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瑠璃子とのデート

 迎えたデート当日。

 約束の時間より早く着いたので待ち合わせ場所である駅前の噴水広場で白露先輩の到着を待つ間、何度も自分の身なりをチェック。

 心が落ち着いていないのが行動に表れている。

ザワザワザワザワ。

「ユウセイ、お待たせ。」

 通行人の騒めきが大きくなると同時に現れた白露先輩。

 それは普段学校での露出が少なく重ね着した幸薄い彼女でなく、誰もが二度見する程の絶世の美少女が。

 肩口まで露出する丈の短い白色ワンピースとハイヒール姿の白露先輩はまさに清楚なご令嬢。

 眼鏡を外しいつも前髪で隠している素顔を晒した彼女の美しさに言葉を失う。

「ユウセイ、どうしたの?ワタシの格好、おかしい?」

「そ、そんな事ないです。先輩の美しい姿に見惚れてしまっただけです。」

「そう・・・、嬉しい。」

 本心からの微笑みに俺の鼓動は高鳴る。

「頑張っておめかしした甲斐があった。」

(確かに髪も櫛を通して、薄くだけど化粧もしている。)

 普段、身なりを整えない彼女(その都度、沙織に注意されている)が俺の為にここまでしてくれている真実を知り、またしても鼓動が高鳴る。

「ユウセイもおめかししてきた。」

 チェック柄のブラウスに青のジーンズと黒のベルト。

 普段はクローゼットに仕舞われている、以前に奮発して購入した服だ。

「まあそうですね。デートは初めてですから。」

「ユウセイの初めてをワタシが貰う事ができた。」

 男心を擽る言動はまさに小悪魔。

(まさか、俺が知らないだけで普段から――。)

「心外。そんな事、しない。ユウセイは特別。」

「手慣れているように思えますが。」

「上手くできているなら嬉しい。もう我慢しなくていいから。」

「我慢しなくていい?それは一体どういう事――。」

「ユウセイ、時間。」

 どうやら話はここで一時中断のようだ。

「分かりました。それで今日はどこに行くのですか?」

 本日のデートプランは全て白露先輩に一任。

「ここに行く。」

 携帯の画面に表示された行き先は近くの国立大学で行われる教授による講演会だった。



「デートが講演会だなんて先輩らしいですね。」

「ユウセイも十分楽しんだ。」

「その通りですけど。」

 先程まで新たな数式を発見した教授の講演会に参加していた俺達はその大学のテラスでティータイム。

「中々有意義な時間だった。」

「そうですね。最後の質疑応答で先輩が教授へ問いかけた時は驚きましたが。」

「あの数式は未完成。それを指摘しただけ。」

「教授、顔を真っ赤にしていましたよ。恥をかかされたと思ったのでは?」

「間違いは成功の近道。」

「あの教授、結構プライド高そうに見えましたけどね。」

「でも着眼点は凄く参考になった。発想も独創的。」

 心弾ませているのがよく分かる。

 その証拠に講演会で配られた資料を真剣な眼差しで黙読。

 時折見せる笑みや人差し指を下唇に当て考えこむ仕草は可愛らしく魅力的に映る。

「ん?どうしたのユウセイ。」

「先輩の色んな表情を見て楽しんでいました。中々見る事ができないですから先輩の素顔は。」

「注目されるの、好きじゃない。」

 人間不信、という訳ではないが白露先輩は他人との交流を避ける傾向がある。

 親しい友人も俺や沙織、明日香だけで他の人達は必要最低限以外極力話さない事を徹底している。

「それにワタシにはすべき事がある。」

「すべき事?」

「復讐。母を殺したあの男に。ユウセイと同じ。」

「同じ目的を持つ者同士、手を取りたいと思っているのですか?」

 コクン、と深く頷く。

「ワタシはその為にピジュエール・セイントの開発に携わった。母の意思を引き継ぐ為でもあるけど。あの男の懐に潜り込み、弱みを見つける為。だからあの男からの屈辱にも耐えてきた。」

「屈辱?!まさか先輩!」

「最後までは許していない。身体を触られた程度。」

 白露先輩が怪羅に性的悪戯を受けている事を知り、怒りから拳に力が入る。

「嬉しい。ユウセイがワタシの為に怒ってくれている。」

 白露先輩の笑みはいつもとは違う。

 発情した雌の顔を俺だけに見せる。

「安心して。ワタシのカラダはユウセイにしか感じない。ユウセイしか求めていない。ユウセイが望むならワタシはユウセイだけのモノになる。」

「どうしてそこまで俺を求めるのですか?お無し相手に復讐を誓う同志?それとも復讐達成のする為の道具として、ですか?」

 先輩からの返事はなし。

 目を瞑ったまま。

 机の上に置かれている緩くなったコーヒーに口をつけてようやく口を開く。

「ワタシは復讐の為に全てを捧げるつもり。人生も恋も。あの男の魔の手が他者に及ばないように他人との交流を極力避けていた。サオリのお節介でアスカとユウセイが友人になったのは予定外。」

 白露先輩がこの街に引っ越してきた当初はもっと拒絶的で誰も寄せ付けないオーラ全開だった。(沙織情報。)

 孤立していた先輩に最初話しかけたのが沙織でその後かなりの紆余曲折があり、二人は親友となった話を又聞きしていた。

「本当はサオリもアスカも拒絶するつもりだった。でも居心地が良い。楽しい。だから二人には迷惑をかけないよう、細心の注意を払っていたつもりだった。そして・・・。」

 熱い眼差しを俺へと向ける。

「ユウセイには絶対に知られたくなかった。ワタシがあの男と血縁関係である事を。巻き込みたくなかった。ワタシの弱みになるから。」

「弱み?」

「ユウセイと話すのが楽しい。ワタシの話をちゃんと聞いて理解してくれるユウセイが。同じ空間を共に過ごせるだけで幸せだった。産まれて初めて異性を好きになった。あの男にその事が知られてユウセイに危険が及ぼす可能性があった。だからストーンジュエルやピジュエール・セイントの事は話せなかった。本当はユウセイに話したかった。大好きなユウセイに。」

「先輩・・・。」

 彼女の苦悩に触れた気がした。

(先輩は一人で苦しんでいたんだ。誰にも知られないように。)

「だからダークダイヤがユウセイだと知った時、喜んだ。犯されている時も恐怖ではなく幸福が勝った。胸がときめいた。ユウセイがワタシのカラダを夢中になって嬉しかった。ワタシが発情してユウセイを求めたのもカラダが、心がユウセイを求めたから。」

 さりげなく俺の手を両手で包む。

 前屈みで胸の谷間が見えている――、いやワザと見せて俺へと縋る。

「道具になるのはワタシ。ユウセイ、ワタシと一緒にあの男に復讐する。その為ならワタシはユウセイのモノになる―――違う、なりたい。」

ドクン!

 俺の心臓が大きく高鳴る。

 超絶の美少女が自分のモノになると言われたのだ。興奮しない雄はいない。

 だが同時に冷静にもなる。

 本当に信じてもいいのか、と。

 何か裏でもあるのかと疑うのも確か。

 八重島怪羅は卑劣な男だ。

 自分に少しでも歯向かう者には容赦はしない。

 そんな彼が反抗の意思を持つ白露先輩をここまで自由にしているのは到底あり得ない事。

 実は今日もずっと周囲の警戒をし続けてきた。

 誰が俺達を見張っているのではないか、と。

「大丈夫。見張りはいない。樹里と乃亜は別件で遠くにいる。」

「別件、ですか?」

「あの男の命令でジェノ・ブリークスのアジトを捜索中。だから今日、ワタシ達を見張る人はいない。」

「そうですか・・・。」

「ユウセイ、どうしたらワタシを信用してくれる?ワタシの全てをユウセイに捧げても信用してくれない?」

 無言になるのはあの白露先輩が発情したエロい表情で俺に言い寄るから。

 両脇を寄せて胸を強調。

 柔らかそうな巨乳が潰れ揺れる。

「ユウセイ、これでは興奮しない?」

「十分魅惑的ですよ。ここまでの興奮は前世を含めて初めてです。」

「前世は付き合っている人とかいない?」

「ブレンリット星は男女交際などありませんでしたから。発情時期が周期的にあり、その時に交尾するぐらいです。」

「成程。つまらなそう。」

「地球人となった今では同意します。――ってか、先輩がそんな事を言うとは驚きですね。デートだって時間の無駄とか言って行きたがらないイメージを抱いていましたが。」

「うん。時間の無駄。」と大肯定する白露先輩。

「でもユウセイと一緒に過ごす時間は何よりも大切で重要。だから無駄じゃない。」

「そうやって特別感を出して誘惑してくるのですね、先輩は。」

「ユウセイのモノになれるのなら何でもする。それぐらいユウセイの事が好き、だから。」

「・・・・・・、分かりました。」

 俺はここまで言い張る白露先輩を信じる事にした。

「嬉しい。」

 恍惚な笑みを浮かべる白露先輩に手を差し出すと嬉しそうに握手してくれた。

「これからよろしくユウセイ。」

「ええ、よろしく。」

 笑顔で答える。

 が、その裏にある本心は違う。

(いつ裏切られても大丈夫なように予防線は張っておこう。)

 

 前世の俺は八重島怪羅を信頼し過ぎた。

 彼は俺の話と研究材料のストーンジュエルを見て、自ら手伝いを申し出た。

 必要な研究施設や支援金を用意してくれた彼に全服の信頼を寄せていた。

 だが裏切られた。

 殺された直前に俺は利用されていた事に気づく。

 そして今、目の前にいる白露先輩も同じだ。

 俺の事を好きだと言って言い寄るその灰色の瞳の奥底に垣間見える光。

 それは潜ませている野望の光。

 白露先輩が見せたその瞳はあの時の怪羅と同じ眼をしていたのだ。

(信頼してはいけない。主導権は渡してはならない。)

 俺は強く決意した。


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