陥ったのだ。

 足の力が抜け、崩れ落ちる。

「悠星くん!どうしたの!」

 隣からの明日香の呼ぶ声が遠くから聞こえる感覚。

 俺は目撃してしまった。

 あのトカゲの胸元にある紋章を。

 逆三角形に3本の雷が刻まれた紋章。

 そう、俺の母星――ブレンリッド星を滅ぼしたジェノ・ブリークスの紋章だ。

(ジェノ・ブリークスが地球に?い、いつの間に?!)

 あの時の残虐が脳に浮かぶ。

 防衛策は次々と突破され、何十年もかけて創設された美しく立派な街並みは一瞬で火の海と化し、紋章を付けた蜘蛛のバケモノ達が次々とブレンリッド星人を襲っては捕食されるあの惨劇を。

 あの時の悲鳴が忘れていたはずの当時の状況を鮮明にフラッシュバックさせたのだ。

 このまま俺の意識はあの悪夢へと引き込まれて―――。

「悠星!」

「っ!」

 沙織の声が俺を現実へと引き戻す。

 両頬に添えらえた沙織の手が俺の冷えた体に熱を取り戻させてくれた。

 そして明日香は俺の手を強く握りしめてくれている。

「落ち着いた?」

「ありがとう沙織。」

 落ち着きを取り戻した俺の視界には1階で逃げ纏う人々を次々と捕まえては引き千切り、齧り殺すトカゲのバケモノ。

 恐怖と悲鳴、そして血の匂いとトカゲのバケモノから発せられている異臭が充満しているこの混沌とした状況の中、明日香も沙織も俺の為に残ってくれていたのだ。

 二人の手は若干震えている。

「明日香、沙織。早くここから逃げよう。」

 呼吸も元通りとなり、足にも力が入る。

 立ち上がり逃げ出そうとした時、トカゲのバケモノの視線がこちらに向き、脅威の跳躍力で一気に2階へと到達したのだ。

「キャアアア!」

 2階からも悲鳴が上がる。

 トカゲのバケモノは手を伸ばし女性店員の髪を鷲掴み、肩口に牙を突き刺す。

「沙織、明日香!逃げるぞ。」

 俺達は全力疾走でトカゲのバケモノから逃げ出した。

 

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