想定外
パチパチパチパチ。
建物内に反響する拍手。
危なげなくリザードマンを全て倒し終えたルビーへの祝杯。
「アナタがダークダイヤ。」
俺が姿を現した事に対して表情を一つ変えないルビー。
隠れていた事に気づいていたのか?と不安が過るが「大丈夫だ。」と言い聞かせる。
(領域結界を発動させる条件は揃っている。)
発動に必要なエネルギーはルビーのお陰で十分過ぎる程この空間に散布されている。
「ワタシはアナタを許さない。絶対にアナタを捕まえて二人に謝らせる。」
ルビーの瞳には珍しく怒りの感情が込められている。
「ほう、それは怖いな。だがお前の思い通りになるかな?」
起動ボタンを押す。が、設置した三角錐の物体空の反応はない。
「な、何故だ・・・?」
「アナタが何かしらを仕掛けているのは承知済み。アメジストとサファイアからの戦闘情報から解析、アナタの手口、領域展開は無効化した。」
「何だと、あれだけの情報で解析だけでなく、無効化のシステムを短時間で作り上げたのか?!」
「これでアナタの手は完全に封じた。さらにアナタはまだ力が完全ではない。」
「くそっ!」
不利な状況、一時撤退を決めるがそれをルビーが許さない。
「ここで倒す!」
6基のシールダーが飛翔し、俺に襲い掛かる。
シールダーは盾以外の役割が行われるよう様々な機能が搭載されている。
接近時に刃、遠距離用に砲弾やビーム銃、それ以外にも拘束用鎖等。
元々は拠点防衛を想定、ルビー一人で小隊隊列が行えるよう開発を進めていた。
「くっ、連携に隙がない。」
本体であるルビーを抑えようと攻めるも6基のシールダーが行く手を阻む。
いや、それどころか攻め立てられる。
突進してくるシールダーを払い避けると死角から刃を見せるシールダーが。
その後ろには銃砲が狙いを定めている。
俺はしゃがんで刃を避け、転がって銃撃を躱す。
「ぐはっ。」
立ち上がると両サイドから飛来してくるシールダー。
それを受け止めるも間髪なく背後から追突するシールダーに吹き飛ばされる。
「くそ・・・。」
すぐさま立ち上がる。
そうでないとシールダーの猛追に押され続け、敗北してしまうから。
足を必死に動かして立ち止まらない事を優先する。
刃や鎖、銃撃は避け、シールダー自らの突撃は手で払い避ける。
時々攻撃を掠めたりするが、大ダメージは今のところなし。だが、情況は不利だ。
「(後は上手くやれば・・・。)やはりシールダーは壊せないか。」
「無駄。逃さない。」
シールダー1基毎に細かな指示を送るルビー。
精密で錬度ある連携で徐々に追い込まれる俺。
「(あと少しで・・・。)ちっ!」
背後から狙いを定める銃口の射線上から外れるため、左へ逃れる。
がそれは罠だった。
「しまった。」
前に踏み出した右足に鎖が絡まり、移動が封じられた俺に残り5基のシールダーによる一斉攻撃。
「ぐおおおおお!」
腕を頭部を守り身を縮ませて防御態勢。
が、耐えきることは出来なかった。
廃棄されていたドラム缶の山まで吹き飛ばされる。
(ヘルメットは無事。だけどその他は・・・。)
ボディスーツの各部位の幾つかに損傷が。
稼働には支障がないが、戦闘を続けるのは厳しい。
「私の勝ち。」
起き上がろうとする俺に6基のシールダーが銃口を突き付ける。
「大人しく投降する事を勧める。」
「投降?」
「まずはそのヘルメットを外して正体を晒す。そして二人に謝罪させる。」
「この俺が素直にお前の言う事を聞くと思っているのか?」
「・・・・そう、残念。」
トドメを刺す事を決めたルビー。
「照準、ダークダイヤ。」
銃口にエネルギー弾が装填されていく。
狙うのは勿論俺。
「発射!」
ルビーの合図に6基のシールダーは一斉発射。
強力なエネルギー弾は見事に――――ルビーに命中した。
「きゃあああああ!」
重量感がある硬い装甲はシールダー達のエネルギー弾により大破。
仰向けに倒されたルビーへ追い打ち。
2基のシールダーが彼女の腕に鎖を絡めて拘束。
宙吊り状態となる。
「な、何が起こったの?」
珍しく動揺を見せるルビーの姿が滑稽で笑いが込み上げる。
「あははは、無様だなジュエリー・ルビーよ。まさか自身の武器に倒されるとは思わなかっただろうに。」
「シールダーに何をしたの?」
冷静な声で尋ねるルビーはその時目を見開いて動揺。
だがそれも一瞬。
直ぐに余裕ある不敵な笑みを浮かべ直す。
その態度が癪に障る。
何事もないと平常心を装うその態度が。
口元が緩んでいるその余裕が。
「シールダーの操作優先権を奪っただけさ。」
戦い時、俺はシールダーに直径2㎝程の黒くて薄いシールを付着させていたのだ。
そのシールには電子回路が組まれており、それを介してシールダーの自立回路に侵入。ハッキングして操作権を奪ったのだ。
「そしてシールダーが発する電波で領域展開を邪魔していた事もわかっている。」
指を鳴らし、領域展開を発動。
これにより形勢は逆転。
遂に始まる。
俺から明日香と沙織を奪った白露瑠璃子への復讐が。
「さぁ、ジュエリー・ルビーよ。覚悟しろよ。」




