知られざる敵
「チャージ完了。」
「ありがとうございますルリ先輩。」
サファイアとの戦いで消費したマントのエネルギー補充の為、俺は放課後、ルリ先輩のラボを訪れていた。
「サファイアと戦ったの?」
「ええまあ。」
言葉を濁すが、結果を催促してくるのでかいつまんで答える。
「順調。このままサファイアを堕としてユウセイのモノにする。」
「正体を明かして協力を求めた方が良いのでは?」
「それはダメ。上手くいかない。」
ルリ先輩がその根拠について説明する。
「沙織は強情。一度決めた事は滅多に曲げない。」
「そうですね。」
「ダークダイヤとの初対面は最悪な状態。あの時、ユウセイの事を明かしても信じてくれない可能性大。」
確かにその通りだ。
正体を明かしたとて「偽者!」「悠星に乗り移ったのね!」と敵対視してくるのが目に見えた。
「だから完全に堕とした後に正体を明かした方が効率良い。」
ルリ先輩の言う事はよくわかる。
「ユウセイ、その後のサオリの様子に変化は?」
「そうですね。今朝方、いつもよりも早い時間に俺の家に来たぐらいでそれ以外はいたって普通ですね。」
瞼を開けた時、目の前に沙織の顔があって思わず驚きの声を上げてしまった。
「今サオリはユウセイとダークダイヤとで気持ちが揺れ動いている。このまま奪いとる。」
「奪いとるって、どちらも俺ですよ。」
「ユウセイ、今日の夜の予定は?」
「また唐突話題を変えましたね。ええ、今日の夜は空いていますよ。凱修さんの所へ行くのは明日ですし。」
現在、週に三回凱修さんの所で古武術を習い続けている。
「なら夜間パトロール、手伝ってほしい。」
「夜間パトロール?」
何かがあった事を察知する。
「吸血鬼が出た。」
「吸血鬼?」
「被害者は分かっているだけで三人。被害者は全員20代女性。いずれも死因は出血多量によりショック死。首元にこのような傷が残されていた。」
ルリ先輩から渡された写真に写されていたのは女性の首元。
そこには犬歯に噛まれた二本の歯跡が。
「ここから血を吸われたと。確かに吸血鬼の仕業に見えますね。」
「それが最初の被害者。裏に事件発生日時が記載されている。」
俺は写真の裏を見て驚く。
「ちょっと待ってください。この日付って先輩とデートした日の二日前じゃないですか!何でここまで情報が遅いのですか?」
「当初は通り魔の犯行だと警察が決めつけていた。そして3件目―――つまり一昨日起きた事件でこの写真が撮られた。」
続けて見せてくれた写真には夜空を駆けるように飛ぶ大男の姿が。
肌は灰色っぽく背中には蝙蝠の羽、異様に発達した犬歯が特徴的な四角い顔。
銀色の短髪に全身は毛で覆われている姿が写し出されていた。
「これは目撃者がスマホで撮影した映像。バケモノ――吸血鬼と呼ぶ――は被害者の血を吸っている最中、2人組の男性に目撃されてすぐに逃亡した。」
「逃げた?随分小心者―――いや用心深いのか?」
「多分後者。吸血鬼は女性を人気のない所へ攫い犯行に及んでいる。目撃者達は当時かなり酔っていて人気のない所で催すつもりだったから。」
「成程。つまり先輩はまだ発見されてないだけで他にも被害者はいる、と。」
「ワタシはそう考えている。後、今警察にはここ最近で不審死や不審な事故についてまとめてもらっている所。」
「俺達が知らない所でジェノ・ブリークスが秘かに活動している可能性は十分ありますね。」
「後気になる事はもう一つ。エメラルドとパールがあの男に勅命を受けて密かに動いている事。それについても調べている途中。」
「快羅は一体何を?どちらも放置は出来ないですね。」
「うん。パトロールは今日から行う予定。サオリとアスカからも了承は得ている。吸血鬼の行動範囲は過去の3人の被害者からある程度絞られている模様。それを元に夜、巡回する。」
「狙われているのは若い女性。あの先輩、大丈夫ですか?先輩や沙織達に危険が――――。」
「問題ない。何かあった時はユウセイが守ってくれる。」
「うっ、卑怯ですよその眼は。」
期待に満ちた眼差しにたじろぐ。
「そもそも3人がバラバラに動いたら俺一人で守れませんよ。」
「そこは心配ない。二人一組で動く。ワタシとユウセイはフォロー。基本はアスカとサオリが動いてもらう。それにワタシ達が動かないとジェノ・ブリークスは倒せない。」
「そうですね・・・。わかりました。俺、頑張ります。」
「うん、頼りにしてる。」
ルリ先輩から行動パターンについて説明を受けた後、お互いの意見交換などをしていたら瞬く間に時は過ぎ、空は暗闇の世界が始まりを迎えていた。




