次なる標的
白露瑠璃子が八重島快羅の娘だと判明してから早3日が過ぎた。
俺は朝食の用意を始める。といってもコンビニで買い溜めしたカップ麺に湯を注ぐだけ。
椅子に座り出来上がるのを待つ。
今日もいい天気で晴れ渡っているのに俺の家は以前と比べて薄暗く、静か。
それもそのはず。
食卓には俺一人しかいないのだ。
明日香と沙織はあの日以降、俺の家に来ていない。
ほんの少し前までは幼馴染の明日香と沙織と共に食卓を囲み、おいしい料理に舌鼓していたはずなのに。
今は食卓に置かれているのはカップ麺一つのみ。
彼女達の作ってくれた料理の味を思い出しながら侘しいカップ麵を食す俺。
だがこれは仕方がない事だと言い聞かせる。
自ら穏やかな日常を手放したのだ。
何度か明日香と沙織に電話しようと思い返したことがある。
だが、いざ行動に移そうとすると快羅に抱かれる二人の姿が脳裏に浮かんで拒絶。
だから、明日香と沙織の事を極力考えないように努めてきた。
酷い事をしてしまった、と後悔の念はある。
だけどそれ以上に俺の知らないところで快羅と親密になり、彼に寄り添った二人が許せなかった。
理不尽な怒りだ。
だが感情が理性を上回り、認めようとはしないのだ。
「ごちそうさま・・・。」
誰も聞いていない寂しい声。
俺はそのまま自室へと戻る。
あの日から俺は学校に入っていない。
風邪を引いた嘘の連絡をして休んでいる。
ダークダイヤの事に没頭したい、と言うのは建前でただ明日香と沙織に会いたくないだけ。
荒れ狂った怒りの感情のまま他の人とも普通に接する自信もない。
だから俺は武器の調整と自身の強化に励む。
辛い事を・・・明日香と沙織の事を忘れたいが為に没頭し続ける。
もう止まれない。
立ち止まる事も振り替えることも許されない。
その為に俺は二人の幼馴染を拒絶したのだ。
賽が振られたのだ。
退路を断たされた俺は前に進むしかない。
何があろうとも。
そしてもう一つの理由は白露瑠璃子。
快羅の娘だと知った今、怒りの矛先は彼女へと向いていた。
彼女に会えばこの怒りを抑える自信がない。
多分、脇目も振らず彼女に襲い掛かるだろう。
だからこそ、エネルギーを奪う次の標的を瑠璃子一人に絞り込んだ。
最初は白露瑠璃子の自宅に侵入して拘束する事を考えたが、彼女の家のセキュリティはかなり厳重で突破するのにかなりの労力が必要になる為、断念。
なので、瑠璃子の家周辺の防犯カメラに不正アクセスして彼女の行動を常に監視する事にした。
彼女が変身している時に陵辱してストーンジュエルのエネルギーを奪う魂胆である。
その為にはまずジェノ・ブリークスの襲撃が必要。
本来なら自分から仕掛けていきたいのだが、まだ全体の30%足らずしか出力が出ない為、正面からはまだ難しい状況。
故に前回同様、ジェノ・ブリークスとの戦い後に乱入して捕える事にした。
ジェノ・ブリークスが出現するのをひたすら待つ。
領域展開の調整と筋力トレーニングに力を注ぎながら辛抱強く、根気よく待つ。
事態が動いたのは、翌日の夜22時頃、一台の防犯カメラが外に出かける瑠璃子の姿を捉えた。
その直後、ジェノ・ブリークス出現のアラームが鳴り、俺は慌てて出撃。
向かったのは工場地帯の一角、数か月前に不正販売が明るみになり倒産した会社の工場だ。
俺が辿り着いた時には既に戦闘が始まっていた。
「行ってシールダー。」
6基のシールダーを発射して蔓延るリザードマン達に襲撃するジュエリー・ルビー。
リザードマンの攻撃を受け止め、その隙に別のシールダーが銃撃や斬撃で仕留める。
ルビーの戦い方は堅実。
相手の攻撃を防御して、反撃するスタイル。
その動きにはアメジストやサファイアみたいな派手さも美しさはない。
だが俺はルビーの戦う姿を見て感嘆と賞賛を秘かに贈る。
実は俺が設計したセカンド・ジュエリーの中でルビーの運用が一番難しい仕様となっている。
6基のシールダーはルビーのヘルメットに搭載されている自律コンピュータが直接脳と連動することで制御・運用されているのだがその操作がかなり困難。
地球人の脳では処理が追い付かず操作が不可能だというのが設計した後の確認で判明したのだ。
(装備を変更する前に俺は殺されたからな・・・。)
ルビーの反応に瞬時に応答し動くシールダー。
一見何ともない動きだが、その高度な連携。
1基が相手の動きを止め、もう1基が攻撃して仕留める。
2対1組、3対1組と連携を変えて相手を追い詰めていく。
そんな複雑な指示を出し続けるルビーに俺は唸り、思わず見惚れる。
「(あの難しい自律コンピュータをここまで精密に操作できるとは・・・。やっぱり先輩は凄いな。)って何感心している!しっかりしろ。」
本来の目的を思い出し、行動を開始する俺。
前と同様、三角錐の物体を四隅に設置して連動させる。
後はルビーがリザードマンを掃討するのを待つだけ。
彼女が懸命に戦うのを俺は高みの見物をし続けた。




