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失ったモノ

(な、なんで?何で明日香と沙織が?どうして?)

 動揺が走る。

 めまいで足元が揺らぐ。

 アメジストとサファイアの正体が幼馴染の二人で、そして今自分が彼女達に行った行為を思い出して吐き気が込み上げてきたのだ。

 何で?何故?どうして?の感情が脳内で何度もフラッシュバック。

 その動揺で俺はこの檻の残り時間と周囲の警戒を忘れていた。

バリン!

とガラスが砕け散る音に我に返る。

 そして慌ててその場から飛び退く。

 3人のビジュエール・セイントが俺に襲い掛かっていたからだ。

「アメジスト!サファイア!」

 ルビーが二人に駆け寄り、エメラルド、パールが俺に対して戦闘態勢を見せる。

(撤退だ!)

 腰袋に収めていた閃光弾を地面に叩きつけて撤退。

「待ちなさい!」

 パールの右腕に装備された武装から乱射される十字手裏剣の一つが俺の肩を掠める。

 俺はステルス機能を使い、無事にこの場から逃げ出せることが出来た。



「逃がさないわよ!」

「二人とも待って!」

 後を追いかけようとするエメラルドとパールを止めたのはルビー。

「今は敵を追いかけるよりも二人の救助が先。エメラルド、すぐに車を用意して。」

「はい、お嬢様。」

「パールは二人を運ぶのを手伝って。」

「かしこまりました。」

 パールは気を失っている沙織を抱きかかえる。

「・・・・二人共、ごめんなさい。」

 ルビーの切ない声が公園に寂しく響いて消えた。





「は、は、は、は・・・。」

 無事に家へと戻ってきた俺。

 しかし激しい動機は収まらない。

 コップに注いだ水道の水を一気飲み。

 それでも落ち着きを取り戻せない。

「どうして明日香と沙織がビジュエール・セイントに?何故?」

 頭を抱える。

 大切な幼馴染に酷い仕打ちをしてしまった事。

 だがそれ以上にあの二人が自分の知らない所であの八重島快羅と繋がっていた事に一番のショックを受けていた。

「いつからだ!?いつから繋がっていたあの男と!」

 甘い声で快羅の名を呼び、彼に抱かれる二人の姿が脳内にチラつき、吐き気が。

「くそ、くそ、くそ!」

 やるせない苛立ちと怒りがこみ上げ、周囲の物にぶつける。

「まただ!またあの男に奪われたのか!!?今度は明日香と沙織が!くそ!!!!」

 八重島快羅は大企業の御曹司でその財力を使い、沢山の女性と関係を持っている事は以前から知っていた。

「だからこそ俺が彼女達を襲ってアイツに屈辱を与えようと思っていたのに・・・。どうして明日香と沙織が・・・・。」

 怒りと憎しみ、喪失感から髪を搔きむしる。

 消える事がないこの感情。

 忘れようとしても忘れることができない。

 裏切られた気分だ。

 ずっと傍にいたはずの幼馴染がいつの間にか快羅に奪われていた事実。

 その事をずっと俺に隠して秘かに快羅に身を委ねていた事に。

 騙された、影でのけ者、笑い者にされていたのかと疑う感情が体中を激しく走りまわる。

 全てが夢であれ、と現実逃避をするようにベッドへと倒れこむ。

 思考を全て手放し布団の中に包まる。

「頼む、全部夢であってくれ・・・・。」

 そう願いながら意識を無理矢理閉ざした。




「おはようお姉ちゃん。」

「明日香、大丈夫?」

 悠星の家の前で待ち合わせた二人。

 心なしかいつもよりも声の張りはなく、笑顔にも陰りが。

 二人とも昨夜の事で心が少し病んでいるのだ。

「うん、大丈夫だよ。」と元気な姿をあからさまに見せる明日香に沙織はそっと頭を撫でる。

「無理しないで。」

「お姉ちゃんこそ、無理しないでね。」

「・・・・・・。」

 無言になる沙織。

 大きく深呼吸して、両頬と2度叩く。

「さ、悠星を起こしましょう。」

「うん。悠星くんに甘えて忘れようねお姉ちゃん。」



 いつ眠りに就いたのか分からない。

 意識を失った、と言った方が正しいか。

 頭痛が酷い。

 まるでアルコールが分解されずに脳内に残っている、そんな感覚。

 やる気が一切沸かず、ただひたすら眠りたくない惰眠を貪りたい、そんな気分。

 だが、そんな気持ちを裏切るような甘い柔らかい声が耳にまとわりつく。

「悠星くん、起きて。朝だよ。」

 いつものように起こしてくれる明日香。

 だが今日はそれだけではない。

「悠星、早く起きないと遅刻するわよ。」

 反対側から沙織の優しい声が聞こえる。

 いつもなら嬉しい、喜ばしい事だろう。

 だけど今日は違う。

 二人の声は耳障りだ。

「う、るさいな。」

 これほど不機嫌な声が出て来るとは思わなかった。

 自分の感情が制御できていない。

「お、おはよう悠星。ど、どうしたの?」

 不調な声にいち早く異変を感じた沙織。

 動揺と暗い影が顔に浮かぶ。

「悠星くん、顔真っ青だよ。風邪でも引いたの?」

 それほど俺はひどい顔をしていたみたいだ。

 心配そうに俺の額に自分の額を合わせようとする明日香。

 その瞬間、脳裏に快羅に抱かれる明日香と沙織が浮かび、

「きゃあ!」

 俺は反射的に明日香を突き飛ばしていた。

「悠星、明日香に何を――――。」

「帰れ・・・。」

「え?」

「悠星、くん?」

 その時の俺はどんな顔をしていたのだろう。

 悲しみで打ちひしがれた絶望の顔。

 それとも裏切りと憎しみに怒りをあらわにした顔。

 ただ一つ分かっているのはただ感情に任せた、後先考えない言動。

 止まれない。

 抑えきれない。

 忘れることが出来なかった。

 僅かな理性が「止まれ、謝れ。今なら間に合う。」と腕を掴む。

 だけど、それはそれを振り払った。

「出ていけ!もう俺はお前達の顔なんて見たくない!」

「悠星、くん・・・なんでそんな事を言うの?」

 絶句する沙織。

 目じりに涙を浮かべ、今にも泣き抱きそうな明日香。

 二人とも俺が発した次の言葉に絶望した表情を浮かべる。

「穢れた女が!俺の前に姿を見せるな!」

 もう止まらなかった。

 近くにある置時計を地面に叩きつける。

 その音と行動にビクッと震える明日香。

 俺達の時間が止まる。

「わかったわ。行きましょう明日香。」

 最初に動いたのは沙織。

 震える明日香を立ち上がらせてゆっくり俺の部屋から出ていく。

「・・・・・・さようなら悠星。」

 扉を閉める時の沙織の声がとても切なく、震えていた。

「くっそ!!!!!!!」

 俺が叫んだのは二人が家から出て行った音が聞こえてから。

 枕を何度も何度も殴る。

 俺はここまで酷い事を言うつもりはなかった。

 だけど言わずにはいられなかった。

 あの八重島快羅に二人を奪われた事。

 その快羅に協力している事がどうしても許せなかったのだ。

 身の錆から出た感情のまま、暴れる俺。

 慟哭はいつまでも続いた。

 



「明日香、心配しないで。大丈夫よ、今日はちょっと悠星の機嫌が悪かっただけよ。」

 悠星の家を出た二人。

 隣で肩を落とす明日香を懸命に励ます。

 声が震えないように、気丈を張り続ける。

 明日香の為に。

「・・・・・・・お姉ちゃん、ボク、悠星くんに嫌われた。」

「そ、そんな事ないわよ。」

 お願い耐えて、と自分自身を励ます。

 だが明日香の涙を見て、限界だった。

 押し殺していた涙が堰を切る。

「ボク達、悠星くんに嫌われたよ。」

「明日香!」

「お姉ちゃん!」

 抱きしめ合い、泣き叫ぶ。

 耐えていた感情を全て外に吐き出すように。

 昨夜受けた恥辱と悠星に拒絶された事実が二人の感情を壊したのだ。

 その場で崩れ落ちる二人。

 それは沙織と明日香の初恋は儚く散った事を意味していた。


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