18話 奴隷吸血鬼司祭の喉が鳴る
レオーネとダリアスが広間の中心で踊っているその時、ディランは城にいくつかあるバルコニーの一つに向かっていた。
「あら、悪巧みは終わったの?」
そこには先客がいた。青いドレスを着た白銀の髪をした女吸血鬼が、振り返ってディランに声をかける。
「ああ、予想外の展開だったけれどね」
「ふぅん。予想外って、あのジリウスって子が負けちゃったのが?」
「なんだ、見ていたのか。でも勝敗に関しては妥当な結果と言える。相手が悪かったとしか言いようがない」
ジリウスは未熟ではあったが、無能という訳ではなかった。無能をレッサーヴァンパイアにするはずもないので当然だが……今夜のちょっとした企てが成功し生き延びていたら、ヴァンパイアに取り立ててもいいかとディランが思う程度には役立っていた。
「レッサーからノーマルに存在進化したのに?」
「そうとも。存在進化しただけでは足りなかった」
存在進化に至る魔物は、その時点で既に次の段階に進むのに十分な経験を積んでいるか才能に恵まれている、もしくはその両方である事を意味する。
「もっとも、それは私の落ち度だ」
しかし、ジリウスはディランが与えた血によって本来よりも早く存在進化に至った。そのため身に着けた剣技も、唱えられる魔法も、そして手にしていたサーベルの品質さえレッサーヴァンパイアの域を出ない物だった。
その上、身体能力と魔力だけは数段強化されている。だから力加減を誤ってサーベルを折り、身体能力に振り回されて隙だらけになって、魔力を活かせないままダリアスに敗北したのだ。
「仕方ないわ。あのハイスケルトン……ダリアスと言ったかしら? あれはきっと異常種だもの。普通のハイスケルトンの枠に納まらない個体よ
ディラン、あなたの言った通り相手が悪かったとしか言いようが無いわ」
そしてジリウスは運も悪かった。決闘の相手が普通のハイスケルトンなら、急造のヴァンパイアである彼でも身体能力で強引にねじ伏せられたはずだった。
しかし、ダリアスは女吸血鬼が言ったように通常のハイスケルトンではない。オーラを操作するだけではなく、レオーネの指導を受けている。そして何より――
「私も初めて見たわ。二柱の神、ディランティアだけじゃなくフォースティアの加護を持ち、神聖魔法を二種類唱えられる存在なんて」
「……それは本当か?」
女吸血鬼の言葉に、自嘲気味ながら穏やかだったディランの顔から笑みが消えた。
「もちろん本当よ。彼はディランティアだけじゃなく、フォースティアにも祈って神聖魔法を唱えていたわ」
「そうか……君が言うのなら本当なのだろう。驚いたし、信じ難い事だけど……まさか、彼は聖女なのか? 声は男のものだったが――」
城に現れた時は骨だけだったので生前の性別はパッと見ただけでは分からない。今は皮膚や肉がやや戻ったが、顔は相変わらず髑髏のままで、半ば残骸とはいえ皮鎧を着ている。実は女なのかもしれない。
そこまで考えたディランは、女吸血鬼が笑っている事に気がついて我に返った。
「あはははっ、ディラン、それは無いわ! フォースティアは男性にも加護を与える事はあるけど、聖女は文字通り女だけよ。私も含めてね。
あのダリアスが聖女だなんてありえないわ」
「それもそうか。では、彼は何故二柱の女神の加護を得たのだろう?」
「さあ、分からないわ。もしかしたら、生前はダンピールか何かだったんじゃないかしら? それなら生前はフォースティアの加護を、そしてアンデッド化したタイミングでディランティアの加護を得てもおかしくない……かもしれないわ」
「確証はない、か」
「あるはずが無いわ。異常種以上のレアケースだもの。なんにしても、あの子が死んだのはあなたの責任じゃない。負けただけならともかく、決闘で騙し討ちをしたのだもの」
「そんな事をしないよう、ジリウスを躾けられなかった私の責任だ。ゼルブランドには大きな貸しを作ってしまった」
キャスと呼ばれた女吸血鬼に寄り添われても、ディランは沈んだままだった。しかし、愛しい人とともにいる時間は彼の鼓動に徐々に力を取り戻させていく。
「失礼します」
「ヒルヴェルト、夜会の様子はどうかな? 私のせいで白けていないと良いのだけど」
狼系獣人の吸血鬼、ヒルヴェルト・ゾルフィウス卿がバルコニーに出た時には、ディランは普段の彼に戻っていた。
「皆、あの愚か者を処断したディラン様を畏れる事はあれど、白ける者などおりません。此度の余興の失態の責任はこの私にございます。何なりと罰をお与えください」
ジリウスが実行役だったゼルブランドへの嫌がらせを提案したのは、ゾルフィウス卿だった。最近活発に中立派に接触し、革新派に鞍替えするよう促している彼の評判に傷をつけ、ヘッドハンティングの邪魔をするつもりだった。
たったそれだけの陰謀と呼ぶには小さな策。だが、見事に失敗してしまった。
「罰は与えない。相手が悪かった、それだけの事だよ」
「しかし――」
ディランに断られても自分を罰するよう求めるゾルフィウス卿。そんな彼にキャスと呼ばれた女吸血鬼が声をかけた。
「あなたは私達保守派に必要な人材よ。罰を与えてあなたがしばらく行動不能になったら、それこそ目も当てられないわ」
「キャスリーン様……寛大な処置に感謝いたします」
四百年前、吸血鬼に攫われた事を知る者達に死神ガルドールへの生贄に捧げられたと考えられていた聖女キャスリーン。彼女は吸血鬼となって、自分を攫ったヴァンパイアロードに寄り添って今も生きていた。
夜会から帰ったダリアス達を、城で留守番をしていた面々は驚きを持って出迎えた。特に、プルニス・プルコットの興奮ぶりは凄かった。
「次からは僕達も夜会に出席する」
「ドレスを着て踊る事も厭わない」
ゲジャッグに持たせた片眼鏡型のマジックアイテムで撮影した、ダリアスとジリウスの決闘とその後の彼の存在進化は、空っぽであるはずの胸を高鳴らせるのに十分すぎたようだ。
『いや、次も決闘する事になるとは思えませんよ』
抱き着かんばかりの勢いで……いや、抱き着くようにして自分の身体を調べているプルニスとプルコットを宥めるダリアス。その彼を見て、レオーネはふと気がついた。
「そう言えばダリアス、あなたって話す時口を動かさないけどそれって癖?」
『え? いや、普通に動かして……あれっ、本当に動いてない!?』
答えながら手で自分の口元に触れると、確かに動いていなかった。顔面は肉や皮膚が殆ど戻らず骸骨のままとは言え、喉には赤黒い肉と変色した皮膚が戻っているのに。
「存在進化した時からずっとそうだったけど……気がついてなかったの?」
「ふむ……映像を確認したけど、確かに動いてない」
『そう言えば、呼吸もしていない。俺はこの声をどうやって出しているんだ? 他のスレイヴヴァンパイアは違うんですよね?』
「当り前だ。当時の事はあまり覚えちゃいねぇが、声の出し方は生きている人間と同じだったはずだぜ」
困惑した様子のダリアスに、元々はスレイヴヴァンパイアだったゲジャッグがそう答える。
「ただ、おめぇはちょっと前までハイスケルトンだったんだ。その時と同じ方法で声を出してるんじゃねぇか?」
『なるほど。言われてみれば確かに、ハイスケルトンだった時から声を出す時に口を動かしていなかった気がします。……じゃあ、多分今も俺はオーラで声を出しているのかな』
何でもオーラのお陰だと考えるのもどうかとダリアスも思うが、スケルトンの時は声を出せずハイスケルトンになったら声が出せたという事は、やはりオーラによるものだろう。魔力なら、ダリアスは敗者の骨だった頃から神聖魔法が唱えられたのだし。
「理由が分かったのは良いけど、ダリアスが普通に話すのはまだ無理そうだよ。肺が無いから」
『えぇっ!? 無いんですか!?』
ダリアスとゲジャッグが話している間も彼の身体を調べていたプルニスに指摘され、彼は驚いて自分の胸を見下ろす。
「うん、心臓も無いよ。体のバランスが変わっているから、脳は戻ったかもしれないけど」
『言われてみると、頭が少し重いような……眼球のせいかと思っていましたけど、脳が戻って来たんですね。実感がありませんけど』
「分からない事が多いね」
手で頭に触れるダリアスを左右から、二人に分離したプルニスとプルコットが掴む。
「だから、新しい体について調べよう。君の安全のために必要な事だから」
「この居城にハイスケルトンからスレイヴヴァンパイアに存在進化した個体は、君だけだ。だから、入念に調査するべきだ、いや、調査したい」
「そうね。ダンスはともかく、訓練は新しい体のバランスに慣れてからじゃないと危険だから今夜は無しにしましょう」
「いや、そろそろ夜明けが近いですし、ダリアスも疲れているのでは?」
ダリアスを連れて行こうとする二人を見送る構えのレオーネにゲジャッグは考え直すよう促したが、当の本人がそれを否定した。
『大丈夫ですよ、執事長。存在進化したおかげか、魔力も気力も充実していますから。踏み砕かれた肋骨もいつの間にか治っていますし』
「ならいいが、無理はするなよ。ハイスケルトンだった時と同じようにはいかないはずだからな」
『はい』
そう返事をしながら、ダリアスはプルニス達によって連れていかれたのだった。
そして早速ゲジャッグの忠告通りになった。
『ダンスでは気がつかなかったけれど……頭が重いっ! 動く度に体が突っ張るっ!』
「人間の脳は大きいからね。それと、突っ張っているのは乾いた皮膚や肉、それと腱もかな?」
スケルトンと化してから強くなったダリアスにとって、スレイヴヴァンパイアと化し中途半端に戻った肉体の影響は小さくなかった。
「まあ、身体の変化はひたすら体を動かして慣れるしかないよ」
「腱の方は伸ばしていれば柔らかくなるんじゃないかな? 君、まだ痛覚は戻ってないよね?」
『ええ、骨だけだった時より体の感覚は分かるようになりましたけど、痛みは無いです』
無理な動きをすると体が突っ張る感覚は分かるが、まだ『痛み』はダリアスに戻っていなかった。そのため、『若干の不快感』程度でしかない。
今は久しぶりに戻った感覚に戸惑っているが、恐らく慣れれば無視する事も出来るだろう。
「どうしても気になるなら切除するって手もあるけど? 君、腱が無くても体を動かせるようだし」
存在進化した事で皮膚や肉が半ば戻ったダリアスだったが、骨がむき出しになっている部分もいくつかある。だが、それでも体を動かすのに支障は無かった。もちろん、勝手に骨が落ちる事も無い。だから、プルコットが言うように腱を切除しても問題は生じないだろう。
『それは……どうしても慣れなかった時は、改めてお願いします』
しかし、今の時点では違和感がある程度だったダリアスは切除を思い止まった。
「うん、そうだね」
そして意外な事に言い出したはずのプルコット達もその判断に賛成した。
「今から肉のある体に慣れておかないと、次の存在進化で困るだろうから」
『次って言うと、レッサーヴァンパイアでしょうか?』
スレイヴヴァンパイアが存在進化するとしたら、なるのはレッサーヴァンパイアという事になる。それぐらいはダリアスも知っていたし、出来ればそうなりたいと考えていた。
瞳の色や牙、皮膚の白さを誤魔化せば出身種族とそう変わらない姿のレッサーヴァンパイアになれば、妹であるリディアとの再会に近づくからだ。……聖女と下位吸血鬼が会うにはいくつもの難関が予想されるが、高位骸骨や奴隷吸血鬼のままよりはまだマシだ。
『しかし、できるでしょうか? ゲジャッグさんやゾルホーンさんは、スレイヴからレッサーに存在進化するのに百年ぐらいかかったって聞きましたけど』
なりたいと考えていたが、成れるか――それも出来れば数年以内に――は別の問題だ。そもそも、生涯一度も存在進化出来ない魔物の方が多い。それなのにダリアスは既に三度、存在進化を経験している。
この辺りで限界が来てもおかしくない。生前の経験から、自分の才能に自身が無いダリアスはそう考えていた。
もちろん、それだったとしてもリディアとの再会を諦めるつもりは無いが……。
「少なくとも、レッサーには成れると思うよ」
「それも、ゲジャッグやゾルホーンよりも速く」
しかし、プルニスとプルコットはそう太鼓判を押した。何故そこまで自分を見込んでくれるのかと疑問に思うダリアスに、二人は口を揃えて答えた。
「「君にはこれからも実験に付き合ってもらうし、レオーネから武術の指導を受け続ける事になるからだよ」」
『な、なるほど』
成長するには本人の資質や努力によるところも大きいが、環境や指導者の能力も大きな影響を与える。
プルニス・プルコットは今後、実験のためにも様々なゴーレムやアンデッドの相手をダリアスにさせるし、そのために必要な武具も開発するだろう。
そしてレオーネから高度な指導を受け続ければ、ダリアスの経験は彼が生前一人で積み重ねていた物とはかけ離れたものになるだろう。
なにより、ダリアスは知らないがプルニス達とレオーネは彼を未練が晴れても消滅しない存在……レッサーヴァンパイアにする事を目標にしている。
「それに、君とスレイヴヴァンパイアだった頃のゲジャッグ達には大きな違いがある。当時の彼らは、普通のスレイヴ。自我は無く、命令された事しかできなかった」
「それに対して君はスレイヴになっても相変わらずの異常種だ。自我を持ち、自分の意志で成長しようとしている。この差は大きいはずだ」
ゼルブランドの城や、今ダリアスがいるレオーネの城にもいるスレイヴヴァンパイアとダリアスの違いをあげて、それが根拠だと説明されると、ダリアスも自信を取り戻す事が出来た。
「もっとも、腱をそのままにしておく理由は存在進化した時のため以外にもあるけどね。切除しても数日もあれば再生するだろうから、繰り返しになる」
『再生……そうか、スレイヴヴァンパイアも再生力を持っているんでしたね』
一応ヴァンパイアであるスレイヴも、本物の吸血鬼と比べるとだいぶ貧弱だが人間よりは高い再生力を持っている。腱を切除した程度なら、数日もあれば元通りになるだろう。
ゾルホーンが調合しているアンデッド用のポーションも使えば、以前は新しい骨に変えなければならなかった欠損も再生できるかもしれない。
「だから、これまでより激しい実験が可能だよ。じゃあ、早速留守番している間に作ったリビングスタチューの相手をしてもらおうか」
「材質は石だけど、持っている武具は鉄製だからストーンゴーレムとは違うよ」
プルコット達が手を叩くと、重たそうな足音をさせてダリアスより二回りは大きそうな筋骨隆々とした男女の石像が動き出す。
『見慣れない美術品があるなと思っていたら……。一晩で彫ったんですか?』
「いいや、昔調査した遺跡から鹵獲したものだよ。レオーネが粉々にしたのを組み立てて、修復した」
「暇な時にダラダラとやっていたけど、やっと完成してね。丁度いいから、君相手に実戦テストに使おうと思って。もちろん、壊してもいいよ」
『……ストーンゴーレムより強そうなんですけど、俺に壊せるんですかね?』
二体の動く石像相手に、ダリアスは傷だらけのメイスとラウンドシールドを構えた。
二体のリビングスタチューとの戦闘実験は、多少のアクシデントはあったがダリアスの快勝だった。
ほぼ暇つぶしで製作したとはいえ、プルニス・プルコットが時間をかけただけあって、リビングスタチューは高性能だった。力任せに四肢を動かす事しかできないゴーレムと違って武術に近い動きが組み込まれており、隙が小さく、武器をそれなりに使いこなしていたからだ。
『うおっ!? 前より体は重くなっているはずなのに速く動ける!?』
しかし、存在進化したお陰でダリアスの身体能力はハイスケルトンの頃よりも上昇していた。疲労を感じないアンデッドの強みはそのままに、力が明らかに強くなっている。
最下級のスレイヴとはいえ、流石は吸血鬼と言った所か。ではアクシデントとは何なのかというと……プルニスの指示でメイスをオーラで包んで全力で男性像の方のリビングスタチューを殴りつけた時に、それは起こった。
『うわっ、折れた!?』
ジリウスとの戦闘にも耐えた、貰ったばかりのメイスの柄が折れたのだ。男性像を構えた盾ごと打ち砕くと同時に、へし折れて先端が飛んで行ってしまった。
「耐えられなかったか。レッサーまでなら余裕で耐えるように作ったはずだったんだけど」
「表面はボロボロだったけど、芯は無事だったのにね」
「でも存在進化したダリアスの力とオーラには耐えられなかったのか」
そう楽しそうに観察を続けるプルニス達。ダリアスは粉砕された相方の欠片を蹴り飛ばしながら迫る女性像の一撃から転がって逃げると、落ちていた男性像が握っていた鉄の剣を掴む。
『フンっ!』
そしてオーラを込めたそれで女性像をぶん殴る。剣ではなく鉄の棒として振るわれたそれと共に、女性像が砕け散った。
『な、なんとかなった』
「ノーマルヴァンパイア用の武具を用意する必要があるね」
「この分だと盾も近いうちに砕けるだろうからね。じゃあ、次の実験に行こうか」
『……はい』
自分の作品が砕け散った事にも頓着せず、次の戦闘実験の相手を呼び出すプルニス達に、ダリアスはこのまま日暮れまで戦い続ける事を覚悟した。当座の武器として、今度は女性像が持っていた剣を拾って。
「ダリアス、次は武器無しで戦ってみようか」
『ええっ!? 拳と蹴りで相手するんですか!?』
「いや、スレイヴヴァンパイアになったんだから鉤爪があるよね。両手足の指に」
『えっ? うわ、本当だ!?』
プルニスに指摘されたダリアスが自分の手に視線を落とすと、骨が軋む音を立てて指先から白い鉤爪が伸びた。
それは刃物のように鋭く、何でも切れそうに見えたが……ダリアスの不安げに呟いた。
『なんだか、薄すぎてすぐ折れそう……』
「折れてもすぐ新しい鉤爪が生えて来るから、気にしないで使いなよ。慣れないといつまでも使えないままだよ」
『分かりました、やってみます』
使い慣れない鉤爪を振り回し、必死に戦った甲斐あって彼は約半日で変化した肉体に慣れる事に成功した。全てではないが筋肉や腱が戻ってきからか、筋力が格段に上昇していた。それに伴って、敏捷性も向上している。
腱が突っ張る感覚に関しては、プルニスが調合した薬品に浸かって腱の柔軟性を高める方法で克服する事にした。
魔力もハイスケルトンアコライトだった頃よりも、数段上昇していた。アコライト(助祭)からビショップ(司祭)に位が上がったのは伊達ではないようだ。
そしてオーラの量も倍増している。魂の力も鍛えられるのか、それとも存在進化は魂も強くするのか、分からないがオーラの制御を習得したダリアスにとってこれは嬉しい変化だった。
『なにより、体重が増えたお陰で簡単に吹っ飛ばされなくなった! 踏ん張れる!』
もっとも、ダリアスにとって増加して一番嬉しかったのは体重だった。
「それはバックステップで逃げにくくなったという意味でもあるから、気を付けてね」
「今後は鉤爪を活かした戦いかたもレオーネに教わると良いと思う。魔力も上がったし、神聖魔法以外の魔法を習うのもいいかもね」
「その場合は、私達が教えてもいいよ。武術と違って習得できる保証は無いけど……ダリアス?」
思う存分実験できたことに満足しながら話していたプルニス・プルコットだったが、不意にダリアスの様子がおかしい事に気がついた。
まるで腹痛でも覚えているかのように腹を手で抑え、弱々しく肩を落としている。
「どうしたの? 何か異常でもあるの?」
『いや、そんな期待しないでくださいよ』
無表情ながらどこか声が弾んでいるプルコットに、ダリアスは苦笑いをして答えた。
『……なんだか力が出ないというか、怠いというか……』
痛みは無いが不快感……とも違う。切ない……と言うべきなのか? 自身の身に起きている感覚を言葉にする事にダリアスが苦戦していると、プルニスは何か察したようだった。
「ああ、何度も再生力を発揮させたから消耗しているとは思っていたけど、そろそろか」
プルニスがそう言っている間に、プルコットが地下室の壁に設置されているベルを鳴らす。すると、すぐにメイド姿のフレッシュゴーレムがワゴンを押して入って来た。
その途端、ダリアスは彼女が押すワゴンに乗ったピッチャーから目が離せなくなった。
「スレイヴヴァンパイアは、再生力を維持するのに少量だけど血を摂取する必要がある。他のスレイヴ用に保存してある魔物の血を用意しておいた」
「早速飲んで、感想を聞かせて欲しい」
フレッシュゴーレムが、小さなグラスに血を少量注ぐ。ダリアスは久しぶりに、喉を鳴らした。
〇現在のダリアスの弱点
・日光への恐怖心
・軽くなって踏ん張りが効かなくなった足腰(克服!)
・嗅覚と味覚の喪失(克服?)
・睡眠や飲食で精神を癒せない。
・浄化魔法でダメージを受ける。自分が唱えた場合でも同様
・回復魔法でダメージを受ける。自分が唱えた場合でも同様
・人を見殺しに出来ない
・吸血鬼に逆らえない
・油断すると思考が声に出てしまう
・未練が解消すると消滅(成仏)してしまう
・再生力を維持するために、血を飲まなければならない(NEW!)