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8話 骸骨神官は異常種か?

 気が付くと選択肢の無い状況で、一方的に押し付けられた目標を果たす事を強いられる。出来なければ、終わり。しかも、報酬は提示されていない。

(人生って、ままならないものだな。お前達もそう思わないか?)

 ダリアスはそう呼びかけたが、返事は帰ってこない。何故なら、相手は彼と同じスケルトンだから。

(まあ、俺が質問した気になっているだけだから、答えが返ってこなくても当然だけど)

 そして、彼自身もスケルトンだからだ。


 吸血鬼同士のトラブルを解決するために開催されるブラッドゲーム。それに駒として強制参加させられることになったダリアスは、やや自暴自棄になりつつも前向きに行動していた。

 大将役に任命された彼は、まずゲームで自分の指揮下に入るアンデッド達を確認した。


(俺以外は、アーデリカが言っていた通りただのゾンビとスケルトンばっかり。オーガやオークのアンデッドは戦力になりそうだが、他はただの雑兵だな)

 確認すると、集められたアンデッドは自我を喪失したスケルトンやゾンビばかりが数十匹。三日後まで時間はあるが、より上位のアンデッドが魔法陣から現れる事を期待するのは神頼みと同じだろう。


(……とりあえず、動かしてみるか。整列! 俺の後ろに付き従え)

 大将の目印である勲章に指で触れて命じると、置物のように立ち尽くしていたアンデッド達が動き出した。

(この勲章の力でアンデッドを操って、ここから逃げる作戦を練る……のは無理だろうな。俺自身、ゼルブランドに支配されている)


 こうしている今も、ダリアスはゼルブランドの支配下にあった。逃亡や無謀な反乱を企てる以外の行動が自由なのは、ゼルブランドが禁じていないからだ。

(偉そうな奴だったけど、実は寛大なのか? それとも、警戒するに当たらないと思われているのか……まあいいや、好きにやらせてもらおう)

 そう考えている間に武器庫を通り過ぎ、扉から砦の外に出る。日はすっかり沈み、青白い月が夜空に輝いていた。


(外に出たらレオーネって言う吸血鬼からも見えるだろうけど、たいした事をするわけでもないから大丈夫だろう)

 ダリアスはアンデッド達を引き連れて外に出ると、そのまま適当に行進をしたり、アンデッド達を整列させたりと、動かし始めた。自分がどれくらい彼らを指揮する事が出来るのか、そしてアンデッド達が本当に従ってくれるのか試すためだ。


 メイスを指揮棒代わりに振って、盾を叩いて号令を出す。すると、アンデッド達は思っていたより簡単に動いてくれた。

 もしかして自分には隠れた才能があったのかと高揚したダリアスだが、すぐに思い違いに気が付いた。


(そうか。こいつらには自我が無いから、俺の命令に不満を覚える事や、反抗する事が出来ないのか!)

 スケルトンやゾンビには、ダリアスに対する反発も無ければ侮りも無い。感情も思考能力も無く、ただ命令に従う。そのため、ダリアスの指図に逆らわず、怠けず従う。


(これなら盾になるよう命令しても逆らわずに従ってくれるな。ブラッドゲーム、フォースティアの神聖魔法無しでも何とかなりそうな気がして来た)

 アーデリカからブラッドゲームの勝敗後に待ち受ける自分の処遇について聞いたダリアスは、自分の立ち回りについて考えていた。


 まず、自分の有用性をアピールしつつ、出来るだけ卑怯な手を使わずにルールを守ってゲームに勝たなければならない。

(吸血鬼はプライドが高いらしい。あまり卑怯な裏技を使うと、ゼルブランドに『私の部下には相応しくない』と思われるかも。それに、ゲーム相手のレオーネから恨みを買い過ぎるのも良くない)

 ゼルブランドがレオーネにブラッドゲームを仕掛けた動機は、引き抜きだ。彼女との関係悪化は望んでいないはず。


(恨みを買い過ぎると、ゼルブランドがレオーネの怒りを鎮めるために元凶の俺を彼女に売り渡すかもしれない。なるべく正攻法で勝とう)


 次に、フォースティアの神聖魔法は使わず、ディランディアの神聖魔法だけで勝たなければならない。

 フォースティアはアンデッドの対敵であるため、その加護をダリアスが得ていると知られたら部下として受けいれられるどころか、その場で殺されてしまうに違いない。


(もっとも、俺の部下もアンデッドだから『閃光』も『浄化』も使えないんだけどね)

 敵を退けるために神聖魔法を唱えたら、味方も退いて結果的に孤立してしまった、なんて事になりかねない。ディランディアの神聖魔法でも、『浄化』を使う事は出来ない。


(主に使うのは身体能力と武具を強化する神聖魔法と、『女神の一撃』だな。……そう言えばこいつら、結構傷ついているな)

 アンデッド達を班分けし、班ごとに命令を出して動かしていると体が傷ついている個体が多い事に気が付いた。肋骨が半分欠けている、片腕が動いていない、脚を引きずって強引に動いている、等々。


 おかげで自然と行進に遅れる個体が居て、列が乱れてしまう。


(どうにかしないとな。……じゃあ、そろそろ中に戻るか)

 ブラッドゲームで実際に戦うフィールドは分かった、アンデッドが自分の言う事を聞いてくれるのも理解した。後は手の内を相手にさらす事になるから、砦の中でやった方が良い。


 メイスで盾を叩き、動きを止めて振り向いたアンデッド達を身振りで自分について来るよう命じ、ダリアスは砦の中に戻ったのだった。


「なに、あれ?」

 その様子を、ゼルブランドの砦の向かいの砦から一人の美女が眺めていた。

 それは銀色の巻き毛を伸ばし、青白い肌に肉感的で胸元や腰つきに豊かな丸みのある事がはっきり分かるドレスを着た二十歳前後の長身の美女で、貴族のご令嬢か、若い婦人に見えた。

 ただその瞳は血のように紅く、紅が引かれた唇の間からは白い牙が僅かに覗いていた。


 彼女こそがゼルブランドが改革派に引き抜きをかけている女吸血鬼、レオーネ・フラリスだった。

「何か興味深い事でもあったのかい、レオーネ?」

 窓から離れた椅子に腰かけ、分厚い本を広げていた小柄な人物が彼女に問いかけた。フードを目深に被り、体の線が分かり難いローブを着ているためどんな容姿をしているのか不明だが、その声は高く、身体も小さい事から子供のようにも思える。吸血鬼を呼び捨てで呼ぶ以上ただの子供ではないはずだが。


「プルコット、外でアンデッドが行進をしていたのよ」

「今はプルニス。多分、ゼルブランドが集めたアンデッドを君に見せびらかしているんじゃないかな?」

「そんな様子じゃなかったのよ、プルニス。ゼルブランドやその部下は姿を見せず、スケルトンがアンデッドの指揮をしていたの」

「スケルトンが? ハイスケルトンやデュラハンではなくて? 本当かい?」


 プルニスは本を閉じると、椅子から立って窓辺に近づいた。しかし、その時には既にダリアスは砦の中に帰った後だった。

「目の所が青白く光っていたから、ただのスケルトンじゃないわね。でも残念、もう終わった後よ」

「そうか、それはたしかに少し残念だ。それで、指揮は見事だったのか?」

「分からないわ。行進させたり、いくつかのグループに分けたり、そんな感じ」


「ああ、君も指揮とかできないから見分けられないのか」

「仕方ないじゃない、自分でやった方が早いんだもの」

 そう言うレオーネに、プルニスは椅子に戻りながら告げた。

「でもそのスケルトンがハイスケルトンじゃなければ、生前指揮官だったか、異常種の類か……もしくは、ゼルブランドが操っていただけかもしれない」


「ゼルブランドが? でも、ブラッドゲームではプレイヤーが直接アンデッドを操るのは禁止されているはずだけど」

 プルニスの意見に、レオーネは意外そうな顔つきで窓から見える彼の砦を眺めた。彼女にとってゼルブランドは傲慢でいけ好かない相手だが、傲慢であるだけに卑怯な手段を嫌う堂々とした人物だった。


 だからレオーネはブラッドゲームに応じたのだが……その印象が間違っていたのだろうか?


「今はブラッドゲームの準備期間。準備期間中は、アンデッドを直接操ってもルール違反じゃないよ」

「あ、そうだったわね」

 卑怯な手段は嫌っても、ルール内の搦手を使う事はあるだろうとレオーネはゼルブランドに対する印象を訂正するのを止めた。


「つまり、ゼルブランドはスケルトンの上位種を手に入れたように見せかけて、私達を威圧しようとしたという事なの?」

「多分そうだと思う。立会人に指定されたあの場所で最上位のスケルトンが手に入ったとは、考えにくいから。

 まあ、もしそうだったとしたらそのスケルトンを貰えばいいと思うよ。敗者の権利を行使して」


「それって、私がゼルブランドに負けるって事なんだけど、その時はあなたもあいつの配下になって革新派に入るのよ」

 ブラッドゲームの勝敗は、プレイヤー自身だけではなくその配下にも影響する。レオーネが負ければ、彼女の配下は当然ゼルブランドの配下でもあるという事になる。


「僕は吸血鬼じゃないし、レオーネの配下でもないから関係ない。その時はしばらく様子を見るけど、居心地が悪くなりそうならさっさと逃げ出すよ」

「薄情者、友達甲斐の無い奴。まあ、好きにしなさい」

 しかし、プルニスとレオーネの関係は主従ではなくただの友人同士のようだ。非常に珍しいと言えるだろう。


「好きにするさ。だからレオーネ、君も自分のために身の振り方を決めるべきだ。……日和見はそろそろ潮時だと思う。君は目立ち過ぎた。保守派の連中も、ゼルブランドの配下になれば少しは弁えるだろう」

「確かに……保守派よりは革新派の方がマシかもね。とはいえ、負けて配下になるより勝って対等の立場をもぎ取りたい。アンデッドの確認でもして来ましょう。せめてスケルトンナイトがかかっていればいいけれど」







 その頃、ゼルブランドの砦でも動きがあった。

「異常種だと?」

 ダリアスにブラッドゲームについての説明を終え、戻ったアーデリカの報告を受けたゼルブランドは彼女にそう聞き返していた。


「あのスケルトンウォーリアーがか? 変異種ではなく?」

「はい、ゼルブランド様、あれはスケルトンから逸脱した個体です」

「逸脱とまで……詳しく説明しろ。後、俺と話す時は――」

「面倒なので報告が終わってからにしてください」


 アーデリカは何か言いかけたゼルブランドの言葉をきっぱりと遮ると、報告を続けた。


「あのスケルトンにブラッドゲームの説明をしながら様子を見ましたが、とりあえず彼と評しますが……彼は私の話に頷き、首を傾げ、身振り手振りで質問をしてきました」

 アーデリカはただダリアスに説明をしていた訳ではなく、同時に彼がどの程度自我を残しているのか試していた。彼の質問を故意に誤った意図に解釈して、その反応を見た事もあった。


「彼は自我が残っているのではなく、生前の自我や思考をほぼそのまま維持している。我々吸血鬼やリッチのように」

「なるほど。確かにそれは異常種だな」

 アーデリカの説明を聞いて、ゼルブランドもダリアスがスケルトンとしては異常である事に納得した。


 下位のアンデッド、ゾンビやスケルトンの中には生前の知識、技術を維持している種族が存在する。そう、あくまでも『生前の』だ。彼らはアンデッド化した後の経験によって変化し、新しく知識や技術を学習する事は無い。


 ゾンビウォーリアーはどんなに武術が得意でも、生前知らなかった技は覚えない。スケルトンメイジも、アンデッド化後に新たな魔法を習得する事は無い。

 だからダリアスがただのスケルトンなら、自我が残っていても生前知らなかったブラッドゲームのルールを把握できるはずがない。


 アーデリカは最初、自我が残っているスケルトンが「納得して戦えるように」なればそれで十分だと思い、ダリアスに説明したが、それで彼がスケルトンとしては異常である事に気が付く事が出来た。


「それで、あいつはどんな性格だった?」

「流石にそこまでは。文字通り表情が無い相手ですし、会話も出来ませんから。ただ、そう……普通に善良で比較的紳士的な人物のように思えました」

 ダリアスも伝わりやすいよう感情を仕草で表していたが、そこまでしか分からなかった。


「私に対して焦りは見せても、苛立ちは見せませんでした。自分と私の力や立場の違いを理解していたのなら、やや理性的でもあるのかもしれません」

「それは、アンデッドになったとは思えない程平凡さを保っている奴、と言う事か? ある意味では異常だが……なら、強さはどうだ?」


「それこそ分かりません。ただ、ゼルブランド様の支配に逆らう事が出来たのなら、私などより素質はあると思います」

 ゼルブランドはそう答えるアーデリカの腰に手を回し、有無を言わさず抱き寄せた。

「リカ、自分を卑下するな。それはお前を真の意味で花嫁に選んだ俺が許さん」

 男性の吸血鬼にとって花嫁とは、ただの贄ではなく新たな同族として迎え入れる人間の女という意味がある。しかし、多くの場合は人間のように夫婦となる訳ではなく、愛人兼配下や弟子として扱われる事が多い。


 だが、ゼルブランドはアーデリカに妻としての役割を望んでいるのは、その紅の瞳を焦がす情熱を見れば明らかだった。


「……面倒な男。あたしが欲しければ閨で媚びろとでも命令すりゃあいいのに」

「ふん、それでは何の意味も無い」

「改革派の目的は、聖女を花嫁にする事じゃないか。あたしじゃない」

「確かに聖女は花嫁にするが、それはお前と同じ意味ではない。そうだな、精々妹分か? リカ、お前を聖女の義姉にしてやろう」


 恋人達が創る二人だけの世界と評するには、やや物騒な会話を交わすゼルブランドとアーデリカ。もしこれをダリアスが聞いていたら、『やや理性的』と言う評価をかなぐり捨てて二人に殴りかかっていたかもしれない。


 革新派の目的は聖女の血を吸い、祝福を与えて吸血鬼の一員とする事だった。それによって何故革新が起き、吸血鬼にとってあるべき世界がやってくるのかは不明だが……二人にとって既知の事だったためゼルブランドも態々説明しなかったし、アーデリカも尋ねなかった。


「別に嬉しくないよ。あんたは、もっと吸血鬼らしくなったらどうだい?」

「俺は誰よりも吸血鬼らしく、好みの女を花嫁に選び、綺麗に飾り上げてこうして腕の中に囲っている。逆らいたければ、俺を超えるがいい。

 ……チッ」


 アーデリカと見つめ合っていたゼルブランドは、不意に彼女から視線を逸らすと舌打ちをした。その数秒後、控えめなノックが響く。

「ゼルブランド様、同僚を威圧するのはおやめください」

 二人きりではなくなったため、アーデリカが仕事用の態度に戻る。一先ず、逢瀬はここまでかと諦めたゼルブランドは「入れ」と入室を許可した。


「ゼルブランド様、大将役のスケルトンについてご報告が」

 扉から入って来たのは、執事の格好をした真面目そうに見える青年だった。もちろん人間ではなくアーデリカと同じレッサーヴァンパイアだ。


「どうした? 砦の外でアンデッドを率いて行進していた事はリカから聞いているぞ」

「それが……行進から帰って来た途端、アンデッドの解体を始めました」

「なんだと? 何を考えているんだ、あの異常種は?」

 青年の報告を聞いたゼルブランドは、自分の目で確かめるために歩き出した。







 ブラッドゲーム当日、夕日が沈むと同時に双方の砦の間にある平原を見下ろせる位置に設置された観戦席に、一匹の蝙蝠が降り立った。

「……」

 すると、次の瞬間蝙蝠は男性に姿を変える。痩身に黒を基調とした夜会服を着ており、その耳は長くとがっていた。


「ようこそ、ビョーグ卿」

「この度はお世話になります」

 それに続いて、ゼルブランドとレオーネが現れた。それぞれの背後にはアーデリカやプルニスが控えている。


「私こそ、誉れ高き立会人としての務めを果たす機会を得られた事に感謝を。双方、その牙に恥じない競い合いを期待する」

 ビョーグと呼ばれた痩身のエルフの吸血鬼が慣例に則って応じる。


「では、改めて……我らが始祖、『死神』ガルドールに、ブラッドゲームの立会人の任に徹する事をここに誓う」

 そして、神聖魔法の『誓い』を発動する。『誓い』は対象に加護を与えた神に対して誓いを捧げその遵守を強制する魔法だ。


 ブラッドゲームでは、立会人が自分やプレイヤーが所属している派閥に忖度する事無く、ルールにのっとった判定を下すよう『強制』の魔法を自らに使う事になっている。


「では、双方駒を盤場へ」

 ビョーグに促された二人が頷くと、それぞれの砦の門が開きこの日のために集められたアンデッド達が姿を現す。

 レオーネの手駒は、古戦場のケルン草原で集めた事から圧倒的にスケルトンが多く、そのほとんどが朽ちかけた兜や鎧を体に引っかけている。その数はおおよそ百。


「レオーネ殿の大将役は、あの騎乗しているアンデッドか。古戦場だというのに、中々の大物が残っていたようだな」

 ビョーグが目を止めたのは、骨だけになった馬に騎乗する騎士姿のスケルトンだった。大将役の勲章以外にも、ボロボロになったマントを羽織り、傷だらけだが紋章が刻まれた鎧を纏っている。


「ええ、運良く『死兵戦』におあつらえ向きのアンデッドを手に入れる事が出来ました」

 レオーネが大将役に任命したのは、スケルトンコマンダー。スケルトンホースに跨り、敵軍を倒す事に憑りつかれた戦場の亡者だ。


 レオーネはそのスケルトンコマンダーに従うよう、他のアンデッド達に命じて即席の死者の軍隊を作り上げる事に成功した。

(普通の『死兵戦』なら、これで私の勝利はほぼ確定だけど……)

 レオーネが探るようにゼルブランドに視線を向けるが、彼は余裕の笑みを崩していなかった。


(想定していたより手強そうだ。あのスケルトンウォーリアーで勝てるか?)

 実は、内心は不安を覚えていたのだが。


「ゼルブランド殿のアンデッドは、アンデッド化した魔物が大半を占めると予想していたが……武装した個体が多いな。ん? あのオーガスケルトンが背負っているのは盾か? それに桶のような兜かと思ったら桶を被っている!?」

「驚いたか、ビョーク卿? 俺も初めて見た時は驚いた」


 スケルトンやゾンビ等の下位のアンデッドは、武装を自主的に変えない。思考力が無いため、ゾンビは兜を見かけても被らないし、スケルトンソルジャーは新品の武具が転がっていても、死ぬ時に握り締めていた刃毀れした剣や錆びた槍を使い続ける。


 下位の思考力を持たないアンデッドが、武装を変えるのは何者かに支配され命じられた時だけだ。ブラッドゲームではそうした行為を、「アンデッドの強化及び改造」であるとして禁止している。


「ゼルブランド、集めたアンデッドを強化するのはルール違反のはずだけど?」

 レオーネが責めるというより、「何故そんな分かり切った事を?」と困惑した様子で尋ねるとゼルブランドは苦笑いを浮かべた。


「レオーネ、そしてビョーグ卿、疑う気持ちは分かる。俺もあれを見た時は、疑われるだろうと思った。だが、俺は何も命じていない。大将役に任命したスケルトンが、勝手にやった事だ」

「あの妙なスケルトンが? 本当に?」


「ああ、武器庫に放置されていた武具を使ってな。様子を見させていた配下が何度も報告に来たから、何度も楽しみの邪魔をされた。

 疑うなら、俺も嘘をつかないと『誓い』を立てよう。それから改めて尋ねるといい」


「……いいえ、結構」

 実は、ブラッドゲームのプレイヤーはルールを破らないと『誓い』を立ててからゲームに参加している。その事を思い出したレオーネは、ゼルブランドの言葉に納得して疑問を収めた。


「その妙なスケルトンと言うのは、あれか?」

「そうだ、ビョーグ卿。なかなか面白い奴でな、ゲームを盛り上げてくれるだろう」


 ゼルブランドの砦から出て来た、スケルトンとゾンビの混成軍約八十体の中心にいる勲章を肋骨に付けたスケルトン、ダリアスをゼルブランドは笑いながら見つめた。


(何とか間に合った……アンデッドじゃなかったら無理だったな)


 ダリアスは『死兵戦』で勝って生き残るために、彼なりに思いつくすべての事を地道に行った。その一つが、アンデッド達の武装化だ。

 放置されていた砦の武具を使い、頭部を破壊されたら動かなくなるゾンビには兜を被らせ、スケルトンは頭部より重要な背骨を守るために胸当てと背甲を装備させた。


 砦に放置されていた武具は人間用だったのでオーガやオークのアンデッドには、体格が合わなかったし、そもそも数が足りなかった。だから仕方なく、兜の代わりに武器庫の端に置かれていた木桶を被らせたし、胸当ての代わりに盾をベルトで結び付け、甲羅のように背負わせた。


 更に遠目だったからかビョーグ達はまだ気が付いていないが、短剣や折れた槍を腕や脛に添え木のように巻きつけ、防具代わりにしている。

 下位のアンデッド達に学習能力は無いのでいくら人間用の武器を与えても、生前使っていなかった物は振り回す事すらしない。だから、手足の骨を補強するために使用していた。


 それをダリアスは一人で行った。他にもいろいろとしていたため、彼がこの砦に来てから殆ど休みなく働いている。もし彼が生きていたら、今頃過労と飢餓で倒れているだろう。


(でも、お陰で何とか形にはなった)

 ダリアスが率いるゼルブランドのアンデッドは、スケルトンとゾンビが混ざった群れが八十体ほど。三分の二程が魔物のアンデッドで、その半数以上がゴブリンやコボルト。残りはオークが数匹、そしてフォレストウルフとマッドボアが一頭ずつ。そしてオーガスケルトンが三体だ。


 軍団しては中々の戦力だ。現れたのが人里近くだったら、今頃冒険者ギルドは大騒ぎになっていただろう。


(そうだよな?)

 だが、確認するように周りを見ても誰もダリアスを顧みない。仲間意識も何もない、ゼルブランドに「こいつに従え」と命令されているから従うだけの、命も自我も無いアンデッドの群れだ。

 彼らがダリアスに感謝する事は無いし、『死兵戦』で破壊されても彼を恨む事すらない。それを改めて実感した彼の何もない胸に、虚無感が満ちる。


(やれることはやった、後は全力を尽くそう。……リディア、お兄ちゃんは頑張るからな!)

 だが、太陽が沈んだ方向に見て妹の事を考えるだけで、彼の眼窩に灯る青い炎に強い意志がくべられ、一際強い光を放つ。


「では、ブラッドゲーム『死兵戦』を開始する!」

 ビョーグが宣言すると同時に、ゼルブランドとレオーネがアンデッド達に『やれ!』と命令を下す。


 無数のゾンビの呻き声とスケルトンの骨が立てる乾いた音が、鬨の声の代わりに響いた。




〇現在のダリアスの弱点


・日光への恐怖心

・軽くなって踏ん張りが効かなくなった足腰

・嗅覚と味覚の喪失。

・睡眠や飲食で精神を癒せない。

・浄化魔法でダメージを受ける。自分が唱えた場合でも同様

・回復魔法でダメージを受ける。自分が唱えた場合でも同様

・人を見殺しに出来ない

・吸血鬼に逆らえない


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