Answer.07:またしても唐突がやって来た
「はぁ~……」
思わず、深い溜息が漏れた。
多分、誰もが今の僕と同じ状況だと、自然と出るだろう。
午前十一時を少し過ぎた現在。
普通は授業中であるから教室に居る訳なのだが、何故か僕はリムジンに乗っていた。
はは、唐突過ぎて訳が分からないだろう。
大丈夫、僕も訳が分からない。
とりあえず、気を落ち着かせる為に、僕が座る後部座席の中央部に設置されたドリンクバーのやつ(正式名称なんて知らない)のスイッチを押す。
先程、執事みたいな初老の運転手が、ご自由にお飲み下さいと言っていたので、問題無いだろう。
カチッというガラスの音と共に、ドリンクバーのやつの下部に大きめのグラスが自動でセットされ、緑色の液体が注がれる。
メロンソーダだ。アイスもあればフロートに出来たのだが、贅沢は言わないでおこう。
「あ、ちなみに、座席の下に冷蔵庫があります。中にはアイスもありますので、ご自由にお食べ下さい」
あった。
勝手に人の心を読むのは止めて頂きたい、と言いたいところだが、それはこの際、気にしないでおこう。
とにかく、運転手さんに心から感謝して一礼しつつ、その動作のついでに冷蔵庫を開ける。
そして中から、カップに入った丸いアイスを取り出して、冷蔵庫を閉めた。
卓球玉くらいのサイズであるそれを開けてグラスに落とし、ドリンクバーのやつに備え付けてあったストローとスプーンの山からそれぞれ一つずつ取り、グラス内へ。
最高の一品である。エクセレント!
……溜息をついておきながら、かなり寛いでるように見えるなぁ。
さて、リムジンが目的地に到着するまで、メロンソーダフロートを飲みながら、朝の光景を思い出そう。
丁度、バカップルが五月蝿かった時間だ。
とりあえず、一口。うん、甘い。
珍しく鹿嶋先輩が放送室に来なかった朝。
自席に着いた途端、変なのが近寄って来た。
朝の時間帯、僕に近寄って来る者といえば、他でもないバカップルだ。
バカップルは律儀に手を繋ぎながら(使い方を間違っている気がするけど許して)、満面の笑みを浮かべていた。
気持ち悪いの一言である。あ、片方に対して、ね。
「いっとっうっ! 明日からゴールデンウィークだが、予定はあるか?」
「遠回しに、ダブルデートってやつを誘ってる? ごめん、僕には相方居ないから無理。だから二人だけで、ふざけた粒子を散布させながら楽しんできて」
「待て待て、誰もそんな事言っとらんだろーが。調査だよ、調査! ゴールデンウィーク中、一気に確信へと迫れる何かを見つけるんだよっ!」
「調査? ……あぁ、調査ね」
いけない、ど忘れしていた。
女子生徒行方不明事件を調べる、だったね。
……一応、忠告はしとかなきゃいけないかな。
「その件に関してだけどね、あまり首を突っ込まない方が良いよ」
「なして?」
問うバカップルは、阿呆面を傾げた。
それを見て、思わず笑いが込み上げて来るが、我慢。
口の端が釣り上がるのは我慢できなかったが、問題無いだろう。
台詞に合う表情な気がするし。
「警察がお偉いさんから、その件に関わるなと圧力をかけられたらしいんだよ。つまり……その事件はもしかしたら、氷山の一角にしか過ぎないかもしれないって訳だね」
「氷山の一角……だと!? すげぇ、俄然やる気が出てきた……!」
「え? だ、大丈夫なの慎平君?」
「大丈夫さ! 二人の愛の前では、邪魔する者など皆ひれ伏すのだからな!」
また始まったよ惚気が。
幸せという言葉が良く似合う二人だねぇ。
いや、平和ボケかな?
ともあれ、この二人が関わろうが関わらなかろうが、僕個人で興味が沸いてしまっていた。
首を突っ込まないと決めたけど……あれだね、刑事の血が騒ぐんだねきっと。
とにかく、その女子高生について調べてみようかな。
まずは、女子生徒が所属していたというクラブからだ。
午前十時五十分。
授業の始まりを告げるチャイムの後に教室に入って来たのは、教師ではなく、黒いスーツ姿の初老だった。
ジェントルメ~ン! ……失礼。
ともあれ、その人は伊藤 秋葉という人物を探しており、その名の人物はどう考えても僕しか居ない為、素直に名乗り出た。
すると彼は、僅かに頬を綻ばせ、会釈の後に僕を手招きした。
これは、ついて行けば良いのだろうか。
誘拐にしては堂々とし過ぎなので、生憎僕の頭脳では用件を先読みする事は出来なかった。
これで本当に誘拐だったら、全米が笑うだろう。僕も笑うね。
などとくだらない事を考えながら、僕はその人の後について行く事にした。
そして、現在に至る。
回想をしている間、ずっとソーダフロートを見ていた為に、外の景色は全く見ていなかった。
だからだろうか、飲み干した後に外を見ると、景色が変わっている事に驚いた。
リムジンは既に、誰かの家の敷地内へと入っていたのだ。
全く気付かなかった……。
正面、運転席のフロントガラスを見ると、立派な洋館がでかでかと建っていた。
見た目は、ハザードを起こした洋館そっくり。
まぁ、そんな事は現実で起こるわけないから。気にしてないけどねっと思っていると、車はやっと停まった。
そして、運転手は先にリムジンを降りて、後部座席のドアを開けてくれた。
「お待たせ致しました。さ、お降り下さい」
運転手の優しい声に従い、すぐにリムジンから降りて、また後を追う。
玄関前まで来ると、扉の大きさに驚かされた。
別に僕の身長は小さく無いが、それでも見上げてしまうくらいだ。
すると運転手(すでにリムジンから離れているから、以後は執事で良いかな)は、その扉を軽々と開け、僕に中へと入るよう促す。
入った先は、エントランスホールのような作りになっており、中央には大きな階段があった。
中もハザードを起こした洋館そっくりだった。帰りたくなった。
「お嬢様! お友達をお連れしました!」
隣で急に、執事が大声を出した。
唐突だった為に少しビックリしたが、表情には出なかったから僕的にセーフ。
しかし、見た目の歳に似合わず、張りのある声だなぁ。
経歴が軍人か教師かという感じの、凄い人なのかもしれない。
ともあれ、彼が呼ぶお嬢様と思わしき人物が、丁度今、階段を下りてきてい
「た……って、鹿嶋先輩じゃあーりませんか!! 何その、如何にもお嬢様ですよ的な服装は!?」
ピンク色の可愛らしいモコモコで全身を覆い、頭には同じくピンク色のお休み帽子(ニット帽みたいなの。ってかニット帽)を被った、どう見てもつい今し方起きましたよという雰囲気を醸し出している鹿嶋先輩が、階段の踊り場で立ち止まった。
「え? この姿が、お嬢様に見えるのか?」
「御免。冗談」
どう見てもパジャマです。
本当にありが以下省略。