7話 骸骨神官成り下がる
吸血鬼とは、魔物……アンデッドであると同時に人でもあるという特異な種族とされている。
『死神』ガルドールを祖とするが、その主な繁殖方法は『血の祝福』と言う儀式で他種族を同族に変異させるという方法を取る。更に、存在進化が可能である点や、日光に焼かれ、銀に対する脆弱性、そして神聖魔法の『浄化』でダメージを受ける等人間には無い様々な弱点を持つ事から魔物、それもアンデッドであるとされている。
しかし、人間と交配しダンピールと言う子孫を作る事が可能であるため、完全なアンデッドではないともされている。
そうした様々な特徴がある存在であるのに、『中途半端』ではなく『併せ持つ』と評される理由は吸血鬼が強力であるからだ。
『死神』ガルドールを除けば、確認されているだけでロード、ハイ、ノーマル、レッサー、そしてスレイブと言う階級に分かれ、下から二番目のレッサーでも討伐には四つ星冒険者が数人必要だと言われている。
そして吸血鬼の厄介な点の一つに、彼等には他の魔物と違い、人間と同様に時間をかけて陰謀を企てる忍耐と狡猾さがあるという点だ。
悪知恵が働くとされるゴブリンがキングに存在進化し、一万匹の大戦力を得たとしてもやるのは精々周りの村や街に対する蹂躙や略奪程度だ。周りの国から冒険者や傭兵が集まってくるし、政府や各国の神殿が救援のために戦力を送るからだ。
だが、吸血鬼は違う。手に入れた戦力を密やかに維持し力を蓄え、人間社会により大きな被害を及ぼす。街一つではなく国を滅ぼすために暗躍する。歴史書には記されていないが、ある栄華を極めた王国の滅亡の裏には吸血鬼の影があったと伝えられているほどだ。
(そうか、俺がここに来てしまったのはこの吸血鬼の能力のせいだったのか! ……はっ!?)
赤毛の青年の姿をした吸血鬼、ゼルブランドを前にダリアスは驚愕したが、気が付くと膝を突いて首を垂れていた。
「直接話しかければ抵抗する事は出来ないか。ああ、勘違いするなよ。ハイスケルトンナイトだろうとデュラハンだろうと、格下のアンデッドがこの俺に逆らう事は不可能だ。俺に屈する事は当たり前の事であって屈辱ではない」
こちらを労わるような口調で傲慢にそう言い放つゼルブランド。彼のつま先を見ながら、ダリアスは(吸血鬼はプライドが高く人間はもちろん自分以外のアンデッドも見下しているって本に書いてあったが、本当だな)と思っていた。
ノーマル以上の吸血鬼は、アンデッドを操る能力を持っている。操れるアンデッドの種類や数には個体差が出るそうだが、吸血鬼本人が強いほど強力なアンデッドを支配できると聞いた覚えがあった。
(ハイスケルトンやデュラハンは、一体討伐するのに四つ星冒険者が数人必要な強敵だったはず。それを従えられるって事は……こいつ、もしかしてハイヴァンパイア以上なのか?)
ノーマルの吸血鬼でも、六つ星冒険者でなければ相手にならない強さだと言われているのに、ハイヴァンパイア以上なら七つ星冒険者や魔道士ギルドの一級魔道士、そして天才的な剣の腕前で知られるアルザニス王国の第三王子のような人類の中でもトップクラスの実力者が居なければ倒せないだろう。
そんな存在がアンデッドを集めて何をしようとしているのか。
(とりあえず、行ってみてから考えようと思っていた俺がバカだった!)
「では、任せたぞ」
(いったいどうすれば……って、えっ?)
ゼルブランドは、膝を突いたままのダリアスにそういうや否や、身を翻した。視界から彼のつま先が消えた途端、プレッシャーが一気に軽くなる。
しかに、何を任されたのかさっぱり分からない。反射的に呼び止めようとするが、声が出せないダリアスはどうしていいか分からず狼狽えるばかり。
「お待ちください、ゼルブランド様」
そんな彼を見かねたのか、凛とした声がゼルブランドを呼び止めたかと思うと、やはり上からふわりと羽のようにゆっくりと誰かが降りてきた。
「『任せたぞ』、だけではこの者も理解できないかと。自我があるなら猶更」
降りてきたのは、アイスブルーの髪に紅い瞳の美女だった。メイド服を着ている事から、ゼルブランドに仕えている吸血鬼なのだろう。
「リカ、スカートで上から降りるのははしたないぞ。見ろ、お前の脚線美に大勢の下僕共が釘づけだ」
「面倒臭ぇ」
「おい」
「ゼルブランド様からは見えないよう気を配りました。それでよいかと」
リカと呼ばれたメイドは一瞬低い声を出したが、すぐに凛とした態度に戻った。
(あ、確かにさっきこの人のスカートの中が丸見えだったな)
膝を突いたままその様子を眺めているダリアスは、リカの脚線美と下着を目にしていた事に気が付いた。
(でも全然嬉しくないな。なんでだろう?)
シスコン気味のダリアスだが、異性には普通に興味を持っていた……はずだ。恋人がいた記憶はまったく無いが、冒険者ギルドの受付嬢に微笑まれただけで、その日一日幸運な気分で過ごせた覚えがある。
しかし、ついさっきリカのスカートの中身を見た時は何も覚えなかった。ただ視界に入って来ただけだ。
(やっぱりアンデッドになったからかな。心臓が動いていないと、ときめきも覚え無いのか)
人間の三代欲求の内、睡眠欲と食欲を失った事は自覚していたが、性欲も無くなっていた事に遅ればせながら気がつき、むなしさを覚えるダリアスだった。
「それと、私の態度に問題がおありでしたら、『時々は本音を言え』と言うご命令を撤回するべきだと具申いたします」
「いや、それは良い。しかし、こいつに説明するのは面倒だ。お前がやっておいてくれ」
「レッサーヴァンパイアの私には、アンデッドを支配する力はありません。ご命令とあらばやりますが、彼が聞いてくれるかは責任を持ちかねます」
「よし、なら――スケルトンウォーリアー、貴様はアーデリカの指図に従え。逆らう事は許さん」
内心ショックを受けていたダリアスは、ゼルブランドに突然そう命令されて驚いたが、首は勝手に上下に動いていた。吸血鬼のアンデッド支配能力、恐るべし。
(それはともかく、俺の事をスケルトンウォーリアーだと勘違いしているのか? 俺、クレリックなんだけど)
今のダリアスは生前から愛用しているメイスと、ついさっきオーガから鹵獲したラウンドシールドを装備し、遺品を包んだ布を背負っているだけで、後は腰布すら持っていない。
聖職者らしさの欠片も無い恰好のため、ゼルブランド達吸血鬼がクレリックだと見抜けなくても無理はない。
(でも、教えない方が良いよな。こいつらが何をやろうとしているのか分からないし、ディランティアはともかく俺がフォースティアの加護も持っている事を知られたら攻撃されるかもしれない)
目の前で神聖魔法を使って見せれば、ダリアスがスケルトンクレリックである事をゼルブランドに教える事が出来る。しかし、改革派吸血鬼の中で五本の指に入る実力者らしい彼がこれから何をするつもりなのか、分からないのに手の内を晒すのは躊躇われた。
それに、『太陽と生命の女神』フォースティアは、『死神』ガルドールの仇敵だ。当然、ガルドールを祖とする吸血鬼たちもフォースティアとその信者を目の敵にしている。その女神の加護を受けているなんて知られたら、どんな目に合うか分からない。
(俺程度が切り札を隠したところで、吸血鬼の陰謀を止める役に立つとは思えないが、僅かでもチャンスがあるかもしれない。
とりあえず、こいつらの目的を知るためにもアーデリカさんの指示に従うぞ!)
しかも、ゼルブランドの支配はダリアスが自覚しているよりも強く作用していた。もっとも、自覚していたら絶望して何もかも諦めてしまったかもしれないから、無自覚だったのは幸運だっただろう。
「では、あなたが行うべき事をこれから歩きながら説明します」
主従間での話は終わったのか、ゼルブランドは気が付くといなくなっていた。上から強力な気配がするので、元居た場所に戻ったのだろう。
「ついて来てください」
言われるままにアーデリカの後をついて行くダリアス。ここに来た当初は気が付かなかったが、彼から見て後ろに大きな門があり、彼女はそれを片手で軽々と押し開いた。
(たしかレッサーヴァンパイアだって言っていたから薄々察していたけど、細腕に似合わない怪力だな)
吸血鬼は、全ての個体が怪力の持ち主だ。最下級のスレイブですら、筋力は熊並みとされる。その一つ上のレッサーヴァンパイアらしいアーデリカの腕力は、ダリアスが戦ったオーガウォーリアーに匹敵、もしくは超えているはずだ。
アーデリカが本気になれば、一撃でダリアスの全身の骨が砕かれてしまうに違いない。ゼルブランドに支配されているので元々不可能だが、間違っても彼女に逆らわないようにしようと決意した。
そうして彼女に続いて扉をくぐると、そこは武器庫になっていた。しかしあまり手入れはされていないらしく、埃を被った鎧や、蜘蛛の巣が張った槍等が並んでいる。
(戦場跡で落ちていた武器を拾い集めてきました、って感じだな。俺のメイスやこの盾もここに並んでいてもおかしくない状態だけど)
周囲を見回してそんな感想を抱いたダリアスに、アーデリカは告げた。
「あなたにやってもらうのは、ブラッドゲームの駒です」
アーデリカにそう言われたダリアスだったが、そのゲームは彼にとって聞き覚えの無い物だった。
(本当に駒として呼ばれたんだな)
ただ、ゼルブランドの手駒と言う言葉は、文字通りの意味だったのだと理解した。
(う~ん、こうすれば俺がブラッドゲームを知らないって伝わるかな?)
次に、ダリアスはアーデリカに説明を促すために首を大きく傾げて見せた。声も出せず、表情筋も無いスケルトンが他人とコミュニケーションを図る難しさを、彼はやっと自覚した。
「……なるほど。ブラッドゲームについて説明して欲しいのですね? 分かりました」
意図を理解してもらえた喜びで何度も頷くダリアスを先導して歩きながら、話し出した。
「ブラッドゲームとは『死神』ガルドールが冥界に去ってから行われるようになった、吸血鬼同士の揉め事を解決するための方法の一つです」
吸血鬼達は他の多くの魔物と違い、人間の社会を模した組織を営む存在だ。そのためお互いの利益や思惑の衝突によって発生する諸問題を解決するための方法が必要になる。
だが、ガルドールが冥界に去ってから吸血鬼達は一つの組織ではいられなくなり、いくつかの派閥に分かれた。そのため吸血鬼全体を律する存在が無くなってしまったのだ。
当初、揉め事は当人同士が解決していた。だが、次第に仲裁役として当事者達の親に当たる上位の吸血鬼が関わるようになり、話し合いでの解決が失敗すると派閥ぐるみの闘争に発展する事がしばしば起きた。そして、結果的に吸血鬼の勢力は減退し、人間や他の強力な魔物に対して後れを取るようになった。
それを重く見た各派閥の上層部が話し合い、揉め事の解決として当事者をプレイヤーとするゲームによる決闘が行われる事になった。それがブラッドゲームである。
(内容は物騒だけど、吸血鬼と言う種族が培ってきた文化か。ギルドの本にはそんな事書かれていなかったから、新鮮だな)
実に興味深いと、相槌代わりに音を立てて頷くダリアス。
「ゲームの内容はいくつかあり、事前に立会人がクジで決定します。プレイヤーである当事者達が直接争わない事だけが共通しています。
私が今まで目にしたものを例に上げると、立会人が無作為に攫って来た人間達の中から一人ずつ選び、スレイブヴァンパイアにして殺し合わせるゲームがありました」
(吸血鬼同士にとっては平和的でも、人間にとってはきっちり有害で残酷なゲームだった……。いや、待てよ? だったら今回のルールは何だ?)
ダリアスが自分を指さして再度首を傾げて見せると、アーデリカは彼の意図を察して答えた。
「肝心のあなたが駒として参加するブラッドゲームは、『死兵戦』と呼ばれるものです。
そろそろ日も暮れた頃ですし、直接ゲームフィールドを見てもらいましょう」
アーデリカが指を鳴らすと、ダリアス達が入ってきた扉とは逆の方向にある扉が開いた。すると、夕日に照らされた草がまばらに生えた広場と、無骨な砦が見えた。
(遠目に山が見えるけど、見覚えが無い。あの転移の魔方陣で、思っていたより遠くに来てしまったようだ。ええっと、ここが何処なのか教えてくれたりは……しなさそうですね)
夕日になり日光に対する恐怖が弱まったお陰で外を確認できたダリアスだったが、彼の知識では現在位置を把握する事は出来なかった。
期待を込めてアーデリカを振り返るが、アーデリカはゲームの説明以外の事を話すつもりはなさそうだ。
「『死兵戦』とは、立会人が事前に指定した場所で集めたアンデッドを戦わせ、先に大将役のアンデッドを討ち取った方が勝ちと言うルールのゲームです」
アーデリカによると、ゼルブランドはその『死兵戦』で使うアンデッドを集める場所に指定されたのは、交易都市ザニル近くの魔物の森だったそうだ。そのせいで、ダリアスはここへ呼び寄せられる事になった。
「あの砦には、ゼルブランド様がブラッドゲームを申し込んだ相手、レオーネ・フラリス様が滞在しています。三日後、あなたには大将役としてゼルブランド様が集めたアンデッドを率いて、レオーネ様が集めたアンデッドと戦っていただきます。
レオーネ様が大将に指名したアンデッドを倒せばゼルブランド様の勝ち、逆にあなたが討ち取られたらレオーネ様の勝ちです」
そして戦う場所は、砦の間にある広場。数千人規模の軍がぶつかり合う本物の戦場にするには狭いが、百数十人規模の集団が戦うには十分な広さがあるように見えた。
(そこで戦うのか……って、俺が大将? ちょっと待ってくれっ、俺は主に一人で活動していた冒険者だぞ!? 戦闘の指揮なんて出来ないって!)
太陽への恐怖が薄れる夕暮れになったお陰で外の様子を観察するダリアスだったが、いつの間にか自分の肩に大きな責任がかかっている事に気が付いた。
数人の仲間の指揮もした事が無いのに、百匹以上のアンデッドの指揮なんて無理だ! そう慌てて仕草で主張するダリアスだったが、アーデリカは取り合うつもりは無いようだ。
「現時点で、ゼルブランド様が集めたアンデッドはあなたを除けば自我はもちろん知能を失った者ばかりです。消去法で、あなたしかいません」
(マジかよ!?)
自分が最もマシなアンデッドだと知り愕然とするダリアスだったが、アーデリカは彼が立ち治るまで待とうとせず話を続けた。
「そして、これがあなたの身に着ける大将役の証である勲章になります」
アーデリカはメイド服のポケットから、手に納まる程度の大きさの勲章を取り抱いた。紅い髑髏のエンブレムが妖しく輝き、ダリアスも思わず見入ってしまう不思議な魅力があった。
「この紋章にはゼルブランド様が集めたアンデッドに命令できる魔法以外に、位置が分かる目印の魔法が付与されており、ゲーム中はゼルブランド様やレオーネ様、そして立会人がこれで大将役は何処にいるのか把握しています。
では今から身に着けておきますね」
そう説明すると、アーデリカはダリアスの右側の肋骨に勲章を結びつけてしまった。
(うう、嫌だが逃げられないし、抵抗なんて出来るはずがない。俺はいったいどうすれば――あ、肝心な事をまだ聞いてない。こいつら、何が原因でブラッドゲームをやる事になったんだ?)
ゼルブランドは自分の事を改革派に属する吸血鬼であると述べた。その目的は、「世界をあるべき姿を取り戻す事を目的とする」事らしい。
吸血鬼の言う世界のあるべき姿……どう考えても人間にとってそれが良い世界だとは思えない。だが、ゼルブランド、そして今説明してくれているアーデリカは「ブラッドゲーム」で彼等がレオーネと言う吸血鬼と争う理由についてまだダリアスに語っていない。
それを尋ねようと、ダリアスは向かいの砦を指だしてアーデリカに首を傾げて見せた。
「ああ、レオーネ様が集めているアンデッドについてですか?」
しかし、質問の内容は正確に伝わらなかったようだ。
「今どんなアンデッドが集まっているかは不明ですが、立会人によってレオーネ様が指定された場所はケルン草原です。あなたがいた森よりアンデッドの数は多いでしょう。質にはそれほどの違いは無いと思いますが」
(ケルン草原……確か、アルザニアス王国とルヴァス王国との戦争で軍がぶつかった場所だ。今ではルヴァス王国はアルザニアス王国に吸収されているけど、戦場になったケルン草原は現在もアンデッドの巣窟になっているという……なんでこういう事は覚えているのに、自分の名前は思い出せないんだろうな。
って、それは今関係ない!)
我に返ったダリアスは、今度は身振り手振りでアーデリカに自分の疑問をと伝えようと試みた。彼女はその努力をじっと見つめ、しばらくしてから口を開いた。
「変わった踊りですね」
(違うぅぅぅっ!)
声にならない叫びをあげて頭を抱えるダリアス。
「もしかして、ゼルブランド様とレオーネ様がブラッドゲームをするに至った理由を知りたいのですか?」
しかし、その様子を見たアーデリカがそう聞き返してくれたのでその甲斐はあったようだ。その通りだと、ダリアスは大きく首を上下に振った。
「それはレオーネ様を革新派に引き抜くためです」
吸血鬼には現在、大きく分けて三つの派閥がある。現体制を良しとする保守派、それを良しとせず新体制への変革を主張するゼルブランドが属する革新派。そして、どちらにも属していない中立派。
レオーネと言う吸血鬼は最後の中立派らしく、ゼルブランドは彼女を改革派に引き抜いて改革派の勢力拡大と自身の発言力の増強を狙っているらしい。
「しかし、レオーネ様は引き抜きに応じず、ゼルブランド様はそれでも諦めず……結果、ブラッドゲームをするに至ったのです。
ゼルブランド様が勝てばレオーネ様は引き抜きに応じ、レオーネ様が勝てばゼルブランド様は賠償を支払い彼女から手を引くと取り決めて」
(つまり、人間には直接関係の無い理由で争っているのか。それなら、ひとまずは安心だな)
ほっと肩から力を抜くダリアスだったが、安心するのは速かった。
「それと、あなたの処遇をまだ言っていませんでしたね。
ブラッドゲームの駒として使われたアンデッドの内、ゲーム終了後も現存している個体は勝者から敗者に払い下げられます」
(え? 何で!?)
「私も正確には存じませんが、勝者が用済みになったアンデッドの処理を敗者に押し付けたか、敗者が残ったアンデッドに八つ当たりをした事が、現代では慣習として伝わっているのではないかと」
(ええっ!? 俺ってゲームが終わったら用済みなの!? 勝手に呼びつけておいて!? しかも勝っても八つ当たりで殺されるの!?)
ブラッドゲームでは、プレイヤーである吸血鬼同士がある程度公平に勝敗を争えるようになっている。だから、普段から従えている精鋭のアンデッドではなく、立会人が決めた場所で集めた適当なアンデッドを駒として使うのだ。
そして、吸血鬼からするとゲームが終われば適当に集めたアンデッドを態々居城に連れ帰る必要はない。
だから、放置しても構わないがどうせならと、敗者の吸血鬼が後始末を押し付けられたのだろう。
「もっとも、ルールとして定められている訳ではないので……勝者が連れ帰る事もあるそうですし、あなたの頑張り次第では、ゼルブランド様も認めるかもしれません」
(そうか、あのメチャクチャ強そうな吸血鬼のお眼鏡にかなう活躍を俺がすれば……無理じゃないか?)
ただでさえ強大な力を持つ吸血鬼の中でも、恐らく上から数えた方が早い存在だろうゼルブランド。彼の想定を超える働きを自分が出来るとは、ダリアスはとても考えられなかった。
スケルトンの中では上の方で生前より強くなったとはいえ、彼はアンデッド全体ではいまだに下の存在だ。オーガ二匹に勝てても、その程度の配下はゼルブランドの元にはいくらでもいるはずだ。
(だけどやるしかない! そして必ずリディアにまた会うんだ!)
しかし、他に選択肢が無い以上目標達成を目指すしかない。聖女である妹に会うために、吸血鬼の配下にならなければならないとは、質の悪い冗談のような状況だが。
(嘆くのは妹に会った後だ! やるぞ、やってやるぞ!)
「そう、その調子です。頑張ってください、応援しています」
メイスを掲げて決意を新たにするダリアスを、アーデリカは平坦な口調と間の抜けた拍手で応援していた。
途中から何故かアーデリカとのやり取りがスムーズに進んだ事に、ダリアスは気が付かなかった。
名称:オーガ
分類:亜人
討伐難易度:星三つ(ウォーリアーの場合は星四つ)
額には一本の角、肉や骨を噛み砕く頑丈な牙、鋼のような筋肉に覆われた赤黒い肌の肉体等の特徴から、人食い鬼や大鬼と呼ばれる魔物。
怒りに歪んだような醜い顔つき通り気性が荒く、知能はゴブリンやオークより下とも言われる。
ただその分肉体は強固で、人体を簡単に引き裂く怪力を誇る。そのため、戦士が武器だけでオーガを倒すのは至難の技とされる。その分魔法に弱く、討伐の際には魔道士と組むのが定石とされる。
気性が激しいため同族同士でも殺し合う事が珍しくなく、亜人タイプの魔物の中では珍しく群れを作る事が少ない。そのため、村等が襲われても壊滅にまでには至らないケースが多い。どんなに腹を空かせていても、一匹では三人も食い殺せば満腹になる。そのため、全力で逃げれば数人の犠牲で済ませる事が出来る。
しかし、ゴブリンメイジ等の知能が高い魔物に飼いならされる、もしくは魔法で操られて戦力として使われている場合や、上位種のオーガが下位の同族を従えて数十匹の群れを形成する場合がある。特に後者の場合は大きな脅威となる。
主な上位種には武具の扱いを覚えたオーガウォーリアー、同族を従える統率能力を持つオーガジェネラル、オーガとしては奇跡的に高い知能を獲得したオーガシャーマン、それらら力で支配するオーガキング等が存在する。
今話で書き溜めた分が無くなったので、今後の投稿は不定期になります。気長に待っていただければ幸いです。ブックマーク、評価、誤字報告、ありがとうございます。