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白露瑠璃子

「はい、そこまで。」

 チャイムがテスト終了を知らせ、生徒達から阿鼻叫喚が漏れる。

 こんな中、沙織はいつも通りの手応えを感じており毅然とした面持ちで答案用紙の回収を待つ――のだが、後ろからの行動は一向にない。

「あ、あの・・・、白露さん。」

 最後尾の男子生徒が痺れを切らし、恐る恐る前の席に座る瑠璃子に話しかけるが、反応なし。

「瑠璃子!」

「・・・え?」

「解答用紙の回収よ。」

 沙織が話しかけたことでようやく解答用紙を受け取った。

「瑠璃子、大丈夫?」

「問題ない。」

 テスト初日が終了。

 各々が様々な表情を浮かべて帰宅の準備をする中、沙織は瑠璃子に話しかける。

「そうには見えないわ。今日ずっと心ここに在らずだったわ。何か悩み事?」

「大した事じゃない。」

 心配になる沙織。

 普段より若干元気がないように見えたからだ。

 とは言え、瑠璃子が頑なに否定しているので深く追求する事はできず。

「お姉ちゃん。一緒に帰ろう。」

 明日香が教室を訪ねてきた事で会話は終了となる。

「ワタシは帰る。アスカ、また明日ね。」

「はい、瑠璃子先輩、さようなら。・・・・・・、先輩、今日元気ない?」

「明日香の眼にもそう見えた?」

「うん。」

 付き合いが長い二人だからこそわかる瑠璃子の変化。

「どうしたのかな瑠璃子先輩。」

「さあ?教えてくれなかったわ。」

 2度程頭を横に振る沙織。

 これ以上考えても答えは出ない、と諦めたのだ。

 それに彼女にはやるべき事がある。

「さ、帰りましょう明日香。そして明日のテストの予習よ。」



「ただいま。」

 誰もいない自宅からの返事はなし。

 昼食に愛用のカロリーメイトを食し、研究室の愛用椅子に身体を預けて大きくため息。

 瑠璃子は自分自身の不調に気づいていた。

 そしてここまで気落ちしている事に驚く。

 その理由はただ一つ。

 この前の電話で悠星の態度が素っ気なく冷たかったから。

 彼の反応だけでここまで気が動転するとは思いもしなかった。

「ユウセイ・・・・。ワタシの事、嫌いになったりしないよね。」

 モニター画面に映し出される悠星の写真に向かって呟く。

 それぐらい瑠璃子は悠星に心を揺り動かされていた。

 そして思う。

 まさか自分がここまで恋する乙女になるとは・・・。

 快羅に無理矢理犯されて生まれた瑠璃子は幼少の頃から天才的な頭脳を開花させており、12歳の頃にはアメリカの有名な大学院へと入学を果たしていた。

 レポートの提出だけで大学院の単位を取得。

 普段は最愛の母と共にストーンジュエルの研究の日々。

 瑠璃子にとってそれは有意義なひと時。

 それ以外は何も求めていなかった。

 しかし瑠璃子の母――アリーニャはそう思っていなかったようだ。

「青春を謳歌してほしいな。」

 母の強い要望で瑠璃子は大学院卒業後、日本へ渡りごく普通の公立中学校へと編入。

 地獄の始まりだった。

 授業内容は簡単で周囲は幼稚。

 元々慣れ親しむつもりはなかった瑠璃子はすぐに孤独。

 容姿を隠すような身なりだった為か同級生は腫れ物扱い。

 ただ一人―――沙織を除いては。

 クラスメイトだけの関係性だった沙織とは紆余曲折を経て親友となった。

 初めてできた親友は心地よい存在だった。

 そして彼女の紹介で二人の人物と出会う。

 一人は明日香。

 愛くるしい後輩。

 自分に妹が出来た感情が芽生えた。

 そしてもう一人。

「ユウセイ・・・。」

 その名前を呼ぶだけで心がときめく。ドキドキする。

 瑠璃子は男性に対して嫌悪感を持っていた。

 理由は二つ。

 一つは血縁で父親となる八重島快羅。

 瑠璃子の容姿を見出していた彼は幼少の頃から性的行為―――カラダを弄られていた。

 そして大学院時に白人男性から強姦されかけた事もあり、瑠璃子にとって男性は悍ましい存在。

 彼女が不感症になったのもそれが原因。

 だから最初、沙織から紹介された時はあまり親しみを感じなかった。

 彼は()()()()()()()()()()()()()

 ただそれだけ。

 だがその認識が180度変わった出来事が。

「それって、この前発表された論文?」

 彼と知り合って2か月ほど過ぎた頃、沙織と明日香が席を外しており、暇つぶしに読んでいた論文。

「知っているの?」

「はい、興味があったので。」

「そう・・・。(同じ。他の男と。)」

 過去に何度かこんな風に話し掛けてくる輩がいた。

 だが全員、知ったかぶりをするだけで曖昧な笑みを残すだけ。

 唯一、沙織だけが素直に「わからないわ。ごめん。」と白状した。

 だから意地悪をした。

「この論文。間違っているところがある。」

「え?もしかして先輩、算出方法が違う事をわかっているのですか!?」

「!!!!」

 脳天に稲妻が落ちた。

 その答えはまさに自分が解き明かした内容に類似していたから。

「詳しく話して。」

 前のめりになる。

 突如始まった談議は今までの中で一番心躍る内容だった。

 饒舌になっている自分自身に驚く。

 それぐらい彼とも会話は有意義で楽しかった。

 もっと話したい。語りたい。

 その想いは日に日に募る。

 気が付けば論文だけではなく他愛のない会話へと変わっていた。

 生産性がない雑談。

 以前なら「無意味」と一蹴していたのに。

 視線は彼から離れない。

 些細な仕草も見逃さないと彼の言動を事細かく観察する日々。

 彼の事を思うだけで心が苦しくなる、温かくなる、頬が緩んでしまう。

 頭になかった高校進学も彼との関係性を保ちたいから。

 だから聖栄院高校へと進学した。

 悠星()と毎日会いたい。話したい。

 でも今はそれだけでは足りない。

 カラダが、心が、全てが悠星()を欲していた。

「ワタシはユウセイに恋している・・・。」

 彼が抱きしめてくれた時の事を思い出す。

 そして夢中に自分のカラダを貪ってくれた時の事も。

「はぁ、あん。ユウセイ。もっとシテ・・・。ワタシをもっと犯して。」

 手が自然と乳房と陰部へと伸びる。

 想像だけで硬くなった乳首を制服の上から捏ねまわし、ショーツの隙間に手を忍ばせて弄る。

「あん。ダメ・・・。足りない。刺激が・・・。」

 悠星に触られないと感じられない。

「はぁん、何されてもいい。ユウセイになら。ワタシ、何をされても・・・・。」

 潤んだ瞳はモニターに映る悠星の写真を見つめる。

「ユウセイ・・・好き。スキ、すき。好き。ワタシをユウセイだけのモノに、して!」

 

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