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19話 喉を潤す奴隷吸血鬼司祭と聖女の力になる鮮血王子

 スレイヴヴァンパイアになった自分はこれからレオーネ達のように血を飲まなければならなくなる。その事をダリアスは失念していた。

 ハイスケルトンから存在進化した時に気がつくべきだっただろうが、それだけダリアスにとって飲食は縁遠いものになっていたのだ。……存在進化した直後にレオーネと踊り、帰って来てからはプルニス・プルコットの実験に付き合ったので、落ち着いて考える時間が無かったのも一因だが。


『……』

 差し出されたグラスを受け取った時、血を飲む事に対して躊躇いや嫌悪感は覚えなかった。考える前に唇の無い口を開き、呷っていた。


 その瞬間、ダリアスは目が覚めるような、それでいて満たされる感覚に意識を占領された。

『……おぉ!』

 美味い。あまりにも美味過ぎる。生前味わったどんな飲み物よりも、たった今口にした魔物の血は美味く、コクがあり、甘く、香ばしく、滋味豊かで……ダリアスの知る全ての言葉を使っても現しきれない程美味かった。


 それだけではなく、ダリアスの体内に活力が満ちていた。先ほどまで消耗し、辛く切ない思いをしていたのが嘘のように満ち足りている。まだ無いはずの心臓が高鳴っているような錯覚すら覚えた。

 気がつけば魔力が滾り、減退していたオーラは存在進化した直後と同じ火柱のような勢いを取り戻していた。


「気に入ったようだね」

『ご馳走様でした。

はい。まるで生き返ったような気分です』

 グラスをフレッシュゴーレムに返したダリアスは、そう答えた。


 久しぶりに摂った食事は、ダリアスの肉体のみならず精神も癒していた。忘れていた空腹感が満たされ、満腹感を思い出す事が出来た。

 それだけではなく、血を飲んだことでダリアスは味覚以外にも忘れていた感覚を取り戻していた。


『これは……』

「どうしたんだい?」

 突然周囲を見回し、戸惑った様子で歩き出すダリアスに声をかけるプルニス。ダリアスはそんな彼に近づき、首を傾げた。


『いや、何だろう? なんだかとても良い感じの……そうだ、香りだ! 良い匂いが……香草の香りがする! プルニスさんから!』

 それは嗅覚だった。呼吸の必要が無く、そもそも鼻も心肺も物理的に無いダリアスだったが、嗅覚は味覚と密接に関係している。鼻を含めた顔が無くても、呼吸不能でも、ダリアスには嗅覚が戻っていた。


「え、僕から? ……ああ、薬品の材料の匂いか」

「ダリアス、他にどんな匂いがするか分かる?」

『ええっと……埃に、酒?』

 尋ねられたダリアスは、プルニスとプルコットに顔を近づける。すると生前に嗅いだことのある臭いがした。


「埃は壊れたリビングスタチューやゴーレム、酒も薬の残り香かな?」

「スレイヴヴァンパイアが血の匂い以外に反応するところを見るのは初めてだ」

 味覚に関係しているだけあって、嗅覚は食欲を覚える匂いに敏感だ。人間の場合はパンや香辛料をかけた肉や魚が焼ける匂い、紅茶の香り、果物や菓子の甘い香りが該当する。吸血鬼なら、もちろん血の匂いだ。


 中でも、スレイヴヴァンパイアは血以外の飲食物が不要であるため、血にしか反応しない。しかし、ダリアスは生前の人格と記憶を維持している影響か血以外の匂いも判別する事が出来た。


「おはよう、ダリアス。どう? 存在進化した体には慣れた?」

 そこに日が沈んで目覚めたレオーネがやって来た。

『おはようございます、レオーネ様、はい、実験のお陰でだいぶ掴めてきました』

「そう、じゃあ今夜から訓練を再開できそうね」


 機嫌が良さそうなレオーネ。そんな彼女を見ながらプルニスは尋ねた。

「ダリアス、レオーネからはどんな匂いを感じる?」

「え? 匂い?」

『今まで嗅いだことが無いくらい、いい匂いが……いや、最近嗅いだ覚えが……そうだ、夜会で嗅いだ匂いがします』


 言われるままにレオーネに近づいたダリアスが、記憶を探って答える。脳裏には、彼女とダンスを踊った時の光景がありありと浮かんでいた。

 初めて血を飲む前にも、自覚は無かったがダリアスの嗅覚は戻っていたのだ。


「それは多分香水の匂いね。夜会にはつけていったから。でもダリアス、気に入ってもらえて嬉しいけど……いきなり人の匂いを嗅ぐのは失礼じゃない?」

『あっ、すみません』

 ハッと我に返ったダリアスだったが、もう遅かった。レオーネは良い口実が出来たとばかりに、口の両端を吊り上げていたからだ。


「あなたに悪気が無い事は分かるけど、お仕置きも兼ねて今夜の訓練はちょっと厳しめにしましょうか。プルニスとプルコットもね」

「僕達も?」

「そろそろ交代の時間だから肉体の主導権を返すね、頑張って兄さん」

「あ、狡い」


「どっちでもいいけど、あなたも偶には体を動かしなさい。関節が強張って戻らなくなっても知らないわよ」

 一人に戻ったプルニス・プルコットの手を掴んで、ダリアスを引き連れたレオーネは足取りを弾ませて城の外へ向かったのだった。







 兄の訃報を知らされてから約一カ月。丸一日兄のために祈りを捧げたリディアは、次の日からそれまで通りに聖女としての務めを果たしていた。

(女神様、今日も兄さんをよろしくお願いします。兄さん、頑張って)

 そして、陰謀の首謀者であるビディコフ・マガ・レムテスの思惑に反して、起床と就寝直前に兄のために祈る習慣も続けていた。


 ビディコフ高司祭はあれからマディ大神殿に寄りついていないが、ウィリオネル・ラダ・リュシオン大神殿長はそれに気がついているはずだ・しかし、リディアに何か言う事は無かった。亡き兄への思いが彼女の支えになるなら、それで良し。そう考えているのだろう。


「何か、悩みでも?」

 そんなある日、リディアにそう尋ねたのはスフォレイツ王子だった。

「悩みなんて。皆のお陰で日々健やかに過ごしていますよ」

 そう答えるリディアの様子は一見すると元気そうだった。顔色も良く、表情からは悩みや憂いの色は伺えない。スフォレイツ王子への態度も、前回の交流会で「怖い人ではないのかもしれない」と思った影響か柔らかくなっている。


「むしろ、王子の方が大変そうです。魔物討伐の遠征に出ていたと聞いています」

「部下達と冒険者達のお陰で、楽が出来ました。大変なこと等何もありません」

「先頭に立って魔物の群れに突撃したと聞いていますけど……?」

 スフォレイツ王子は、アルザニス王国第三王子でありながら最前線で戦う事で知られている。他国との戦争が起きれば部下を率いて突撃し、暗殺者に狙われれば護衛の騎士を守りながら返り討ちにし、危険な魔物を討伐する際には冒険者と肩を並べて前線を支える。


 それらの話はアルザニス王国と縁が薄い国では誇張された武勇伝と思われているが……すべて事実である。


「ええ、部下達や冒険者が背中を守ってくれたおかげで、群れのボスを討伐する事に集中でき、楽が出来ました」

 そう嫌味でも何でもなく、真面目に答えるスフォレイツ。吸血鬼に対抗できる武力の持ち主を選んだら、たまたまその中に王族がいた。そうリュシオン大神殿長が評したのは本当だった。


「それは良かったです。でも、私は本当に悩んでなんて――」

「私はよく家族から女心の分からない奴だと苦言を呈されています。ですが、あなたの瞳は遠征前に悩みや迷いを抱える者の瞳に似ている。

 それが、私の杞憂ならそれでいいのだが」


「――悩み、と言う程のものではないと思います。でも、迷ってはいる……と思います」

 スフォレイツ王子の真摯な眼差しに、リディアは取り繕うのを止め胸の内に抱えているものを打ち明ける事にした。


「実は、少し前から魔法の勉強で回復魔法だけではなく攻撃魔法も習っているんですけど、近々護身のために武術も習いましょうって言われているんです」


 しかし、兄に関する事ではなかった。

 リディアは交流会の相手にも、自分の出身について話す事を禁止されている。だが、それ以外の事は話しても構わないと言われている。それに、スフォレイツ王子の事は信頼できそうとも思っているが、兄の事を打ち明けるには彼のために祈っている事も打ち明けなければならない。その秘密を告白する事にはまだ躊躇いがあった。


「それは、戦いが恐いという事だろうか?」

「恐いかも分かりません。まだ、動かない的か魔道士さん達が作ったゴーレムにしか攻撃魔法を唱えていませんから。『浄化』の魔法をアンデッドに唱えた事は何度かありますけど、すぐ浄化できるので『戦い』と言うのも違う気がするんです」


 『生命と太陽の女神』フォースティアに深く愛されているリディアにとって、並みのアンデッドは恐ろしい存在ではなかった。最下位のゾンビやスケルトンなら、神聖魔法を唱えなくても近づくだけで浄化できるだろう。逆に、吸血鬼やリッチ等の上位のアンデッドと遭遇した経験は無い。


「それは素晴らしいが、では悩みとは?」

「はい、大神殿長様が私にどうなって欲しいのか分からなくて、言われるままに教えられる事を覚えるだけでいいのかと……つまり、将来の悩みです」


 兄に関する事ではないが、これもこれでリディアにとって深刻な問題だった。

 リディアにとって聖女とは、人々の傷や病を癒し、アンデッドを浄化し、魔物と戦う者達を援護する存在だ。大神殿に来てから習った歴史や聖女の逸話でもそのように記されている。

 人々を癒し守るためなら、戦場に赴く事もあるだろうとは思っていた。実際、過去にはアンデッドが大量発生した古戦場へ行き、浄化魔法を唱えた事もある。


 だが、自ら攻撃魔法を撃ち、武具を持って戦う事になるとは考えていなかった。

 恐いわけではない。大神殿長や家庭教師でもある高司祭、そして魔道士達が自分をどうしたいのか分からなくて不安なのだ。


「大神殿長殿達に相談は?」

「聞いてみました。でも護身のためとか、魔物の討伐隊に同行する際必要だからとしか答えてもらえなくて、はぐらかされている気がするんです」

「確かに、魔物の討伐隊に同行するなら身を守る術は必須だが……」

 リディアの神聖魔法なら、並みのドラゴンなら傷一つ付けられない強固な結界を張る事が出来る。それに神殿騎士を付ければ、自衛のために修める攻撃魔法や武術の練度はそこまで重要視しなくてもいいはずだ。なのに、大神殿長達はリディア自身を強くしようとするのか。


「大神殿長も『人王』マディに深く愛されている方だ。何か、深い考えがあるはず。あなたにそれを教えないのも、そのためだろう」

 考えた結果、スフォレイツ王子はそう答えた。


「そうかな? ……そうかもしれない」

 そう言われると、リディアにもリュシオン大神殿長達が何故自分を強くしようとするのか教えてくれない理由に心当たりがある事を思い出した。


 約一カ月前に受けた兄が亡くなったという報せ。大神殿長達は彼女が心の整理をつけるまではと、慮っているのかもしれない。

 ……実はその通りで、リュシオン大神殿長は兄を亡くした直後のリディアに、ヴァンパイアロードに狙われているという過酷な宿命を彼女に告げる事を躊躇っていた。


「あるいは、ただ単にあなたの健康のためかもしれない。先々代と先代の聖女は二人とも若くして儚くなってしまったと聞いている。

 そのために魔力と体力を鍛え、レベルを上げようとしている」


「体力はともかく、魔力とレベルも健康に関係するんですか?」

「経験則だが、優れた騎士や魔道士で戦死しなかった者は総じて長寿だったと記録されている。高い魔力を持つ者同士で婚姻を重ねて来た王侯貴族も例外じゃない」

「そうだったんですね。そう言えば、魔道士のお爺さん達はいつも元気一杯でした」


 話している内に抱えている不安が軽くなったのだろう。小さく笑うリディアに、スフォレイツ王子も目を細めた。

「機会があれば、私もリディアの訓練に参加してもいいだろうか?」

「王子がですか?」

「冒険者程ではないが、魔物を討伐した経験は豊富だ。何か助言できるかもしれない」

「ありがとうございます。大神殿長様にお願いしてみますね」

「ああ、頼む」


 嬉しそうに笑顔を浮かべるリディアに微笑みかえすスフォレイツ王子。二人はその後とりとめのない話に興じ、交流会が終わる事を惜しみ、再会を望んで別れた。


「王子、良い事があったようですね」

 マディ大神殿から出た馬車の中でそうスフォレイツ王子に話しかけるのは、短く刈り込んだ髪に日によく焼けた肌をした、騎士よりも傭兵や冒険者をしている方が似合いそうな容姿の青年だ。

 彼の名はニグン・ワイルダー、王子の乳兄弟であり側近を務めている人物だ。


「ニグン……私はきっと今、夢を見ているのだろう」

「よっぽど良い事があったんですね。そりゃあ良かった」

 夢でも見ているような瞳で馬車の天井を眺めている王子に、ニグンは苦笑いを浮かべた。


(いつもの鉄面皮が見る影もない。思えば王子も変わったもんだ)

 ニグンが知る限り、子供の頃のスフォレイツ王子は無気力で生意気な嫌な奴だった。王族で、全てに対してやる気がないくせに、才能に恵まれ過ぎているから何もしなくても努力している同世代の子供の先を行ってしまう。

 しかし、乳兄弟であるため物心つく前から王子を知っているニグンは、彼がそうなった理由も分かっていた。


 スフォレイツ・フォン・ロザム・アルザニスの母は、現国王の側妃だった。現国王には既に正妃との間に生まれた第一王子がいたが、当時の彼は生まれつき病弱で十歳まで生きられないだろうと言われていた。そして、正妃は第一王子を産んだ後長く身籠っていなかった。


 折悪く、現国王の弟は他国に婿入りしており、様々な問題があり血縁的に近い貴族から養子を貰うのも具合が悪い。そこで、大臣達は若い側妃を娶る事を進言し、現国王もそれを受け入れた。そして、選ばれたのが伯爵家出身で当時正妃の護衛を務めていた女性騎士だった。


 彼女は周囲が期待した通りに、すぐに子供を身籠った。だが、予期せぬ事が起こった。彼女が身籠る前日に、正妃も身籠ったのだ。

 そして一日違いで正妃と側妃は出産。それが第二王子、そしてスフォレイツ第三王子だった。

 しかも、病弱だった第一王子は成長するとともに体が強くなり、今では立派に現国王を支える時期王位継承者としての務めをしっかり果たしている。


 アルザニス王国としては幸運だったが、スフォレイツ個人にとっては不幸な巡り合わせだった。

 母は側妃としては低い爵位出身で、現国王から注がれる愛情も正妃程ではない。健康で優秀な腹違いの長兄に、一日違いで生まれた次兄。幼いスフォレイツが下手に野心や優秀さを見せていれば、将来政争の火種になると危険視されていただろう。


 そして、スフォレイツは早熟な子供だった。幼いながらに自分が置かれた立場を理解した彼は、「それなり」に生きていく事を受け入れようとした。

 王位を望まない姿勢を明らかにし、優秀さも並より上程度にしか見せず、多くを望まず生きていく。

 かといって、城を飛び出す程自由を渇望してはいなかったし、不自由ない生活を捨てて平民になる気も無かった。


 将来は騎士団に入ってそこそこの武功をあげて、それなりの箔をつける。それから父や兄が勧める政治的に都合が良い貴族の婿養子に入るか、外国に婿入りするつもりだから、出世を望むなら適当なタイミングで私から離れるべきだ。

 そう子供の頃に乳兄弟から言われた当時のニグンは、寂しさとやるせなさを覚えたものだ。


 そんなスフォレイツ王子が変わったのは、マディ大神殿に招かれ聖女リディアに出会ってからだ。彼はニグンに「私は今日、生きる意味を見つけた」と言うと人が変わったように訓練に打ち込みだした。

 それなりでいる事を止め、誰よりも訓練に打ち込み、誰よりも肉体を鍛え、誰よりも魔法を学び、そしてレベルを上げるために誰よりも魔物を倒した。


 王族として相応しいふるまいではないと現国王や周りが止めようとした時にはもう遅く、スフォレイツの活躍は騎士団だけでなく国中に知れ渡っていた。

 自ら少数の精鋭を率いてゴブリンキングや異常増殖したワイバーンの大群、同盟国のダンジョンから現れた異形の巨人の討伐を成功させた。


 スフォレイツの勇名は揺るぎないものになっており、現国王も彼を普通の王子として扱う事を諦め、ニグンを含めた精鋭を預け、独立した軍として振る舞う事を許している。

 ただ、あまりにも多くの魔物を、そして時には敵国の将兵をその手で討ち取ったため「鮮血王子」や「戦狂い」と言う悪名がついてしまい、恐れられるようにもなってしまった。……リディアにもそれでつい最近まで苦手意識を持たれていたのは、皮肉としか言いようが無いだろう。


 そこまでして王子が強さを求めるのは、武功でもって聖女リディアを妻として迎えるため……ではない。そもそも、出家した貴族の令嬢ならともかく、聖女が還俗し婚姻した前例がない。

 彼がリディアと巡り合うきっかけになった交流会も、王侯貴族の社交とは異なる目的で開かれている事は彼にとっては明らかだった。


「しかし、宿に着く前には夢から覚ましてくださいよ。他の騎士が混乱しますから」

「この程度で狼狽える者は私の部下にはいない」

 いつもの冷静な顔つきに戻ったスフォレイツを見て、ニグンは乳兄弟から側近の顔つきに戻った。


「ニグン、具体的な日時はまだだがリディア様の訓練に私も参加できることになった。可能ならお前達も連れて行くつもりだ」

「大神殿の訓練にですか? どうやって許可をもぎ取ったんです?」

「許可はまだだ。だが、降りるはずだ」


 まるで決まりきった事を語るように言うスフォレイツにニグンが視線で問うと、彼は瞳に使命感を宿して答えた。

「リディア様を狙う者達の脅威が迫っている。彼女自身はまだ知らされていないようだが、確実に」

 リディアが打ち明けた将来への不安。その話から、スフォレイツは大神殿長が彼女に力を付けさせ、何かの脅威に備えようとしている事を見抜いていた。


「……いよいよですか」

 その話をニグンは一も二も無く信じた、何故なら、スフォレイツから貪欲に強さを求める理由を打ち明けられていたからだ。


 全てはリディアのため、彼女の力になれる人間になるためだった。


 政治的な後ろ盾になりえない第三王子が、何故聖女の交流相手に選ばれたのか? 彼は当時からマディの敬虔な信者ではなかったし、もっとリディアと歳の近い上級貴族の子弟や子女が何人もいたのに。

 スフォレイツはその理由を、同世代の少年達と比べ抜きんでていた武術や魔法の腕前にあると直感した。それは、大神殿長が自分以外のリディアの交流相手として『神童』と称えられる天才的な少年魔道士や、七つ星への昇級が確実視されている冒険者を選んだことを知り、確信に変わった。


 大神殿長は力を持つ者をリディアの周りに集めようとしている。それは何故か? 大神殿にある戦力だけでは対抗できない程の脅威が迫っているからだ。

 だからスフォレイツは鍛えた。自分自身を、そしてニグン達信頼のおける部下達を。


 そして力を手に入れたスフォレイツ王子達がリディアとの訓練に参加する。お互いの力を確認し、連携を整えるチャンスを大神殿長が不意にするとは考えられない。


「……ニグン、皆には改めて言うつもりだが私から離れるなら今の内だ。特に、お前なら望む場所に異動できるはず。兄上達も喜んで受け入れるだろう」

 スフォレイツ自身はリディアのためならどんな危険も厭わない覚悟があった。その果てに、彼女の傍らに自分が立てなくても構わない。彼女が幸せならスフォレイツは第三王子と言う地位も、そして自らの命も賭ける覚悟が出来ている。


 だが、ニグンや他の部下達は違う。アルザニス王国のためでもなく、勝っても出世できる見込みの少ない危険な戦いについて行く理由は無い。


「今更普通の王侯貴族に宮仕えしろと? 無茶を言わないでくださいよ。それに、王子から離れたら母さんにどやされる」

 いつかのようにそう言いだすスフォレイツに、ニグンは笑って首を横に振った。


「そもそも大神殿が必死になって戦力を集めなきゃならないような奴らが、聖女様を狙うだけで他に何もしないとは考えられない。穏やかな余生を過ごすためにも、お供しますよ」

「そうか、物好きな奴だ」

 乳兄弟の返答に、スフォレイツはため息を吐いた。だが、その様子はどこか嬉しそうだった。




〇〇〇〇〇




〇現在のダリアスの弱点

・日光への恐怖心

・嗅覚と味覚の喪失(克服!)

・睡眠や飲食で精神を癒せない → 睡眠で精神を癒せない(変更!)

・浄化魔法でダメージを受ける。自分が唱えた場合でも同様

・回復魔法でダメージを受ける。自分が唱えた場合でも同様

・人を見殺しに出来ない

・吸血鬼に逆らえない

・油断すると思考が声に出てしまう

・未練が解消すると消滅(成仏)してしまう

・再生力を維持するために、血を飲まなければならない


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[良い点] いつも更新楽しみに拝見しております!! [一言] 私は四度目がめちゃくちゃ好きな作品で何度も読み返してます。 もちろん文庫も買いましたが、最近も1話から読み返してます。 そこで提案という…
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