迫られる決断
「サファイアにアメジスト、聞こえる?エメラルド、パール、応答して。・・・駄目、無線が繋がらない。」
縦横無尽にシールダーを操作して周囲に蔓延るタランシュラを一掃したルビーは眉を顰める。
彼女は緊迫する渦中の最中。
実はほぼ同時刻、タランシュラの群れの出現が3箇所で報告されたのだ。
それぞれ数Km離れており、各所で被害も出ている模様。
なのでアメジスト・サファイア組、エメラルド・パール組に分かれて出動。
比較的規模が小さい場所をルビーが一人で受け持つ事に。
「通信をジャミングされた?でもメールは生きている。なら連絡は可能。」
戦闘前に上空へと打ち上げたドローンによる敵影センサーを用いて敵の動きを確認。
「エメラルドとパールにそのまま、北上の連絡。新たに出現した箇所はワタシが担当。」
手早く指示を送り、すぐさま移動。
一番規模が大きい箇所は火力が高いアメジストとサファイアが担当。
機動力があるエメラルド・パールと単独行動ができるルビーが臨機応変に移動する運び。
敵影センサーで感知された新たな出現箇所へと移動を開始する。
「エメラルド、ルビー様からの指示。このまま北上。」
「わかりましたわ。」
「気をつけて。前回やられた腹いせでかなりの敵対心を持っている。」
ビジュエール・セイントの中で戦闘経験が一番あるパール。
彼女はタランシュラ達からの異様な怒りを肌で感じ取っていた。
「そうね。前回より戦いにくいわ。私達の隙を常に狙っているみたい。」
エメラルドは別の場所で戦っているアメジストを心配する。
「エメラルド。」
「わかっているわパール。私達が頑張ってアメジスト達の負担を減らさないと、ね。」
「アメジスト、左!」
「てや~!!」
暴走族と警察達の避難が完了した事で大手を振るう二人。
周囲への被害を気にせず遠慮なく力を存分に発揮する。
「アメジスト、気をつけて!また数が増えてきているわ。」
「わかった!」
嬉々として戦うアメジスト。
彼女が目の前の敵に集中できているのはサファイアのフォローがあっての事。
接近戦を仕掛けるアメジストを邪魔するモノは全て狙い撃ち落としていた。
だからこそアメジストは一点集中でタランシュラを倒していた。
一方でサファイアはこの現状に若干の危機を抱いていた。
(敵は怯む事無く、私達の所に集結している?何故?)
胸騒ぎ。
嫌な予感を抱きながら引き金を引き続ける。
「相手の狙いは私達のエネルギー切れ?それとも足止め?」
思考を巡らす中、敵を倒す事も疎かにはしない。
「この現状をルビーに報告した方がいいかもしれない。」
ライフル銃からハンドガンに持ち替え、片手で文字を打ってメールを送信。
2分後、ルビーからの返信にはこう書かれていた。
――二人はこのまま、その場の制圧優先。こちらも終わり次第、援軍に向かう。――
「・・・・了解。アメジスト!」
「はい!」
ルビーからのメールをチラ見したアメジストからの元気な返事。
「もうひと踏ん張りするわよ!」
二人は気合を入れ直し、戦闘を継続した。
「これは良くない。」
ルビーの呟き。
彼女は今、選択を迫られていた。
タランシュラの物量にビジュエール・セイントの人数が間に合っていない現状で更に別の場所でもタランシュラが開けた穴が発生。
そこへ向かわすのを誰にするかで長考。
「どうする?エメラルドとパールは少し距離が離れている。アメジストとサファイアのどちらかに向かってもらう事に。でもそうすると今彼女達がいる場所が危なくなる。でも、誰かを向かわせないと。」
今新たに出現した場所の先には住宅街が。
苦渋の選択。
腹を斬る思いでサファイアへメール送信ボタンを押そうとした時、宛先不明のメールが届く。
「何?」
恐る恐る開くとそこには短くこう記されていた。
――新たな出現場所は俺が向かう――
「ユウセイ・・・。」
それを見た瞬間、険しかったルビーの表情が一気に緩む。
この緊急事態にも関わらず、心躍る。
彼に触れたい一心から送られてきたメールを手でなぞる。
「ありがとうユウセイ。」
自然と想いが口から溢れた。




