Answer.27:二騒動目を終えた喫茶店で、三騒動目は起こるのか。
目映い閃光が全員の視界を奪う。
瑞稀を睨んでいた護を含め、その場に居た全員が音のする方を見てしまい、目に直撃してしまったのだ。
それとほぼ同時、入口が勢いよく開く音が聞こえ、多数の足音が響く。
「全員! その場にふせ……ろ? ……どうなってるんだ、一体」
呆けた顔で店内を見渡す男、剛田 孝則は、視界に護を見つけて、表情を変える。
早歩きで彼に近寄り、瑞稀を押さえつけている腕を鷲掴みにした。
対し、視力が少しずつ回復した護は、舌打ちを漏らす。
「貴様か。邪魔しないでもらえるか? 今は私が――」
「条件を忘れたとは言わせないぞ。犯人はこちらで確保する、そういう約束だったよな? 思い出したなら、これ以上こいつに手を出すな」
数刻の睨み合い。
それが終わった時、護は無言でその手を放す。
開放されて膝を折った瑞稀は、すぐに孝則の手によって起き上がらされ、彼の部下に連れて行かれた。
その際、彼女の手首に手錠が掛けられた時、秋葉の眉が潜められる。
だが、それも一瞬の事だ。
「無能の警察が、珍しく早い到着だったな」
「あぁ、その事についてだがな。実はつい数十分前、署に通報がメールで着たんだ。一連の犯人を見つけたってな。証拠として添付されていたデータには、松下 瑞稀の犯行画像や動画、そしてここの店員を人質にとっている画像まであったからな。大急ぎで向かって来たんだ」
「証拠、だと? つまり、その送り主は裏切り者か。……或いは、黒幕か」
ふと、そう言った瞬間に、護は何かに気付いた。
その瞬間、あたりを忙しなく見回し、何かを探す。
「どうした、榊」
「この店に、裏切り者か黒幕が居た事になる。例えば、そうだ。そこの一般人共」
彼が指差す先は、事件に巻き込まれた一般人達。
皆は護に指差された事に怯え、一瞬身を震わせた。
その反応に護は、微笑を作って指を下ろす。
そんな筈は無いか、と呟きながら。
「……で、犯人は捕まったのだ。約束通り、部下を釈放してくれるのだろうな?」
「約束通り、犯人を受け渡そうとしなかった奴が何を言う。――あぁ、わかったわかった、そう睨むなって。署に戻ったら、釈放の手続きをしておく」
「それでこそ孝則だ。感謝するよ」
さてと、と呟き、護は振り返る。
視線を向けようとした先は秋葉だが、視界に映ったのは男の中背だった。
その男は方で息をしており、その向こう側に居る秋葉は、尻餅をついて頬に手を添えていた。
どうやら秋葉は、男に殴られでもしたようだ。
警察の男、伊藤 健一に。
現状は、両者が目を合わせるという、硬直を見せていた。
それから数刻経ち、不意に健一は踵を返す。
その時、一瞬だけ護と目を合わせると、軽く会釈して去って行った。
後に残る秋葉は、父親の背中を見続けている。
護は、そんな彼に歩み寄り、手を差し出した。
「立て。私が誰かに手を差し出す事は滅多にないのだから、早くしろ」
「うぇ? ……あぁ、うん」
曖昧な返事をして手を取った瞬間、秋葉の身体は跳ねるようにして持ち上がった。
あまりの勢いに、彼はキョトンとした目で護を見据える。
だが、そんな事などお構い無しに、護は話を始めた。
「今回の件は、貴様の助けがあったからこそ、早期に解決出来たも同然だ。故に、礼を言っておこう。ありがとうと」
「さ、榊が礼を言っただと……」
「失礼な。私は組織の頭首だぞ? 礼を言えなくてどうする」
驚愕した孝則に対し、苦笑混じりに文句を言う護は、秋葉に片手を上げ、踵を返した。
また会おう先輩、という言葉を残して。
「今日の榊、なんか変だな。熱あるのか?」
心から心配そうな表情を見せる孝則を無視し、出入口で部下に何かを聞いている凪に近寄る。
「どうした? 何を探している」
「いや、なんや。閃光手榴弾が爆発する前くらいまで、一般人の中にパソコン持った少年がおったんやけど、急に居なくなったんや。んで、わいの見間違いかどうか、聞いて回ってたんや」
「パソコンを、持った?」
彼は一つの情報を口内で咀嚼し、考える。
果たして、そこから導き出されたのは、一つの可能性。
……裏切り者、もしくは黒幕か!
彼は思う、確かに一般人の中に居たと。
しかし、彼が気付いた時には、既に居なかったのだ。パソコンを持った少年は。
不意に、ふふっと笑い声を漏らす。
「総員、撤収だ! 今回は、私達の勝ちとし、幕を下ろすとしよう」
言葉と共に、おう! と声が響く。
そうして彼らは、喫茶店を後にした。