沙織の葛藤
「やーいやーい、デカデブ女。」
それは小学生の頃に言われてきた言葉。
幼い頃の沙織は部屋でおままごとよりもボール遊びやかくれんぼなどに夢中。
男の子と混じって遊ぶ活発な子供だった。
当時、髪も今みたいに伸ばしていなかったので男の子とよく間違えられる事も。
小学生になると体型は横へと増え始め、それを冷やかす同級生の男の子との言い争いになり最後は殴り合い。
その当時はまだ男子より大柄であった為、負ける事はなかったが度々先生に呼び出された。
そんな沙織は2次成長期の発達が他の人よりも早く著しかった。
小学3年に痩せ始めると同時に女性らしい体型へみるみるうちに変わり、小学4年時にはDカップまでに成長、一際目立つ存在に。
その頃くらいに初めて告白された。
「俺と付き合ってほしい。」といってきたのは沙織の事をデブ等と散々小馬鹿にしていた男の子。
勿論その場で断った。
それ以降も多くの男の子から告白されるが、そのどれもが太っている事を馬鹿にしたり、影で笑っていた人ばかり。
この時から沙織は男性に対して不信感を抱くようになり現在に至る。
あからさまな拒絶はしないが、男子と二人きりには絶対ならないよう常に気を配っているし、勘違いさせない行動を心掛けている。
だからこそ、彼女に今まで浮いた話は一切ない。
それは隣にいる幼馴染の男の子の存在もあるが・・・。
沙織にとって悠星は物心着いた時からの付き合い。
その頃の悠星は本を読む事が多い、家に閉じこもり気味の子供だった。
そんな彼を外に連れ出していたのが沙織。
1つ違いだが子供の頃は常に一緒、隣にいる事が当たり前だった。
そして悠星は沙織の身体の変化に対して全く対応を変えなかった唯一無二の存在だった。
「男子の言う事なんて気にしなくていい。沙織は沙織だ。」
「沙織は他の人より成長が早いだけ。すぐに他の人も追いついてくるから大丈夫。」
事ある毎に励ましの言葉を送る彼に救われた事は1度2度ばかりでない。
まだ背丈が低かった幼い彼が優しく頭を撫でてくれた事は今でも覚えている。
大切で大事な思い出。
そう、その時からだ。
悠星の事を意識し始めたのは・・・。
そして今まで進展がなかったのは単に度胸がないから。
姉として隣にいる事が居心地良いから。
そして明日香と瑠璃子の気持ちに気付いているから。
「・・・・本当にもう、最悪。」
外は心地よい日差しなのに沙織の心はどんより雲が厚く覆っていた。
その理由は身体に残っている感触。
昨夜ダークダイヤに自身のカラダを好き勝手に弄られた感触が生々しく残っているからだ。
(あ~もう!ムカつく!)
昨夜の事を思い出すだけで腹立たしい。
本番とキスは阻止したが、それ以外は許してしまった事。
ランジェリーモードを脱がされてカラダの全てを手や舌を愛撫された事。
それ以上に自身のカラダがダークダイヤの行為に快楽を覚え喜び、求めている事。
そしてもう一つ。
行為後、気を失っていた沙織をダークダイヤは手厚く看病。
衣服を整え、夜風で冷えないようにマントを被せて目を覚めるまで紳士的な対応で傍にいてくれた。
その時、優しく頭を撫でてくれたのを悠星だと勘違いした自分自身がどうしても許せなかった。
(何で私はアイツを悠星と間違えたのよ。アイツは私のカラダを穢しただけではなく、瑠璃子を手籠にした敵なのに!)
憎い敵なのに、どうしても心の底から憎めない。
たった2回。
ダークダイヤに2度犯されただけなのに沙織の心にはダークダイヤの爪痕が大きく残されていた。
心と身体がバラバラになっている感覚。
鏡を見れば少し疲れが表情に出ている。
(ダメ!気をしっかり持つのよ沙織。こんな弱った姿、明日香や・・・何よりも悠星には見せられない。)
頬を二度叩き、そのまま朝のシャワーへ。
ダークダイヤに犯された感触を今一度洗い流す。
身支度を整えていざ隣の悠星の家へ。
いつもよりも早い時間。
合鍵を使って中へ、悠星の部屋まで直行。
「Zz z z。」
「幸せそうに寝て。私の気持ちも知らないで、バカ。」
ベッドの中で眠る悠星の寝顔。
トクントクンと胸が高まる。
それはダークダイヤの時とは違う心温かい感情。
「よかった。私はまだ悠星の事が好きだ。」
無意識に出て言葉は沙織を突き動かす。
「悠星・・・。チュッ。」
寝ている悠星の顔に近づいてキス。
唇同士の細やかな触れ合い。
でもそれだけでは足りなかった。
もっとほしい、という衝動は沙織の行動を大胆にさせる。
舌を隙間から捻じ込むように悠星の口内へ。
「はむっ、ちゅ、ちゅる、んん。悠星・・・・好きよ。」
夢中で悠星を味わう。
悠星への想いを再確認しながら。




