原因究明
「ごめんなさいユウセイ。」
電話越しから聞こえる白露先輩の声は萎んでおり、暗くて重苦しい。
あまり感情を表に出さない彼女にしては珍しく、それだけ申し訳なく思っているようだ。
「南エリアには誰にも向かわせないよう指示出したのに、パールが勝手な判断で―――。」
「もういいですよ。」
俺は彼女の言葉を遮ったのはこの通話を早く終わらしたいから。
「・・・、わかった。また連絡する。」
沈んだ声を最後に通話が切れる。
白露先輩との通話を蔑ろにしたのはそれどころではなかったから。
それ程タランシュラとの戦いは不甲斐なく、俺自身予想外の事だった。
エネルギーも潤沢であるにも関わらず、何故タランシュラを倒すのにあれ程苦戦したのか?
その原因を究明する意識が高すぎたのだ。
一度気になると気になり過ぎて、他の事には疎かになる。
前世からの癖だ。
俺の性格を知り尽くしている先輩だからわかってくれるさ、と安易に考えていた。
先輩の声がいつもよりも感情を見せていた事に気づかないまま。
タランシュラとの戦いを映像で見返す。
「何故だ?何故なんだ?」
何度も同じ映像を血眼にして食い入るように見るが、
「分からない。何が原因なんだ??」
かれこれ3時間ほど映像を見ているがわからず仕舞い。
あまりの手詰まりに頭がパンクしそうになったので休憩がてら1階から飲み物を取りに行くことにした。
「あれ?」
数分後、天然水を片手に部屋に戻ってきたらパソコンの画像がまだ動いている事に気づいた。
「しまった。停めるのを忘れていたか。」
マウスを操作して停止ボタンを押そうとする指がふと止まる。
映像はパールとの戦闘へと変わっていた。
そして初めてその映像を見てある事に気づく。
「動きが全然違う。いや、違うのは当たり前だけど、それ以前の問題だ。」
パールの動きは流れるようで独特的だが、基本が培われている。
例えば拳を突き出すのにしても腕だけではなく、腰を――さらに言えば踏み出した足を軸に体が連動して打ちだしている。
それに対して俺の攻撃は腕だけ。
上半身と下半身の動きもバラバラ。
だからパール攻撃と比べるとかなり遅いし、力強さも雲泥の差。
客観的に見れば見るほど欠点ばかりが浮かび上がる。
俺は過去のデータを漁り、秘かに隠し撮りしていた他のビジュエール・セイント達が戦っている映像を注意深く観察。
「皆、基礎が出来ているのか動きが錬成されている。それに比べオレの動きは素人当然。」
沙織は生徒会で忙しくしているが中学から弓道部に所属。
白露先輩は護身術を習っていると聞いていたし、明日香も白露先輩から色々と学んでいる事を聞いている。
「成程、いくらエネルギーが潤沢でも基礎がなければ宝の持ち腐れ。成程・・・、納得できる結果だな。」
プロトタイプであるダークダイヤは戦闘用の武装が存在しない。
故に戦闘力は肉弾戦に直結しており、基礎体力がかなり重要となる。
元々、身体は鍛えていたのでこの点は問題ないと高を括っていたのだが、どうやら甘い見通しだったようだ。
「どうしようか?」
映像から視線を逸らし天井を見上げる。
今まで色んな格闘術の動画を見て学んできたが、身になっていない事が証明された。
「一人では限界だという事が証明された。ならば辿り着く答えはただ一つ。」
脳裏に浮かぶのは一人の人物。
長い白髪交じりのおさげ髪にアイシャドウが濃いハンサムな中年美男性。
右頬にある三つのホクロが特徴でいつも甚平姿に飄々とした風貌。
髪の毛以外脱毛し、いつも美容に気を使っているので潤いのあるツルツルのお肌をしているその人物は俺の筋トレの師匠で尊敬する大人の一人。
俺は答えを得るや否や服を掴み、家を飛び出していた。




