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3話 アンデッドを狙うアンデッド

 朝早く交易都市ザニルを出たポールとベンは、オーガを警戒しながらリアスを始末した青タンポポの群生地に向かった。

「オーガはどこかに行ったようだな」

「ああ、面倒が無くて助かる」

 順調な道行きだったが、青タンポポの群生地に到着した彼らは落胆する事になる。


「死体が無い。俺達を見失ったオーガが巣まで持ち帰ったのか?」

「いや、これを見ろ」

 地面を調べていたベンが、何かが這いずった跡を指し示した。


「こいつはオーガの足跡じゃない。多分、グラトニーワームが這いずった跡だ。俺達がオーガに追い立てられた後、リアスの死体はグラトニーワームに飲み込まれたんだろう」

 ベンはその知識から、リアスがどうなったのか正確に推理する事に成功した。


「じゃあ、奴の冒険者証はワームの腹の中か」

「そのようだ。グラトニーワームは獲物の消化できなかった骨や遺品をその場に吐き出す事があるが……その様子はないからな」

 しかし、流石にアンデッド化したリアスが自分の骨と遺品を回収していった事には気が付かなかった。肉が無くなって軽くなった彼の足跡が残り難かったためだ。


「多分、死体を腹に抱えたまま住処に戻ったんだろう。冒険者証も一緒に」

「首にかけていたからな。あの時一気に引き千切って持ち帰っていれば……」

「今更悔いても仕方ない。一先ず痕跡を追う、お前は周囲を警戒してくれ」

「分かった」

 ポールとベンはグラトニーワームを追って、『ダリアス』が日光から逃げたのとは別の方向に向かって進んでいった。







 その頃ダリアスは、日が差さない鬱蒼とした森で見つけた水たまりで体を洗って……汚していた。

(これでよし。少なくとも、血とグラトニーワームの粘液は落ちた)

 水浴びと言うより泥浴びだったが、これで血の臭いを漂わせて周囲の魔物を刺激しなくて済むようになった。


(それで改めてこれから存在進化を目指すわけだが……存在進化ってどうすれば出来るんだ? レベルアップと同じ要領でいいのか?)

 人間のレベルは経験を糧にして上がっていく。鍛錬、勉学、実践、何でもいい。ただ、最も効率良くレベルを上げる事が出来るのは、魔物……それも格下ではなく同格以上の討伐である事が経験則から知られている。


 そのはっきりとした理由は不明だが、死の危険がある経験を乗り越える事で魂の成長が著しく促されからだと言われている。


 対して魔物の存在進化の仕組みは一般的にはあまり知られていない。優れた個体が経験を積み、一定の条件を満たした時存在進化が起こるという、漠然とした事実だけが知られている。

(ギルドの資料室でもっと勉強しておくんだったな。まさか自分がアンデッドになるなんて思わなかったから、仕方ない……単に、アンデッド化した時の影響で忘れているだけかもしれないけど)


 ギルドの書庫や町の図書館には、研究者が書いた専門の資料があったかもしれないが、ダリアスにはそれを読んだ記憶はなかった。


(でも、優れた個体が経験を積み、一定の条件を満たした時か。敗者の骨からスケルトンになった時は、俺の骨が全部揃った途端に起きたが……今後の存在進化には使えないな。もう俺の骨は揃っている。

 そうなると、やっぱり地道に経験を積むしかないか)


 魔物が存在進化するような経験。簡単に思いつくのは、他者の殺害。野山の獣を狩り、家畜を襲い、そして人間を殺す。夜の間に見たゴブリン、そしてダリアスのようなアンデッドなら普通にやりそうなことだ。

 しかし……。


(人間を……冒険者を殺すのはいけない。っと、言うかそんな力は今の俺には無い)

 太陽から逃走するために走ったダリアスは、実感していた。敗者の骨だった時よりはマシになったが、今も人間だった頃より弱いと。


 身は軽くなった。文字通り血も肉も内臓も無くなったから、かなり速く走れるようになった。そして、心肺も無いため体力の限界も無い。それこそ粉骨砕身するまで動き続ける事が出来るだろう。

 だが、筋力が落ち、体が軽くなってしまった。


(試すか)

 ダリアスは生前から愛用していたメイスを構えた。冒険者になるための訓練を自己流で始めた時、彼がまず選んだ武器が棍棒だった。


 何故なら棍棒は、刃で切らなければならない剣と違って当たりさえすればいい、使いやすい武器だからだ。剣や槍と違って刃毀れもしないし、メンテナンスもしやすい。また、必要に迫られれば適当な木の枝を拾って代用する事も出来る。


 だから村では自作の棍棒を振るって訓練をし、交易都市ザニルで冒険者になってからは取り回しやすい片手用のメイスと、小さな盾を購入した。

 生憎盾の方は壊れて使えなくなってしまったが、メイスの方は今も手にある。これまで数えきれない程振るってきた愛用の武器だ。そのはずなのに、振り上げるのに数秒かかった。


(と、ととっ、やっぱりだ)

 そして、思い切り振り下ろした途端体のバランスが崩れてよろめいた。

(力が弱くなっただけじゃない。体が軽くなったせいで、踏ん張りが効かない!)


 体重は軽くなればいいというものじゃない。バランスが崩れやすくなるし、他者から加えられる衝撃に弱くなってしまう。


(今の俺には人と戦う力はない。山賊や新米冒険者どころか、一般人相手でもだ。そりゃあ、子供や足腰の弱った老人なら勝てるだろうけど……この森でそんな相手に会えるはずがない)

 この森は、魔物の生息地として知られた場所だ。そんな森の奥深くに、無力な子供や老人が入って来るはずがない。


 この森で遭遇出来る人間は、生前彼がそうだった冒険者、それも最低でも二つ星以上の者ぐらいだろう。

(まあ、勝てない相手や遭遇できない相手を狙う意味は無いよな。じゃあ、魔物や動物を狙うしかないよな。うん、仕方ない)

 妹に会うためなら何でもする。そう決めていた。だが、人間を殺さなくていい理由を見つけ、安堵している自分から目を逸らし、ダリアスは標的を魔物や動物に限る事にした。


 しかし、生前よりも更に弱くなっている彼に倒せる魔物や動物は限られている。狼やゴブリンは基本的に群れで行動するので、彼一人では返り討ちに遭う可能性が高い。かといって、単独で動く熊やオーガに彼が勝てる道理はない。


(よし、この際だ、標的は魔物や肉食獣以外の小動物に絞ろう! ねずみやウサギを捕らえるための罠を仕掛けるぞ!)

 故郷の村で猟師から教わった罠を仕掛けようと試みるダリアスだったが、それも上手くいかなかった。木の枝や弦を材料に罠を自作しようとしても、思うように指が動かなかったのだ。


(骨だけになるとこんなに不器用になるのか!? ……もしかして、五感が鈍くなっているせいか?)

 スケルトンになってから、ダリアスの五感は生前よりも格段に鈍った。心肺と舌が無いため味覚と嗅覚は喪失し、視覚は光が無くても物が見えるようになったが、細部がぼやけ色の識別がやや難しい状態。

 そして今自覚したが、触覚も鈍い。骨の指で木の枝や弦に触れても、質感があまり伝わってこないのだ。

 唯一、聴覚だけは生前とあまり変わらないような気もするが……錯覚かもしれない。


(罠は止めよう。考えてみれば、ウサギやネズミじゃ殺しても大した経験にはならないだろうし……そもそも、食べもしないのに捕まえるのは気が咎める。

 ……アンデッドになって失ったものを数えるよりも、得た物について考えよう。そこに活路があるはずだ)


 縄を作るのを諦めたダリアスは落ち込んだ気分から奮い立つため、考え方を変える事にした。

 休息や食事の必要がなくなった体、効くようになった夜目……そして何より、女神フォースティアの神聖魔法。

(それを活かすなら、やっぱり標的は魔物にするべきか)

 そう考えるダリアスの耳が、呻き声と足音を捉えた。冒険者かと思って反射的に振り向いたが、幸いなことにうめき声と足音の主は人間ではなかった。


 全てダリアスと同じ元人間。アンデッドだった。


(スケルトンが三体に、ゾンビが一体! 数が多いし、ここは下手に倒そうとせず光で怯ませている間に逃げ――ん?)

 ダリアスはそう判断すると、手に光を灯そうとしてアンデッド達の様子がおかしい事に気が付いた。


『あ゛ぁぁ……』

 ゾンビは呻き声をあげながら、スケルトンは骨がぶつかり合う音を小さく響かせながら、ダリアスに見向きもせずゆっくりと歩き続けているのだ。


(あれ? こいつら、もしかして俺に気が付いていないのか?)

 すぐ前を横切っていくアンデッド達を呆然と眺めるダリアス。危機を脱した安堵より戸惑いが強く、思わず手を振って注意を引こうと試みる。


『あ゛っ?』

 すると、ゾンビ達が振り返ってダリアスを見た。濁った瞳や暗い眼窩が彼に向けられる。

『あ゛……』

 そして、すぐに前を向いて歩き出した。


(む、無視? 何でだ? 下位のアンデッドは生者への憎しみだけで動くはず……あっ! 俺、生者じゃない! スケルトンだった!)

 ハッとしたダリアスは、アンデッド達が自分に無関心である理由に気が付いた。


 そう、ダリアスは生者ではなく死者、彼等と同じアンデッドだ。人格と不完全な記憶を生前から引き継いでいるが、最下位のアンデッドであるスケルトンやゾンビにそれを見抜く眼力はない。

 そのため、生者に対する憎しみしか頭にない下位アンデッドにとってダリアスは攻撃する対象に含まれないのだ。


(よし、だったら……)

 ダリアスは四体のアンデッドの最後尾を無防備に歩くスケルトンに近づき、腰を狙って背後からメイスを振り下ろした。


(上半身狙いだと振り上げるのに数秒かかるが、下半身狙いならすぐ振り下ろせる!)

 陶器が割れるような音を立てて、倒れるスケルトン。この時初めてダリアスを認識したかのように激しくのたうち、抵抗しようとするがもう遅い。


(そして、上手く転倒させられたらこっちのものだ!)

 二度、三度とメイスを振り下ろし、腰骨や背骨を砕く。すると、小さく痙攣するかのように顎や指の骨を震わせたのを最期に動かなくなった。


(まずは一匹! それで、他の奴等は……?)

 顔を上げたダリアスの目に映ったのは、仲間がやられたのに構わずゆっくりと歩き続ける残り三体のアンデッドの姿だった。


(よしっ! 思った通りだ! こいつら、攻撃されるその時まで俺の事を気にしないし、同類を助けようともしない!)

 スケルトンやゾンビと言った通常の下位アンデッドに、仲間意識はない。同類同士で群れを作っているように見えるが、それは単に憎しみの対象ではないので同士討ちをしないだけだ。


 そのため、近くでアンデッドがアンデッドに倒されても気にしない。自衛は出来るが、他の同類の次は自分がやられるかもしれないなんて思考は腐った、もしくは無くなった頭蓋骨の中身では出来ない。


(このまま一体ずつ倒そう! 次はあのスケルトンだ!)

 そうしてダリアスは、アンデッド達を全て倒していった。ゾンビはスケルトンより動きが鈍いが耐久力があり、倒すのに頭部を破壊する必要があったため手間取った。しかし、メイスで膝を砕いて転倒させた後に、時間をかけて何度も攻撃した事で倒す事が出来た。


(ふぅ……アンデッドを倒すたびに強くなっている気がする。これなら人間を殺さず、同じアンデッドを倒すだけで存在進化できるはずだ!)

 アンデッドを倒すたびに、僅かだが力が増していく実感をダリアスは覚えていた。そうガッツポーズをとると、ふと思いついた。


(そうだ、せめて弔ってやるか)

 自分と彼らの違いは、生前の自我と不完全な記憶がある事だけで、それもきっと妹が彼のために女神フォースティアに祈ってくれているからだ。ダリアス自身は特別な存在ではない。

 そう思うと、死体を放置するのは気が咎めた。


 疲労を感じない体を活かして浅く土を掘り、その上に周囲からかき集めた落ち葉や柔らかい土をかけて何とか埋葬を済ませ、適当な大きさの石を置いて墓碑代わりにする。

(獣に掘り返されないようもっと深く掘ってやりたかったが、今の俺にはこれが限界だ。許してくれ)

 そして近くで見つけた小さな花を供え、女神フォースティアとディランティアに彼等の魂の安寧と再生を祈る。


(よし、これで一区切りついた。さあ、次のアンデッドを探すぞ)

 標的をアンデッドに絞ったダリアスは、太陽が出ている間身を潜めているだろう森の奥へと歩み出した。そして、すぐに逃げ出した。


「ギャゲェ~!」

「ギッギッギ!」

 運悪く、五匹のゴブリンの小グループと遭遇してしまったからだ。


(クソっ! 何でこいつらは俺を狙うんだ!? 俺に食べるところなんて無いぞ!?)

 棍棒代わりの木の枝を振り回しながら追ってくるゴブリン達から逃げながら、ダリアスはそう叫びたかった。しかし、その理由は単純明快だった。


 普通のアンデッドは、魔物を含めた全ての生者を憎んでいるからだ。

 ゴブリン達から見て普通のスケルトンにしか見えないダリアスは、百害あって一利なしの害虫以下の存在。縄張りを荒らされないよう守るためにも、発見しだい速やかに駆除すべき存在なのだ。


 魔物同士が日々縄張り争いをしている魔物の住処がアンデッドで溢れないのは、こうして魔物がアンデッドを駆除しているからだったりする。


(クソッ、光ってくれ!)

 アンデッド達を倒して強くなったと言っても、誤差程度。ゴブリン五匹を同時に相手どるなんて生前でも無理だった芸当がより弱くなった今の自分に出来る訳がない。

 走りながら背後に向けたメイスの先端から、神聖魔法の『閃光』を全力で放つ。


「ギャギィィィ!?」

 暗い森に慣れた目を強い光で焼かれたゴブリン達が混乱した隙に、ダリアスは何とか逃走に成功した。

(に、逃げ切れた。まったく、疲れた。……疲れた!?)

 ハッとしたダリアスは、自分が約一日ぶりに疲労感を覚えている事に驚いた。


(そうか、神聖魔法を使って魔力を消費したからか)

 疲れ知らずのアンデッドにも、魔力には限りがある。神聖魔法を乱発すると、いざという時に使えなくなるかもしれない。


(多分、あと一回さっきと同じくらいの光……『閃光』もどきを放つ事が出来ると思う。でも、慎重になるべきだよな。魔力が回復するまで何処かで休もう。……回復するよな、魔力?)

 若干不安になりながら、ダリアスは休める場所を探して今度は森の外側を目指して歩き出した。







 太古の昔、創造神アルドラはいくつもの世界とその世界を守護する女神達を創造した。我々が今生きているこの世界もその一つ。

 我々の世界には二柱の女神、太陽と生命の女神フォースティアと月と死の女神ディランティアが遣わされた。二柱の女神は協力してこの世界を形作った。


 空と大地を分け、大地と大地の間に出来た広い虚空を海で満たし、生命を育むために必要な太陽と死者を導くために必要な月を空に浮かべ巡るようにした。

 そしていよいよ生命を創造しようとした時、二柱の女神は困難に直面した。生者と死者は同じ世界に存在できなかったのだ。


 二柱の女神は話し合い、ディランティアが死者のための世界、冥界を創りそこに移り住むことになった。新たな大神が生まれ、自分達の手からこの世界が離れるその時を信じて、長い別離を受け入れたのだ。

 そして生者は姉女神フォースティアの治める世界で生き、死者になったら月を通じて妹女神ディランティアが治める冥界へ赴き再生の時まで安らぐ事になった。


 そしてフォースティアはいよいよ生命を創造した。植物、鱗を持つ鱗類、毛皮を持つ獣類、空を飛ぶ鳥類、殻をもつ殻類……様々な生命を創り出し、命じた。

「汝らの中で最も優れた存在がこの世界を統べよ」


 生命は神の雛形。優れた存在はいずれ小神に、そしていつか大神へと至る。生命はフォースティアの期待に応え増え、世代を重ねて成長を繰り返した。

 そうしていくつもの種が増え、小神が誕生した。その中で最も目覚ましい成長を示し、女神に近い姿を獲得したのが人王マディだ。


 マディは自らの子孫を増やした。植物を利用し、獣や鳥から家畜を創り、魚や殻類の一部を食料とし、鉱物を加工してマディの子孫は世界中に繁栄した。マディは小神から神となり、彼の子孫は人種と呼ばれるようになった。

 マディに次いで樹王や獣王、鳥王といった小神が生まれたが、人種以上に種を繁栄させる事も、マディ以上の力を手に入れる事も出来ずにいた。


 同時に、ディランティアは命を落として死者となったマディの無二の親友ガルドールに、死者を統べる死神の任に命じ、冥界の小神とした。

 ガルドールは冥界に導かれた死者を迎え、再生の時を迎えて新たな生命を得て冥界から去る者達を見送り続けた。その胸には繁栄を謳歌する親友への嫉妬が芽生えていたが、神とは言え死者である自らが冥界から出る事は叶わない。そのはずだった。


 だが、世界に変革をもたらす神が誕生した。現在でもどの種族から生まれたのか不明な存在、エーデル。かの神は自らを魔神と称し、世界を魔力で満たし、あらゆるものに魔力を宿らせた。

 そして混沌が始まった。自らの意思で動き言葉を発する魔樹や魔草、本来ありえない特徴や持ちえない能力を持つ異形の魔獣、人より巨大な蟲、そしてそれまで存在したどの鱗類より強大な力を持つドラゴン。


 魔物の誕生だ。


 だが、小神達は魔神エーデルと魔物達を倒して元の世界を取り戻すのではなく、利用する事を選んだ。

 鱗王はより優れたドラゴンを生み出そうと試み、様々な種を創り出し、新たに龍王と名乗る小神を誕生させた。

 樹王や岩王、そして獣王は魔物に襲われ危機に瀕していた人種の一部を囲い込み、魔力を利用して人種に近い新たな種族、エルフやドワーフ、様々な獣人種をそれぞれ生み出した。


 そして様々な小神が人に近い存在から魔物の一種まで様々な種族を創り出し、繁栄を謳歌していた人王マディと人種達の地位を奪おうとした。

 だが、マディも事態を傍観していた訳ではなかった。


 魔力を利用して人種達にそれまでより早く、そして強く成長する事が出来る仕組み……レベルを与え、それまで神々の加護を与えられた者しか扱えなかった魔法と同じ事が行えるようになる技術を教え広めた。

 それまで神の加護によって行使された魔法は神聖魔法と呼ばれ、魔道士の魔法とは区別されるようになった。


 こうして新たな変化に対応してきた生命だったが、事態はより混迷を深める事になる。魔力を帯びた生命達が死者となった事で、冥界にも魔力が満ち世界と冥界が直接繋がってしまったのだ。

 冥界から現れた死神ガルドールは、自らの眷属として冥界に赴く事を拒否する死者に仮初の命を与え死に損ないの怪物、アンデッドに変え自分達こそが生死を超越したこの世界の支配者だと主張し、かつての親友マディや他の神々に戦いを挑んだ。


 終わる事ない混沌と争いに世界は落されたが、マディの子孫である我々は隣人達と手を取り合い正しい道を進まなければならない。いずれフォースティアとディランティアの後継者となる大神に至る者が現れるその日まで。







(っと、言うのが子供の頃に習った神話だったな)

 安全な場所を探して求めて歩いたダリアスは、適当な木に登って夜空を眺めていた。地上では様々な魔物が、活発に活動しているので、それしかできる事が無い。


(眠れないって、メリットだけじゃないんだな。全然気が休まらないし、暇で死にそうだ)

 そう思いながら夜空に浮かぶ月を見つめると、少し安らぐ気がした。死者の女神であるディランティアの象徴だからだろうか?


(……ここ五百年くらい、リディアが聖女をしているマディ神王国が建国されてからの神話はそうなっている)

 魔神エーデルが世界を魔力で満たし、死神ガルドールが冥界の門を開いたため死者の国の瘴気が地上に混じってしまった。更にその後に起きた争いによって神々は消耗し、以前のように地上で活動する事が出来なくなってしまった。皮肉な事に、エーデルとガルドール自身も含めて。


 そのため、ガルドールは冥界に戻り、エーデルは独自に魔界と呼ばれる小世界を創造して引き籠り、マディ達はフォースティアが新たに造り上げた神界と呼ばれる世界に避難した。

 そうして各々の居場所から信徒に加護を授け、神託を下し、人々や眷属に指示を出す形で介入している。

 それからこの世界は人の世……人界と呼ばれるようになった。


 そう語られている神話は、神々が直接語ったものでもなければ、神話の時代を生きた者が記した記録を読み上げた物でもない。

 約五百年前、マディ神王国になるマディ大神殿の初代教皇が、神々から授けられたと『されている』ものだ。


 だから、その前は別の神話が存在したし、この大陸以外ではまた別の神話が語られている。村を出て交易都市ザニルで冒険者になった後、図書館に通って勉強したダリアスはその事を知っていた。

 神々の名やその数、そして大まかな流れは変わらない。ただエルフに伝わる神話では樹王が創ったエルフを見本にして、マディが人種を創った事になっている。

 他の大陸の神話の中には、死神ガルドールはディランティアの指図で冥界と人界を繋げたことになっているものもあるという。


 他にもいくつか知っていた気がするが……今は思い出せない。

(実際、俺が教わった神話が正しいなら、いくら妹が俺のために祈ってくれているからと言ってフォースティアがアンデッドの俺に加護を与えるとは考えにくい)

 神聖魔法を使うアンデッドの存在は、以前から知られている。ただ、その神聖魔法は月と死者の女神ディランディアや、死神ガルドールの加護によるものだ。フォースティアの神聖魔法を唱えるアンデッドなんて聞いた事が無い。


(だけど、俺自身がそうだからな。これは……いや、学者でもない俺が考えても仕方ない。暇だと考え事が多くなって困るな)

 ため息を吐くように肩を落とすと、東の空が明るくなってきた事に気が付いて、慌てて木を降り始めた。


(今日もリディアに会うために存在進化を目指して頑張るぞ!)







・現在のダリアスの弱点


・日光への恐怖心

・生前より落ちた身体能力(NEW!)

・軽くなって踏ん張りが効かなくなった足腰(NEW!)

・嗅覚と味覚の喪失、視覚の鈍化(NEW!)







〇〇〇


名称:スケルトン

分類:アンデッド

討伐難易度:☆1


白骨化した遺体がアンデッド化した存在。肉も内臓も失っているため、生前に比べると身軽で下位アンデッドにしては素早く動く事が可能。また、骨しかないため斬撃や刺突に強いという長所を持つ。

 しかし、筋肉が無いため生前より力が落ちており、軽くなったために衝撃に弱く転倒しやすい。また、骨が剥き出しになっているため鈍器による打撃に弱く、腱が無いため骨がバラバラになりやすいという長所を上回る短所がある魔物。


 知能は無く、ゾンビにある原始的な食欲すら失っており、虚ろな眼窩に宿るのは生者に対する憎しみだけとなっている。

 また、何も食らえないまま長時間過ごしたゾンビは肉を失いスケルトンになるという説があるが現時点で確証はない。


 討伐難易度は☆1で、一体なら戦闘訓練を受けていない新人冒険者や、農民でも武器になる物(鍬等の農具や適当な長さの棒)があれば討伐する事が可能。ただ、多くの場合複数の個体で群れを作っているので注意が必要。

 また、討伐する場合はゾンビと違い頭や首ではなく、背骨や腰骨を狙うのが効率的。


・注

 ダリアスの場合、フォースティアの神聖魔法が使用可能で、知能のある立ち振る舞いが可能であるため討伐難易度は他のスケルトンより高く、星2相当。

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