説得
「はぁ〜〜〜。」
昼休み。
俺は誰もいない校舎裏で大きなため息を吐き出す。
久々の登校に先生や同級生が色々気遣いをしてくれたことに対して申し訳なさが募り、此処迄逃げてきた次第。
先程自動販売機で購入したお茶を一口。
そして売店で購入した惣菜パンを一口。
「ズル休みした事、言えずに気まずい?」
「ええ、そうですね。」と頷いて6秒後、隣に白露先輩が体育座りしている事に気付く。
「いつの間に?」
「ユウセイ、続きをする。」
「続き?!何を言っているのですか?昼ですよ!誰かに見られたらどうするのですか!?」
「話の続きで見られて困る事がある?」
「あ、そっちの事ですか・・・。」
愚かな妄想をした事を大いに反省。
「・・・ユウセイがしたいならそっちもしても構わない。」
自然な動きで寄り添ってくる先輩。
普段は閉じているワイシャツのボタン。
何故か今だけは空いており、俺の視線だけに胸の谷間を見せてくる。
「・・・・先輩がそうやって男を誘う悪い女性だという事が今日で分かりました。」
「ユウセイにしかしない。ユウセイだとわかったからカラダを許した。他者なら死を選ぶ。」
その言葉には強い意志が込められていた。
「それよりもユウセイ、サオリとアスカとは無事に仲直り出来た?」
「ええ・・・まあ・・・。」
1限目の授業中、白露先輩が『至急サオリとアスカと仲直り。謝る事』とのメールがあった。
沙織達にあの光景を目撃された事で凄く気まずかったが、白露先輩の催促もあり、2限目の休憩時間に明日香を呼び出し3限目には沙織、と個別にそれぞれ謝罪。
特に沙織は今朝の件で大説教を受けていたのでかなり厳しいと感じていたが、何とか謝罪を受け入れてくれた。
「それは良かった。ユウセイに絶縁されてから二人の感情は不安定。ビジュエール・セイントにも影響をきたしていた。」
白露先輩の話だとビジュエール・セイントの戦闘能力は装備者の精神状態で大きく左右される、の事。
「そうなのですか?それは知りませんでした。」
「何度か装着してもらいデータを取った事で判明した。ユウセイの時はまだ装着段階まで至らなかったから知らなくても仕方ない。」
「ところで先輩一つ質問が?二人共俺に対して少し余所余所しい仕草がありましたけど・・・。」
緊張する俺に対して二人共視線を逸らしたり俯いたりしていて、落ち着きがなかった。
明日香なんて俺の顔を見る度に顔を真っ赤にしては手をパタパタ振るう有様。
尋ねるも何も答えてくれなかった。
「ワタシが予めフォローをした。」
「そうでしたか・・・。」
一体どんなフォローを入れたのだろう?
気になって仕方がない。
「これで一安心。」
「そうですかね・・・。」
「何か不満がある?」
「謝罪を受け入れてくれたのは嬉しいです。でも・・・・。」
これで元通りの関係――前みたいな幼馴染には戻れない気がしているから。
俺自身がダークダイヤとして二人を犯した事で幼馴染ではなく、女性としか見れなくなっていた。
「それでいい。」
「どういう事ですか?」
「三人共、今までの関係に依存していた。特にユウセイ、幼馴染の関係に甘んじて何もしてこなかった。その結果がすれ違いを産んだ。」
正論過ぎて何も言い返せない。
その通りだ。
幼馴染という居心地の良さに怠けていた。
何も行動してこなかった癖に奪われたと勘違いして酷い事をして。
「最低だな、俺は。」
自虐の言葉しか出てこない。
「だけど新しい関係を築くにはいい機会。このままではダメ。その内、八重島快羅に奪われる。」
「・・・・・・、それだけは絶対にイヤだ。」
「ならしっかりこれからを考えてほしい。そして八重島快羅から二人を守る。それを今、誓ってほしい。」
「・・・・・・、分かりました。」
今度ははっきりと答える。
白露先輩の目的が全く見えないが、ただ一つ言える事は沙織と明日香を八重島快羅に渡したくない。
だからこそこれからの事をしっかり考えるべきだ、と自分自身に強く言い聞かせる。
「ありがとうございます白露先輩。お陰で少しすっきりしました――――あれ?先輩?」
ここで白露先輩は腕を組んで考え事を始める。
俺は何も言わずに黙って見守る。
この状態に話しかけても返事は返ってこない事は前世の記憶から学んだ事。(研究者あるあるだ。)
その間、飲みかけのお茶と惣菜パンを完食し、後は青空を眺めて時間を潰す。
「・・・やはりこれしかない。」
先輩の思考タイムは終了したのはチャイムが鳴り始めた時。
俺の顔をまっすぐ見つめてチャイムが鳴り終えた、こう言った。
「ユウセイ。今度の休み、ワタシとデート。」




