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この身に纏いし黒き装甲

「はぁ、はぁ、はぁ・・・。」

 バックヤードから裏道を壁にもたれかかりながら移動。

 痛む左肩を抑え、足を引きずり、一歩、一歩、ゆっくりと前に進む。

「くそっ・・・・。完成していたのか・・・。」

 壁に背中を預けて腰を降ろす。

 全身からの痛みに耐えきれなかったのだ。

 そして心も悲鳴を上げていた。

 その理由は明確。

 目の前で奪われた研究の成果――ビジュエール・セイントが活躍していたからだ。

 その眩しく美しい姿を直視する事ができず、俺は薄暗い裏へと逃げる事しかできなかった。

「快羅に奪われた研究・・・。もう実践投入まで漕ぎ着けていたのか・・・。」

 前世の俺が殺された時点では開発段階までしか進んでいなかったあの研究。

 正直な話、快羅が自分に代わりビジュエール・セイントを完成させられるとは思っていなかったのだ。

「快羅の才能を侮っていた・・・。いや、何処からか人材を調達してきたのか・・・・。ふふふ、ふはははは・・・・・。くそ!」

 怒りが壁にぶつける。

「嗚呼、これでこの世界は奴の思惑通りになるだろう。この力を使い、ジェノ・ブリークスを倒した後は自分の都合いい世界に作り変えるだろうな。」

 空しい乾いた笑いが漏れる。

「それに比べ、俺には何も・・・何も残っていない。」

 天井を見上げ、目を閉じる。

 このまま全てを無に帰したい気持ちになった時、一筋の光―――明日香と沙織の顔が脳裏に浮かぶ。

「いや、まだ俺にはあるじゃないか。」

 平穏な日常。

 二人と過ごす穏やかな日常を思い出し、立ち上がる。

「帰ろう、家に・・・。」

 そういえば二人は無事に逃げ延びれたのか?

 ふと心配になりポケットに仕舞っていた携帯に手をのばした、その時!

「シャー!」

 の声と共に足に巻き付き、細長い舌。

「なっ!?うわああああ。」

 落とし穴へと引き摺り込まれた。

「がはっ!」

 下水道の地面に背中を強打、体内の空気が吐き出した俺が目にしたのはトカゲのバケモノ。

(生き残りがいたのか!)

 傷だらけのトカゲのバケモノは容赦なく俺の肩口を一噛み。

 肉が咀嚼する音と骨が折れる音が体内から聞こえた。

「が・・・あ・・・・。」

 傷口から噴き出す血を美味しそうに飲むトカゲのバケモノ。

 俺の意識は徐々に薄れてゆく。

(俺はここまでなのか・・・。)

 抵抗する腕の力は徐々に抜け、地面に落ちる。

 脳裏を駆け巡る走馬灯。

(前世でも何も成し遂げず、そして今回も何もできず・・・。このまま・・・・。)

 死を受け入れ―――たくはない。

 まだだ!まだ俺は何も―――。

 思い返される今までの日常に帰るため。

「諦、めて、たまるか!!」

 その叫びに鼓動されて、奇跡が。

 俺の臍下丹田が突如、眩い虹色の光を放ったのだ。

「シャー!」

 その眩さに驚き離れるトカゲのバケモノ。

 俺も困惑。

 自身に起きている現象に戸惑う。

「これは一体?」

 眩い虹色の光は粒子となり、俺の腰に群がり形を現す。

 それはベルトだった。

 中指程の幅の帯に前面は楕円形のバックルで覆われた仰々しいベルト。

 そのバックルの四方には中央へ向かう赤い筋が刻まれており、中心部には拳サイズの黒いダイヤが埋め込まれていた。

「これは・・・、まさか!でも何で?」

 驚きと混乱で呆然としている俺はトカゲのバケモノの奇声で我に返る。

 脳よりも先に体が動いた。

 両腕でバックルを上下で挟み、口を動かす。

「輝けストーンジュエル!変身!」

 俺の言葉に黒いダイヤが反応。

 光を解き放ち俺の全身を包む。

 頭部を守り素性を隠すフェイスガード付きのヘルメット。

 全身を覆う露出ないボディスーツの上には胸部や腹部を守る赤黒いプロテクターと電子回路などが組み込まれたグローブ。

 そして足には膝まで覆い隠すブーツ。

 これは先程戦いを見せたビジュエール・セイントの前身――前世の俺が開発したプロトタイプの姿であった。

「シャー!」

 敵対心剥き出して飛び掛かるトカゲのバケモノ。

 俺は身体を屈めて避けて脇腹に蹴りを一つ。

(駄目だ。ダメージが通っていない。)

「ジュロロ!」

 馬乗りされる俺。

 爪を突き立てて何度も振り降ろすのを俺は腕でガード。

 このスーツのお陰でダメージは通りにくくなっており、何とか耐えることが出来る。

 背中を蹴って相手をどかし反撃。

 俺が馬乗りになり、何度も拳を振り降ろす。

「くそ!くそ!くそ!」

 抵抗する爪を振り払い、相手の顔面に何度も何度も拳を振り降ろす俺。

 変身することは出来たが、それ以外の出力が殆どないのだ。

 肉弾戦しかできない。

 ただ乱暴に暴力的な攻撃を繰り返す。

「シャ!シャ!」

 必死に抵抗するトカゲのバケモノ。

 背後の蹴りや尻尾、噛み付きに気を付けながら、顔や喉を殴り続ける。

 そして気付く。

 トカゲのバケモノが異様に胸元のジェノ・ブリークスの紋章を庇っている事に。

 もしやと思い、腕を払い退けて拳を一撃。

「ギャアア!」

 今まで聞いた事がない悲鳴を上げた。

「ここが弱点か!」

 容赦なく弱点を攻め立てる。

「ジュロロ!シャ~~~!」

 弱点を知られ、今まで以上に暴れるトカゲのバケモノ。

 だが俺はこの優位なマウントを奪われないように抵抗に耐え、弱点を殴り続ける。

 何度も何度も。

 ただひたすらに。

 無我夢中に。

 絶え間なく殴り続けた。

 相手が絶命している事にも気づかずにずっと・・・。

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