生徒会
「それでいいですか白露先輩。」
「うん完璧。」
お墨付きを頂く。
「次はこれをお願い。」
そしてすぐに次の仕事を承る。
「ごめんね悠星、また手伝ってもらって。」
「別に構わないさ。それにしても・・・。」
副会長席と会長席には大量の書類の山。
「この前手伝ったのにまたこんなに貯まったのか。」
「三千人を超す生徒数に対して生徒会役員は私達二人しかいないからね。」
白露先輩の「使えない人間はいらない。」の言葉に俺と沙織は肩をすくめ合う。
この学校の生徒会は会長・副会長は立候補制で他の役員は公募制によって任命される習わし。
全校生徒と教師による投票の結果、両者共に他の立候補者を圧倒的な票差で当選したのがこの二人である。
沙織が生徒会会長に決まった結果を受けて「我こそは生徒会役員に!」と名乗りを挙げる公募者は山のようにいた。
が、全員不採用。
副会長に当選した白露先輩が本来ない採用試験を行い、合格水準に満たさない事を理由に全員不合格にしたのだ。
その後、度々生徒会役員へと挑む者が現れるも誰も合格ラインには届かず。
故に二人だけの生徒会が続いているのだ。
「ここまで苦労するのなら合格ライン、下げたらどうですか?」
さりげなくアドバイスを送るも白露先輩からの返事は「使えない人間はいらない。」の一点張り。
「ま、瑠璃子の言い分も分かるわ。今までの公募者は皆、学校の事について考えていなかったしね。」
「サオリ目当てばかり。ユウセイもイヤなはず。」
「まあ、そうですけど・・・・。でもあの採用試験はやり過ぎだと思いますよ。」
一度見せてもらったが、問題は全て国公立大学でも難問として出題されている問題ばかり。中には外国語で問題文が書かれているものもあった。
「受からせる気なかったでしょ白露先輩。」
「そんな事はない。ユウセイなら解ける。」
信頼の眼差しを向けられて少し気恥ずかしい。
「買い被りですよ。苦手な文系で落とされていますよ。」
俺はこれでも一応、学年主席。
でもそれは前世の記憶のおかげだ。
ブレンリッド星は地球よりも高度な文明を有しており、その星で科学者してそれなりに名を馳せていた俺にとって理系はお手のもの。
だが反面、この星の言葉や歴史に対しては知識が全くないのでかなり苦労している。
(英語や現代国語や公民はまだ何とかなっているけど、歴史や古文はマジで分からないだよな。)
「そんな事言いながらこの前の定期テストでは全教科70点以内にまとめていたじゃない。学生主席さん。」
恨めしそうな一言を呟く沙織。
「私なんて万年次席よ。」
「そんな事ない。この前の定期テストは紙一重だった。」
「その僅かの差は追いつくことが出来ない領域なのよ、私と瑠璃子のね。」
「次も負けない。」
二人の間に『遠慮』の二文字は存在しない。
それだけ互いを信頼しているのがこの会話から十分に伝わる。
「それにユウセイに採用試験の必要はない。無条件で合格。」
「それって贔屓なのでは?」
「無駄な事に時間を割く必要はない。私の話を理解してくれるユウセイなら。」
白露先輩がここまで俺に対しての信頼感があるのには訳がある。
天才と称される彼女は特に理系へのアプローチがかなり凄まじく、それは地球人の中でも群を抜いている。
もしブレンリッド星に生まれ、最高峰の教育を受けていれば、それこそ最高の科学者――前世の俺よりも優秀な学者になっていただろう。
だが、その優秀過ぎる才能のせいで孤立している節がやや見受けられる。
誰も彼女の思考速度についていけないのだ。
現に今も学校の教師全員が白露先輩に勉強を教える事はしない。
教師たちよりも彼女の方が数倍賢いからだ。
一応授業には参加しているが、内容は聞いておらず自分の研究に一人取り組む有様。
そしてその内容と思考に対等な対話が出来るのは前世で科学者としての記憶を持つ俺のみ。
白露先輩との関係が近くなるのは必然的だった。
「ユウセイ、この前のサイエンス番組見た?」
「えっと、大学で教授をしている数学者が新しい理論を発見した内容ですか?」
大きく頷く白露先輩。
髪や眼鏡でよくわからないが、表情に若干の興奮がみえる。
(最後まで見たけど、地球では真新しい理論だったな。)
でもブレンリッド星では義務教育で学ぶぐらい一般的で、その理論は少し古く、科学者を志す者は殆ど使わない理論である。
(アレって少し計算が遠回りなんだよなぁ、もう一つ―――。)
「あの理論は未完成。完成されるにはもう一つアプローチが必要。」
俺の考えを読んだかのように言葉を発する白露先輩におもわず武者震い。
「その言い方だと、そのアプローチまで思いついている感じですか?」
「うん、ユウセイに聞いてほしい。」
(やっぱりこの人、俺以上の天才だ・・・。)
目の鼻の先にいる驚異の才能を前に畏怖と尊敬を覚える。
「はいはいはい二人共。異次元なお話で盛り上がるのはいいけど今はこの書類の山を片付ける事に尽力してください。」
「分かったサオリ。ユウセイ、この続きは後で。」
「はい、楽しみにしていますよ。」
それぞれの席へと戻る。
「本当に悠星も瑠璃子も凄いわね。私もその番組を見たけど半分も理解できなかったわ。凡人はついていけません。」
手を動かしながらしみじみと感想を述べる沙織に白露先輩はすかさずフォロー。
「そんな事はない。サオリも天才。」
「ありがとう瑠璃子。励ましてくれて。でも私は天才ではないわ。私は秀才。必死に努力してやっと二人の足元に触れることが出来るだけの、ね。」
沙織がそう言うが、俺はそう思わない。
白露先輩の言う通り、沙織も天才の部類に入る。
定期テストは常に全教科80点以上だし、全国模試も上位50位には入れる程。
特に俺が苦手な文系はとても優秀で、一度も勝てた事がない。
でも沙織が少し卑屈になるのも無理もない。
比較対象である白露先輩が異次元過ぎるだけなのだ。
それだけに過ぎない。