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4話 死んだ事にされた不死者

 リアスが行方不明になって五日、交易都市ザニルの冒険者ギルドに顔を出したポールは受付嬢から良い報せを聞いた。

「ポールさん、リアスさんの冒険者証が発見されました。討伐したゴブリンが持っていたそうです」

「ゴブリンが? そうか、奴らに拾われていたのか。どうりで見つからないはずだ」


 ポールとベンは結局グラトニーワームを途中で見失い、昨日までリアスの冒険者証を探しながら、薬草採取などの依頼を受けていた。そのため、受付嬢が教えてくれたのだろう。

(助かった。彼女が教えてくれなければ、明日にでも俺から尋ねなければならなかったところだ)

 ただし、全てはポール達の仕込みだった。


 リアスの死を確定させなければならないが、彼の冒険者証を探すために大規模な捜索をするわけにはいかない。それに、ポールとベンはリアスと『依頼当日に臨時パーティーを組んだだけの仲』に見せかけている。そのため、何時までもリアスに拘るのも不自然だ。


 そのため、ポール達が探して本物の冒険者証が見つからなかった事から、今後も出てこないだろう事を確信した彼らの直属の上司は念のために用意していた偽の冒険者証を使ったのだ。ポールとベンも誰だか知らない、彼等と同じように冒険者として潜り込んでいる工作員が、偶然見つけた事にして。


「これで胸のつかえがとれました。リアスも、きっと安らかに眠れるでしょう」

「ええ、これから頑張ってくださいね」

「はい。見かけたらベンにも教えてやってください」


 自分が殺した事をおくびにも出さず、ポールは受付嬢にそう頼むとカウンターから離れた。

(後は、指示を待ってここから離れるだけだな)

 リアスの死亡については、冒険者ギルドが手続きを済ませてくれる。その後は彼等の上司の仕事だ。ポールは、ベンとは別のタイミングでこの街から離れる事になるだろう。


 その後はまた別の名前で別の任務に就くことになる。運が良ければ、しばらく休みかもしれない。

(女神フォースティアよ、我が罪を許したまえ)

 胸の内で短く祈りを捧げ、彼はただのポールであるうちに禁じられている酒を飲むために、場末の酒場に向かった。







 その頃ダリアスは、町でそんな事態になっているとは夢にも思わずアンデッド退治にいそしんでいた。

 やり方は簡単だ。アンデッドを探して昼の暗い森を歩き回り、見つけたら背後から近づいて一匹ずつ殴り倒す。この方法でダリアスはもう十体以上のアンデッドを倒していた。


(生前もこの調子でアンデッド退治が出来たら、もっとレベルを上げられたんだけどな。……そう言えば、人間だった頃の俺のレベルって幾つだったっけ?)

 穴だらけの記憶をたどりながら、スケルトンの腰骨をメイスで砕き、背骨をバラバラにする。


 この世界の人間のレベルは、自分自身でも細かく数える事は出来ない。身体能力や魔力の上がり具合から、「今レベルが上がった」事は自覚できるが、それぐらいだ。

 正確な自分のレベルを知りたければ魔道士や神官に頼むか、ギルドや神殿等にあるレベル測定のマジックアイテムを使うしかない。


(神官……もしかして俺も『レベル測定』の神聖魔法が使えるようになるのか? まあ、唱える機会はなさそうだが)

 神聖魔法が使えるようになったダリアスなら、その内レベルを計る事が出来るようになるかもしれない。しかし、魔物にはレベルが存在しないはずなので役立てる機会は無いだろうと、彼は思った。


 とはいえ、普通はレベルが幾つか細かく気にしない。レベルは目安の一つでしかないからだ。

 三十レベルの凡人のベテランが五レベルの天才のルーキーに負ける事なんて珍しくない事であるし……そもそも戦いに縁のない一般人の場合、熟練した一流の職人でも十五レベルが精々だ。滅多に上がらないので、日常的に気にしている者は少ない。


(始めてギルドで計測した時は、六レベルだった。当時は齢の割になかなかやるじゃないか褒められたが……確か、一年以上前に十レベルになったお祝いに、屋台の串焼きを普段より一本多く買ったような……?)

 だが、兵士や騎士、傭兵や魔道士、そして冒険者にとっては重要な指標だ。特に、貴族なんかはレベルがステータスの一種になっているらしい。


 しかし、冒険者だった生前の彼はろくに魔物が倒せなかったためレベルを中々上げられずに苦労していた。

(まあ、レベルが上がってもそれで皆が等しく強くなれる訳じゃない。俺みたいな凡人は、レベルを上げられても苦労するのは変わらなかっただろうな)

 スケルトンを倒したダリアスは、今度は無防備に背中を向けているゾンビの膝をメイスで打った。


『グゲェ!? グアァアァァァ!』

 しかし、当たり所が良かったのかゾンビはよろめいたが倒れず、唸り声をあげてダリアスに向かって来ようとする。


 ダリアスはゾンビの突進を飛びのいて回避すると、すれ違いざまに再び膝にメイスの一撃を叩き込む。

(レベルで上がる身体能力や魔力は、元々の身体能力や素質、才能、努力や鍛錬、研鑽と言ったそれまでの経験に左右されるらしい。

 実際、ギルドには俺とレベルは同じでも三ツ星に昇級する奴はいくらでもいた)


 倒れ込んだゾンビの脚や腰を狙ってメイスを振り下ろし、立てなくなったら両腕の間合いに入らないよう注意して背後を取り、今度こそ止めを刺す。

 そして、簡単な墓を建てて花なり木の実なりを供えて、略式の祈りを捧げて弔う。


(はぁ、やっぱり食事も睡眠も必要なくて、痛みも感じないってのは良い事ばかりじゃないな。自分に言い聞かせても、いつの間にかどうしても気分が沈む。失ったもの、得られなかった物を数えてしまう)

 生前は心の支えだった最愛の妹、リディアとの思い出すら今は『もう二度と彼女に会う事は出来ないのではないか?』と負の感情を加速させてしまう。

 立ち上がったダリアスは、気分を何とか上向かせよと人差し指の先に小さな光を灯した。


(ああぁ……)

 月の光と、このフォースティアの神聖魔法で灯した光だけが今のダリアスの癒しだった。この光は妹が今も自分のために祈ってくれている証。だから、諦めずに頑張れる。


 その神聖魔法もアンデッドを倒し続けて少し強くなってきたお陰か、『光』やそれを強化した『閃光』以外の魔法も使えそうな気がする。だが――。

(俺もアンデッドだから、使うと危険かもしれない)

 使えそうな気がする魔法は神聖魔法の代名詞のような魔法だったが、ダリアスは使用を躊躇っていた。


(よし、行こう。アンデッド退治も慣れて来たし、何となくだが、もうすぐ存在進化できるような気がする!)

 魔物にレベルが存在するのかは知らないが、ダリアスはそんな感覚を覚えていた。しかし、彼はこの時忘れていた。冒険も戦闘も村での仕事も、「慣れてきた頃が一番危ない」と言う事を。


 次にダリアスが見つけたのは、スケルトンが一体にゾンビが三体の小規模な群れだった。スケルトンは人のようだが右脚を引きずるように歩いている。生前から不自由だったのか、アンデッド化後に損傷したのだろう。そして、ゾンビの方は人間ではなくゴブリンだ。


(スケルトンの方は倒しやすそうだな。それに、アンデッドの強さは生前に大きく左右される。ただのゴブリンのゾンビなら、今の俺なら倒せるはずだ)

 そう踏んだダリアスは、アンデッド達の背後から忍び寄った。


『あ゛ぁぁ……?』

 その途端、ゴブリンゾンビ達が一斉に振り返ってダリアスを濁った瞳で睨みつけた。

(なっ!? こいつら、何で俺に気が付いた!? 今までは大丈夫だったのに!)

 驚愕のあまり動きが遅れるダリアス。ゴブリンゾンビ達はその彼を取り囲むように動き出し、スケルトンも視界内に居た同類の動きに誘われてそれに追従する。


(そうか、俺の骨に付いたゾンビの返り血の臭いに反応したのか!)

 嗅覚と触角をほとんど失ったスケルトンになっていたため、ダリアスは自分がどれだけ臭うのか気が付かなかった。しかも、彼がゴブリンゾンビ達に近づいたのは風上からだった。


 こうなっては仕方がないと、襲い掛かって来るゴブリンゾンビ達に向かって左手を向け、(光よ!)と短く祈る。

『ぎいぃぃぃっ!?』

 左手から放たれた閃光にゴブリンゾンビ達が悲鳴を上げる、正面から光を受けた一匹は逃げ出し、二番目に近くで受けた二匹目は恐怖のあまりその場に硬直する。


『あ゛ぁぁぁ!』

 そして最も遠かった三匹目は、逆に激しく暴れ出した。恐怖のあまり錯乱し、より狂暴になってしまったようだ。

(こんな事もあるのか!?)

 初めて見た反応に、ダリアスの対処が遅れる。『閃光』を放った左腕に、ゴブリンゾンビが振り回した腕が当たる。


(よ、よくもやったな!)

 痛みは感じないが左手から光が消え、骨が軋む音に内心恐怖しつつ、ダリアスはなんとか反撃を放った。


『ぎゃあ゛ッ!?』

 ゴブリンゾンビの左膝を、ダリアスのメイスが側面から砕く。怒りの声をあげながら、ゴブリンゾンビが躓いて地面に倒れ込む。


『ぎぎゃぁあ゛ぁぁぁ!』

 しかし、光が消えたために二匹目のゴブリンゾンビが硬直から立ち直り、ダリアスに襲い掛かった。

(クソッ! 拙い!)

 二匹目の攻撃を避けるが、倒れたまま地面を這って攻撃してくる三匹目も無視できない。攻撃を受けたら、今度は自分の脚の骨が折られてしまう。


 恐怖から立ち治った直後だからか二匹目も三匹目同様狂暴化しており、普段より動きが早い。

(もう一回光るか? いや、今光っても怒らせるだけで意味が無いかもしれない!)

 狂暴化しているゴブリンゾンビ達に同じ手が通じるとは思えない。それに、こうしている間に逃げた一匹目が戻って来るかもしれない。早急な対応を迫られたダリアスは、今まで敢えて使わなかった神聖魔法の使用を決断した。


(『死者退散』!)

 左手をかざし、聖職者の代名詞の一つ死者退散の祈りを唱える。アンデッドを直接倒せることは稀だが、多くの場合ダメージを与えると同時に鎮静化させ退ける事が出来る。


『『ガぁ!?』』

 実際、ゴブリンゾンビ達の動きが止まり体の表面が灰と化す。

(やっぱり俺にも効いてるぅ!?)

 同時に、ダリアスの左手の骨が先端から灰と化していく。例によって恐怖など精神的な影響は受けずに済んでいるが、このまま『死者退散』を使い続けると、左手どころか全身が灰になってしまいそうだ。


(うおりゃぁっ!)

 ゴブリンゾンビ達が浄化されるのを待っていたら、相打ちになってしまう。苦しみ悶える彼等に、左手をかざしたままダリアスは右手のメイスを叩きつける。


『ゲェッ!?』

『グガァ!』

 二匹目の側頭部をメイスで打ち、その反動を利用して三匹目の脳天に振り下ろす。そして『死者退散』を止め、倒れた二匹が動かなくなるまでメイスで殴り続けた。


(あ、危なかった。って、俺の左手が無くなってるっ!?)

 ダリアスがほっと肩を落とした時には、彼の左腕は手首から先が無くなっていた。痛みは感じないが片手を失った衝撃は大きく、思わず狼狽えてしまう。


『げあ゛ぁぁ……』

 そこに、逃げ出した一匹目が帰って来た。ハッとしてメイスを構えるダリアスだったが、一匹目は彼に目もくれず倒れ伏した同類達に向かって行き、その死肉に齧りついた。


(うわぁ……共食いか。って、共食い? ゾンビが?)

 目の前で繰り広げられる凄惨な光景を眺めるしかなかったダリアスだが、違和感に気が付いた。基本的に共食いはしないとされているゾンビが、ゾンビを食っている。いったい何故?


(そう言えば、俺に付いた返り血にしたって、ゾンビの物だからこいつらが反応するのはおかしくないか? ……あ! もしかして、俺が倒してゾンビからただの死体に戻ったって事なのか?)

 ゾンビやスケルトンは、倒されればただの死体に戻る。それをゴブリンゾンビがどう判別しているのかは不明だが、元同類は食べ物でしかないらしい。


 ダリアスに付いた返り血も、元のゾンビがただの死体に戻っていたためゴブリンゾンビ達の食欲を刺激してしまったと考えれば納得できる。


(ゾンビがどうアンデッドとただの死体を見分けているのかはともかく……今の内に倒しておくか)

 食事に夢中になっているゴブリンゾンビの後頭部に、ダリアスはメイスを振り下ろした。

 そして残った問題は……左手をどうするかだ。


(自然回復は……しないよなぁ。ヴァンパイアやリッチならともかく)

 アンデッドの中でも上位とされる吸血鬼やリッチの場合は、不死身に限りなく近い再生能力を持っている。だが、下位のアンデッドの場合は負った傷はそのまま治る事はない。

 もし治るなら、世の中に骨にヒビが入ったスケルトンや手足が欠けているゾンビは存在しない。


(ランクアップしたら新しく生えて来るかな? でも、もしそうだったとしても、まだランクアップできていない。

 よく見ればヒビも入っているし……このままだと、ランクアップする前に左腕が無くなって、その次は肋骨や背骨が……!)


 左腕の骨には、ゴブリンゾンビが振り回した腕を受けた時だろう。ヒビが入っていた。このまま戦闘を繰り返していたら、盾代わりに使っている左腕を失い、その次は背骨を砕かれて自分がただの死体に戻る事になるかもしれない。

 妹に再会する事も出来ず、ただの死体になるのは絶対に嫌だ。どうにか出来無いか考えたダリアスは、『死者退散』と同じように使うのを避けてきた神聖魔法を試してみる事にした。


(『治癒』!)

 神聖魔法の使い手が『死者退散』よりもずっと頻繁に唱える『治癒』だ。これで新しく左手の骨を生やす事は無理でも、せめてヒビだけでも治せれば次のランクアップまで何とか耐えられる。そう思ったのだが――。


(って、やっぱりダメだったぁ!)

 左腕の骨のヒビが消えるどころか、骨自体が浄化され灰になっていく。そう、正の生命力を回復させる回復魔法は負の生命力で動くアンデッドに対して効かないどころか、逆にダメージを与えてしまうのだ。

 例外は、死神ガルドールの加護による神聖魔法だけだ。


 慌てて『治癒』を止めたダリアスだったが、その時には左腕の骨は灰になり、肘から先が無くなってしまっていた。更に、右手を見てみると親指以外の指が無くなっている。

(や、やっちまった! 左腕だけじゃなくて右手まで! こうなったら、布でメイスの柄を括り付けて何とか――ん?)

 その時、ゴブリンゾンビと衝突して転倒したスケルトンが目に入った。どうやら、そのままダリアスの『死者退散』を受けたらしい。しかし、灰になったのは頭蓋骨や胴体だけで、四肢の骨は残っている。

 ふと、ダリアスの頭にある閃きが過る。


(いや、でもまさか、他人の骨だし、『敗者の骨』の時は自分の骨でもくっつかなかったし、もしくっついて動かせるようになるわけが……)

 自分自身の閃きに対して半信半疑のまま、ダリアスは人骨を拾って自分の左腕にくっつけてみた。


(おおっ!? 繋がった! しかも動かせる!)

 その途端、他人の骨は元々ダリアスの一部だったかのように動かせるようになった。これならいけると、早速右手の指の骨もくっつけた。


(『敗者の骨』だった時はダメだったのに、何で? もしかしてスケルトンに存在進化したからか? まあ、助かったからいいんだけど)

 嬉しいが微妙に納得がいかないダリアスだったが、他の足りない骨を元スケルトンから手に入れくっつけていく。


(よし、これでほぼ元雄通りだ。ちょっと左腕が長くなった気がするけど、これぐらいのサイズ違いならすぐ慣れるだろう。

 ありがとう、名も知らぬスケルトン。あんたの事は忘れないよ)


 少し長くなった左腕も使って穴を掘って埋葬し、感謝を込めてスケルトンを弔った。ゴブリンゾンビの死体も、再びアンデッド化しないよう念のために埋めておく。

(俺にとっては獲物が増えるから再アンデッド化した方が都合良いか? ……いやいや、魔物の死体処理は冒険者のマナーだからな。それに、俺もフォースティア信者の端くれだし)

 魔物に墓まで作ってやるのは初めてだけど。そう思いながら、(もう化けて出るなよ)と祈る。


(ん? 雨か。丁度いい、返り血を洗おう)

 ふと気が付くと、雨が降っていた。寒さも感じないダリアスは、これ幸いと骨やメイスに付いた返り血を洗い始めた。







 雨が降り続くなか、身体を洗い終わったダリアスが歩いていると川のほとりに出た。雨で増水して濁った川は、とても渡れそうにない。

(戻るか。ん? あれは人じゃないか!?)

 身を翻そうとしたダリアスは、川の岸辺に誰かが倒れているのに気が付いた。


(おい、大丈夫か!?)

 反射的に駆け寄り、安否を確かめようとして……はっと我に返る。そうだ、自分はスケルトンだったと。

 倒れている人物は、皮鎧を着ていた。きっと冒険者だ。意識を取り戻せば、自分に礼を言うどころかアンデッドを討伐しようと襲い掛かってくるだろう。


(そうだ、いっそ俺が止めを刺せば……!)

 冒険者を殺せば、スケルトンやゾンビとは比べ物にならない程大量の経験値が手に入るだろう。今度こそランクアップできるかもしれない。

 また一歩、妹との再会に近づく。そう思うと、視線が右手に握ったメイスに落ちる。


 立ち尽くしていたダリアスは、意を決して冒険者に向かって手を伸ばした。

(脈は、触っても分からない。でも、呼吸はしているな。あまり水を飲んでいないと良いんだが)

 そして冒険者に息があるのを確かめると、メイスの柄を口に咥え、両腕で何とか担ぎ上げる。


(妹は、リディアは、優しい良い子だった。そして今は、聖女として全ての人々の……俺や、そしてこいつのために祈っている! それなのに、俺が自分のためにこいつを殺したら、俺はリディアに顔向けできなくなる!

 リディアと再会するためにも、そんな事は出来ない!)


 筋肉の無い骨だけの体で、苦労しながら冒険者を川辺からやや離れた木の根元まで運んだ。そこで、改めて冒険者の容態を確認する。

(出血は、していない? でも怪我はしていそうだな。クソ、身体がどれだけ冷えているのかも分からない! とりあえず、火を起こせばいいのか?)

 骨の手では、寒暖を判別できない。ダリアスは持ち歩いていた自分の荷物から、火打石と焚きつけようの油を取り出す。


(俺の物持ちが良くて助かったな、あんたは運が良い)

 近くに落ちていた枝を集めて、アンデッド化してから使う機会が無かった道具で苦労しながら火をつける。それで冒険者を温めると、心なしか顔色が良くなったように見えた。


(あ、こいつギルドで何度か見かけた事があるな。確かまだ十八ぐらいで……三ツ星に昇格したロ……なんだったかな。ええっと冒険者証は……ああ、ロイドか)

 落ち着いて見てみると、冒険者はダリアスが知っている人物だった。アンデッド化した際に記憶を失ったので全ては思い出せなかったが、彼が首にかけていた冒険者証を確認したお陰で名前は分かった。


(たしか、特定の仲間が何人かいたはずだ。そいつらはもっと下流に流されたのか……それとも流されたのはロイドだけなのか。無事だと良いな。俺には都合が悪いけど)

 今ロイドの仲間達と遭遇したら、彼等はダリアスを危険なアンデッドとして討伐しようとするだろうから、どこか別の場所に無事でいる事を祈るばかりだ。


 それから改めてロイドの様子を見るが、目を覚ます様子はない。それどころか、呼吸が弱くなっているような気がする。

(出血は無いようだけど、やっぱり何処かに怪我をしているのか? 俺が持っている薬じゃあ役に立たないだろうし……)


 このままロイドが自力で持ち直して回復するならいいが、放置して結局目覚めないまま死んでしまったら、それは見殺しにしたも同然だ。

 ダリアスには、まだロイドのために使える手段があるのだから。


(仕方ない。リディアの兄でいるためにも、こいつを見殺しにする事は出来ない。腕なら新しく探せばいいさ。

 『治癒』)

 ダリアスが翳した左手に、温かな光が灯る。同時に、彼の骨が灰になり始めた。




〇現在のダリアスの弱点


・日光への恐怖心

・生前より落ちた身体能力

・軽くなって踏ん張りが効かなくなった足腰

・嗅覚と味覚と触角の喪失、視覚の鈍化

・睡眠や食事で精神を癒せない(NEW!)

・浄化魔法でダメージを受ける。自分が唱えた場合でも同様(NEW!)

・回復魔法でダメージを受ける。自分が他者に対して唱えた場合でも同様(NEW!)

・人を見殺しに出来ない(NEW!)







〇〇〇



〇名称:ゾンビ

分類:アンデッド

討伐難易度:星2


 動く死体。スケルトンと同じくポピュラーなアンデッドで、肉がある分スケルトンよりも動きが鈍いが、その分力では上回っている。

 また、スケルトンが生者に対する憎しみだけで動いているのに対して、ゾンビはそれに加えて原始的な食欲も持ち合わせている。死肉を食らい続ける事で経験値が貯める事が可能で、そのためスケルトンよりランクアップする個体が多い。


 そのため、冒険者ギルドではスケルトンよりも討伐難易度を上げ、討伐報酬を高めに設定している。


 ゾンビが喰らった肉は、魔力に変換され体の腐敗を止め肉体を維持するために使われていると言う説がある。

 また、ゾンビの肉体が完全に腐り落ちるとそのままスケルトンに変化する。

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