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不幸な男

その日の夜、国道77号線では暴走族による闘争が発生していた。

 普段は滅多に車の通りがない広い道路には溢れんばかりの改造バイクが。

 この場にいるのは社会のルールを抗い、反発する事が格好良いと勘違いしている若者達。

 髪の毛を奇抜な色に染め上げ、交通ルールを守らない男達。

 改造マフラーの騒音とクラクションを騒々しく鳴らすその行動には周囲への迷惑を一切考えていない。

 この場にいる者達はただ平穏な生活に飽きて刺激的な体験を得たいが為に道を外れただけ。

 過去、耐えがたい辛さを体験したわけでもない。

 そして何かあっても自分達では解決できず、親に助けてもらう事しかできない愚か者達。

 約1名を除いて。

 大学生の滝元宗介は不運な男であった。

 整備士の父親の影響で幼少からバイク好き。

 父から整備を習い、バイクいじりが趣味であった彼は中学時のガラの悪い同級生に捕まり、バイク改造を無理矢理させられていた。

 そして今日、数合わせを理由に強制連行されていた。

(嗚呼、なんでこんな事に。)

 フルフェイスヘルメットを装着しているのは鉄パイプや木刀を持つ暴走族から身を守る為と素性を隠す為。

 群衆の最後尾を陣取っているのも極力関わらない為。

「ハァ〜、逃げ出したい。」

 彼のぼやきは騒音と怒号に掻き消される。

 最前列ではクラクションを鳴らし続け、乱暴な運転を見せつける二人の男。

 両暴走族の頭で長年の因縁を決着させるべく、荒々しいぶつかり合う。

 そしてその行動に歓喜する観衆。

 その騒音は想像を絶する酷さで通報を受け警察が出動するほど。

「おい、どこ行く気だ宗介〜?今サイコーに盛り上がっているのによ〜〜。」

 宗介の腕を掴んで引き留めたのは彼をこの場に連れてきた岸田。

 細い眼鏡の奥にある眼が宗介を睨みつけて逃がさない。

「まさか俺を差し押して逃げる訳ねぇよな!」

 こんな奴に捕まった自信の人生を呪う。

 複数のパトカーと白バイが包囲網を敷き、一斉検挙へと乗り出す。

 暴走族と警察が正面衝突、壮絶な殴り合いが起きている刹那、事件は起きた。

ズドーーン!

 大きな振動に全員の動きが止まる。

 騒ぎの中心部、暴走族の頭達がバイクを走らせていた場所が陥没していたのだ。

「か、陥没だ!!」

「まだ崩れる可能性がある。避難勧告を!」

「頭達が落ちたぞ!」

 底が見えない穴から微かに聞こえた頭達の悲鳴。

 その後、穴から這い上がってきたのはタランシュラであった。

「ば、バケモノだ!!!」

「に、逃げろ!」

「防衛省に至急連絡しろ!」

 阿鼻叫喚。

 逃げ惑う暴走族や避難誘導する警官を捕まえて惨殺するタランシュラ。

 奴らが行なっているのは狩りではない。

 虐殺。

 仲間を殺したビジュエール・セイントを誘き寄せる為の手段でしかない。

「どけ!」

 宗介を突き飛ばした岸田は我先へと逃げ出す。

「岸田、待ってくれ!」

「うるせえ!テメェはオレが逃げ切れるまで時間を稼いでろ!」

 だが岸田はすぐさま右側から颯爽と現れたタランシュラに脳天を貫かれて即死。

 そして他のタランシュラ達の爪に続々と全身貫かれるそれはまさに公開処刑。

 周囲を見渡す。

 拳銃の弾は弾かれ、警棒も役に立たず無残な死を遂げる警察。

「嗚呼、俺はここで死ぬんだ。」

 絶望の涙で滲む視界には高笑いを浮かべて爪を高々を振り翳すタランシュラが。

 死を覚悟した。

 そして自身の不運を呪い、両親への謝罪の意を口にした。

「父ちゃん、母ちゃん。ごめん。」

ガギーン!!

「間に合った!」

「え?」

 死の痛みがなく、代わりに聞こえたのは少女の声。

 恐る恐る目を開けた先に見てたのはビジュエール・アメジストがタランシュラを倒している姿。

 宗介にはその姿が女神のように輝いて見えた。

「大丈夫ですか?」

「・・・・・・は、はい。」

 返事が遅れたのは恐怖ではなくアメジストに見惚れていたから。

「ここは危険ですから。早く逃げて下さい。」

 宗介を安心させる為に微笑みを見せたアメジスト。

 それはこの地獄の場所には似合わない愛くるしい笑顔。

 その笑顔に心を鷲掴みにされた宗介。

 そしてアメジストの戦う可憐な姿に釘付け。

 先程まで死の最中だったというのに彼の脳内にはアメジストの可憐な印象しかない。

 この場から避難する事を惜しむ程に。

 そう滝元宗介はアメジストに一目惚れをしたのだ。


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