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夕暮れの訪問者

家中に鳴り響く玄関のチャイム。

 間隔がなく何度も鳴らされる喧しい音に俺は嫌々瞼を開ける。

「うるさいな・・・。」

 床に転がる画面がひび割れた置時計は17時21分を表示。

 どうやら暴れ疲れた俺はそのまま倒れるように寝てしまい、そのまま学校をずる休みした模様。

 目覚めは最悪。

 頭痛と胸焼けで気持ち悪い。

 呼吸するのもしんどい。

 荒れて散らかった部屋を見渡し、そのまま布団に包まる。

 今は誰とも会いたくない。

 居留守を使うが、来客はそれを許さない。

 絶え間なく鳴り続くチャイムに俺は白旗。

 痛む頭を抑えつつ、ゆっくりと階段を降りて玄関へ向かう。

「ユウセイ、遅い。」

 玄関の扉を開けるとそこには白露先輩が一人立っていた。

 語気が強く、普段感情をあまり表に出さない彼女は怒っていた。

「何ですか先輩。俺は今日体調が悪いので話なら今度にしてください。」

「関係ない。」

 労りの言葉もない、厳しい一言。

 前髪と眼鏡で隠れているが白露先輩は俺をきつく睨みつけていた。

「ユウセイ、何故サオリとアスカを拒絶したの?」

「その話ですか・・・・。先輩には関係ありません。」

 二人の名前なんて聞きたくなかった。

 だからこそ語気を荒くなる。

 そんな俺の感情を察したのだろう、今度は観察するような視線を向ける。

「どうしたのユウセイ?いつもの貴方らしくない。何があった?」

「先輩には関係ありません!」

 もう一度、拒絶の意思を示す。

 今は誰とも会いたくないし話したくないのだ。

 そんな俺の気持ちに気付いているにも拘らず白露先輩は立ち去ろうとしない。

 それどころか懐へ入ろうと迫りくる。

「今のサオリとアスカにはユウセイが必要。二人を癒せるのは貴方しかいない。」

「そんなの俺に関係あるか!」

 怒りの感情を扉にぶつける。

 大きな音がしたにも関わらず、白露先輩は無表情。

 だが、奥にある瞳は動揺からか少し揺れているように見えた。

(俺が癒さなくても快羅(あの男)が何とかするだろうが!)

 収まらない怒り。

 その矛先をどこに向ければいいのかわからず、目の前にいる先輩に八つ当たり。

「明日香と沙織のことなど知った事か!帰ってくれ!」

「ユウセイが何故サオリとアスカを拒絶しているのか、ワタシには分からない。でも今は二人の傍にいてほしい。仲直ししてほしい。二人は深く傷ついている。ワタシのせいで・・・。」

「先輩のせい?」

「そう。ワタシの判断ミス。ユウセイにはキチンと話すべきだった。ワタシの弱さが招いた結果。そのせいでサオリとアスカは心に深いキズを負った。」

 白露先輩の言葉の意味が上手く呑み込めない。

 だからこそ今まで沸いていた怒りが治まり、少し冷静さを取り戻し始めた。

「ユウセイ、今から話す内容は他言無用。誰にも話してはならない。」

 固唾を飲んで待つ。

「ユウセイ、実はワタシ達――――(Prrrrrr)タイミングが悪い。」

 白露先輩の言葉を遮るかのように彼女の携帯が鳴りだす。

 携帯に表示される着信相手に難色を示した白露先輩。

 嫌々通話に出た白露先輩の行動で俺は自分の目を疑う。

 彼女が髪をかき上げた時、右耳にしているイヤリングを目撃したのだ。

(アレはジュエリー・ルビーの変身アイテム。何で白露先輩が・・・。)

「もしもし。・・・今日は無理だと断ったはず。今ワタシは大切な――――。こっちの方が最重要案件。必要ない。」

 電話越しで揉める白露先輩。

 俺に向けていた以上の怒りが言葉に込められている。

「迎え?何を勝手に―――。」

 その言葉を待っていたかのように黒の高級車が家の前で止まる。

「お嬢様、お迎えに上がりました。」

「樹里・・・。」

 運転席から出てきたのは肩口まであるクリーム色の髪にエメラルドグリーン色の瞳を持つスーツ姿の女性。

 スラリとしたモデル体型のその女性に俺は見覚えが。

「もしかして雪羽根樹里、さんですか?」

「よくご存じですね。」

 雪羽根樹里は元フィギュアスケーターとして有名だった人物。

 何故俺が知っているのは明日香が彼女の大ファンだから。

 明日香にせがまれて何度も現地に観戦した事があるのだ。

「改めて自己紹介しますね。(わたくし)は八重島快羅の秘書をしています雪羽根樹里と申します。」

「っ!?」

 あの男の名前が出て、驚く俺。

 その驚きのあまり自分の名前を名乗れず。

「あの・・えっと・・・。」

「彼はユウセイ。生徒会役員。今日は体調が悪く学校を休んでいたから様子を見に来た。」

 早口で答える白露先輩。

 これも珍しい行動だ。

「そうだったのですかお嬢様。ですが今日は快羅様との面会の日です。旦那様は忙しい中、お嬢様の為に時間を作ってくださったのですよ。」

「・・・・・・。」

 不満そうな視線を露にする白露先輩。

「あ、あの、先輩。その八重島快羅と先輩ってどういう関係ですか?」

 踏み入った質問なのは承知。でも聞かずにはいられなかった。

 答えたくないのだろう、無言を貫く白露先輩の代わりに樹里が答える。

「お嬢様は快羅様のご息女でございます。」

「娘!?」

「血が繋がっているだけ。戸籍は別。」

 無感情で訂正する白露先輩。

 でも俺にはそんな事はどうでもよかった。

 動揺と興奮を悟られないようにするのに必死。

 そのせいか、その後二人と話した内容は全く覚えていない。

「ユウセイ、話はまた今度。」

 後ろ髪を引かれる先輩を見送り、扉を閉めた事で抑え込んでいた感情は爆発させる。

「そうか、そういう事だったのか・・・・。沙織と明日香を快羅に紹介したのはアンタだったのか白露瑠璃子。」

 そこには彼女に対する尊敬は一切ない。

 信頼を置ける先輩から復讐の対象者へと変わっていた。

「許さない。絶対に許さないぞ。白露瑠璃子・・・。二人を快羅に捧げた報い、その身で受けてもらう。」

 ふはははは・・・・・とどす黒い高笑いが部屋中に反響。

 拳を強く握りしめ、強く誓いを立てる。

「屈辱の谷底に堕としてやる。覚悟しろ白露瑠璃子。」


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