ゴクドーの知略
「エメラルド、ルビー様から指示。撤退しているタランシュラを追撃。」
「分かりましたわパール。逃しはしません。」
退却し始めているタランシュラを追撃。
その行動に一番驚いているのは他でもないルビーであった。
「エメラルド、パール?何をしているの?」
自分が受け持った場所のタランシュラを全滅させた後、戦況を確認したルビーはフェイスガードに映し出されている二人の行動に驚く。
「追撃?ワタシはそんな指示出していない。」
すぐに引き返すように、とメールを送る。
が、
「送信エラー?!妨害を受けている・・・。いつのまに?!」
動揺が走るルビーの背後から忍び寄る影。
周囲の風景に擬態するマントを身に着けたそれは振り上げた右腕を勢いよく振り下ろした。
ガキン!
「ッ!」
間一髪肩に装着していたシールダーで防御。
その場から飛び退き、襲い掛かってきた相手と対峙。
「他のタランシュラよりも大きい・・・、親玉?」
「ワレの名はゴクドー。偉大なるジェノ・ブリークス首領の幹部の一人でアル。そしてこの地球の侵略を任されたモノ也。」
ぎらつかせる金色の丸い眼から感じるのは怒りと殺意。
「接近に気付けなかったのはそのマントのせい。」
「その通りだ。前に襲った星で手に入れたものだ。」
「通信機能を阻害したのも―――。」
「ワレ達の仕業だ。キサマを孤立させるため。戦いを制するにはまず司令官を落とす事が鉄則であろう。」
ゴクドーが手にするのはハルバート。
かなりの重量をあるにも拘らずゴクドーは片手で軽々と振り回す。
「ワタシを簡単に倒せると思っているのなら間違い。」
腰から鞭を取り出し構えるルビー。
睨み合いが数十秒。
置き去りにされた空き缶が地面に落ちた音が戦いの火蓋の合図となる。
何度もぶつかり合う金属音が戦いの激しさを表す。
ゴクドーが振り回すハルバートを受け止めるとかなり重たい振動が伝わる。
「強い・・・。シールダー、いって。」
接近戦は不利だと判断したルビー。
間合いを広げると同時に6基のシールダーを展開。
いつもの戦法へと切り替える。
(強い。)
6期のシールダーの連携にも遅れを取らないゴクドー。
そればかりか若干押し返されている場面も。
口を一文字に紡ぐルビーの額には汗が一滴、頬まで流れ落ちる。
攻めに好じるもいつの間にか防戦に転じられる苦しい戦い。
「落ち着く。冷静に対処すれば負けない。必ず好機が来る。」
自分自身に言い聞かせるように呟いたのは焦りを悟らせない為だ。
更なる複雑で精密な連携でゴクドーを追いつめようとする。
「フン、やはりな。」と小さく呟いたゴクドー。
自身の考えが正しい事を確信。
ゴクドーは今までルビーの戦いを影から観察していたのだ。
企みが上手くいく、とほくそ笑むゴクドーの目の前を高速で動き回るシールダー。
「ええい、ちょろまかと!鬱陶しい。」
フェイントを見せて隙を生み出そうとするシールダーの動き。
「見つけた。」
好機を見出したのはルビー。
高速で動いていたのは数を悟らせない為だ。
ゴクドーが目の前で動き回るシールダーに気を取られる隙に背後から密かに襲いかかる一基のシールダー。
刃がゴクドーの背中を狙う。
が、
「あまい!」
逆立つ頭部の毛。
実はゴクドーの後頭部にはもう一つ眼が隠されていたのだ。
眼から放たれた高熱光線により大破するシールダー。
「そんな・・・。」
自慢の盾が一撃で壊れた事に驚くルビー。
その隙をゴクドーは見逃さない。
「今だ!!」の合図にルビーの足元の地面に亀裂が。
身の危険を察知、飛び退いたと同時に地面から現れたのは2匹のタランシュラ。
それぞれが口から吐き出した粘糸はルビーの腕と足に絡んで動きを封じられる。
「ッ!シールダー!!」
本能で呼び戻されたシールダーはタランシュラ2匹をすぐに倒し、粘糸を除去する。がそれはゴクドーに背を向けた事を意味していた。
「セッイヤー!」
力の限り振り回したハルバートにより破壊されたシールダーは3基。
残り2基はゴクドーが吐いた粘糸で地面に落とされ、機能を停止させられた。
「思った通りだ。キサマはこの動く盾を操作する余り、自身の動きが疎かになるようだな。」
ゴクドーに言い当てられ、下唇を噛むルビー。
シールダーの操作は物凄く難しく、天才のルビーでも立ち止まって操作するしかできないのだ。
粘糸で蜘蛛の巣を作り、ルビーを吊す。
「さて、ようやくキサマに恨みを晴らせる事ができる。同胞を殺された恨みを、な。」
「ワタシはすべき事をしただけ。恨みを買う筋合いはない。」
「餌如きがほざくな!!」
「ギャアアアアアア〜〜〜。」
ルビーが落とした鞭から発せられた電流が粘糸を通して彼女の全身へと感電。
苦痛の悲鳴にゴクドーは歯をカチカチ鳴らして喜ぶ。
「ガガガ、中々の武器だ。粘糸との相性も良い。戦利品として頂くとしよう。」
「まだ、ワタシは、負けて、いない。」
「息絶え絶えでも心は折れておらぬか。イイゾ、完全に屈せられては面白くない。何故なら同胞達が味わった痛みはこんなものではないからだ。」
一心不乱に鞭とハルバートを振るうゴクドー。
息止まらぬ猛攻にルビーは歯を食いしばり耐える。
悲鳴は敵を喜ばせるだけの養分でしかない事が分かっているから。
ルビーの防御力はピジュエール・セイントの中で一番で彼女自身、その強固さに自信を持っている。
だから耐えれると考えていた。
事実、ゴクドーの攻撃を受け弾いている。だが、攻撃の手は緩まらない。
それどころか勢いは増していく。
いくら強固な鎧でもいつかは壊れる事をゴクドーは経験上熟知しているのだ。
「ガガガ、どうだ!いつまで耐え続ける!」
鎧越しから伝わる振動と痛みに悲鳴が漏れそうになる。が、唇を噛み耐える。
「ん!・・・、ワタシ、は負けない。(大丈夫。耐える事は慣れている。ワタシはずっと耐えてきたから。)」
最愛の母を突然失った悲しみにも嫌悪感しかない父親からの性的暴行にもずっと耐え続けてきた。
だから今も耐えてみせる。
これを耐えきれば好転すると信じて。
だが、そんなルビーを前に嘲笑い続けるゴクドー。
自身の猛威に成されるままの彼女に高揚するばかり。
ゴクドーは陰湿な性格。
ハルバートは鎧や武装を狙い、鞭は肌や装甲が薄い箇所ばかりを狙う。
今まで幾多もの生命体をこのように暴行を加え、屈伏させてきたのだ。
ピキッ。
耐え続けてきた鎧に出来た小さな亀裂。
その事実が両者に大きな影響をもたらす。
瞼を固く閉じ真実から目を背けるルビー。
一方活路を見出したゴクドーは亀裂が入った箇所を攻め立てる。
小さな亀裂は次第に大きくなる。
それは耐え忍んできたルビーの心を削られているのを表している。
そして遂に砕けた鎧。
露出した臍部にすかさず鞭を叩き込む。
「ああん!」
初めての悲鳴は城壁が崩れた事を意味している。
ゴクドーはここぞとばかりに鞭を振るう。
歯を食いしばり痛みに耐えようとするルビー。
しかし一度崩れてしまった城壁は簡単には立て直せなかった。
次々と痛ましい悲鳴がこぼれ落ちる。
「ガガガ、オマエの負けだジュエリー・ルビーよ。」
砕けた鎧は脆い。
ハルバートが振るわれる度に鎧や武装は次々とは壊され、露わになる箇所に鞭を激しく打ち付ける。
そしてルビーの装甲の大部分は破壊され、身体に張り付いたボディスーツだけになると嬉々として鞭を振るう。
心地よいルビーの悲鳴を奏でさせるために。




