Answer.19:ゴールデンウィーク・初日にて。
ゴールデンウィーク初日、午後十一時。
僕は、休日を満喫していた。
「先輩すごいです! まさかハイスコアを出すだなんて!」
「昔から、レースゲームは得意だからね。でも君の、音ゲーだっけ? その手捌きは結構凄かったよ」
「え~、あれは他の人に比べたら、まだまだ下の方ですよぉ」
ハードモードでコンプリートしてるのが下の方ですか。
世の中、じゃなくて音ゲーって奥が深いんだなぁ。
と、そんな事を思って納得している僕は、若者の街の一角にあるゲームセンターに来ていた。
色々なゲームの音が入り混じってオリジナルの曲(というか雑音)が流れるここは、若者ばかりで混んでいる。
さすが休日と言ったところか。
ちなみに、僕の隣りに居るのは、何故か満面の笑みの後輩、那珂川 美咲だ。
僕と一緒に居て楽しいという事なのだろうか?
まぁ、そんな事はさておいて、美咲が両手をクレーンゲームのガラスにべったり押し付けている姿を苦笑で見据える。
彼女が見つめているのは、山積みになった猫の小さいぬいぐるみのキーホルダーだ。
他の景品に比べると、比較的簡単に取りやすいタイプ。
もしかして、欲しいのだろうか?
「なんなら、取ってあげようか?」
「うぇ!? ほ、本当ですか! で、でしたら百円、百円渡します百円、ほら百円!」
「落ち着いて落ち着いて。それにこれは一プレイ二百円だよ」
「あ、あれあれ? すみません、ではもうひゃ――」
「はい、僕の奢りね」
言いながらポケットから百円を取り出し、美咲から貰った百円と一緒にクレーンゲームへと投入する。
申し訳ないです、などの言葉を言っている彼女を尻目に、音楽を鳴らして起動したそれの操作を行う。
そして、クレーンが景品を掬い上げ、転がり落とした結果、取れた景品は三つだった。
まぁ、こんなとこだろうか。
落ちた景品を手に取り、歓声を上げている美咲に手渡す。
「ありがとうございます、先輩!」
「あ、うん。どういたしまして」
そんな、ストレートに感謝されると、頬がこそばゆくなる。
けれど、頬を掻いている間に、美咲は次のゲームへと向かった。
本当、元気なもんだ。
そう内心で感想を述べつつ、彼女の後を追って駆け足になる。
……そういえば、こうやって誰かと一緒に遊んだのはいつ以来だっけ?
確か、去年の夏休みに鹿嶋先輩が「社会見学だ、ついてこい」と言って都会に出て遊んで以来、か。
思えば、それ以来まともに誰かと遊んだ事が無かったなぁ。部室にこもってたし。
別に友達が居ないって訳じゃないけど、誰かと遊ぶという事が新鮮に思えていた。
だからだろうか、今はすごく、楽しい。
あれからあっという間に二時間が経ち、今は午後一時。
腹の調子は良い感じに昼時となっており、美咲と話し合って昼食はファーストフードを取る事になった。
地域によって通り名が変わるという性質を持つ、世界規模のファーストフード店に足を踏み入れると、中は幅広い年齢層の客でいっぱいいっぱいだった。
特に子供連れの家族が多い、というか五月蝿い。
これが五日間も続くのだと思うと、素直に店員を哀れんでしまう。
そんな事を考えながら列に並び、待つ事数十分。
やっと注文した商品を受け取り、階段を使って二階へと上がった。
どこか空いていないかなと思いつ「お? 誰かと思えば伊藤じゃねぇか」
変なのが居た。
認めたくは無いけど、僕を呼んだ人物を目で捉え、そいつがバカップルである事を改めて知る。
嫌な所で出会っちゃったものである。
「瑞稀、あいつらを向かいに座らせても良いか? ――ありがとな。おーい、伊藤! こっち来て座れよー」
大声出さなくっても聞こえるって。
と、その前に美咲の方を見ると、丁度目が合って微笑を見せた。
別に良いですよ、と言っているのだろうか。
だったら、その好意に甘えるしかないよね。
なんて考えを纏めて、バカップルの向かいに座った。
近くで顔を合わせた時の第一声は、よっ! と大声。五月蝿い。
「まっさか、こんなとこで会う事になるとはな! もしかして、調査の手伝いでもしに来たのか?」
なんでこいつは、いつもポジティブな事しか言わな――あれ?
「え? 調査って、何の?」
「おいおい惚けんなよぉ。あれだよ女子生徒行方不明事件だよぅ」
あぁ、あれか。
……まだやってたのか、バカップルは。
「君も懲りない男だね……で、その調査とやらで何か掴めたの?」
「……実はな、耳寄り情報を手に入れたんだよ」
そう言って、バカップルは人差し指を立ててニヤリと微笑する。気持ち悪い。
同時に、何かとんでもない情報を手に入れてしまったんじゃないかと、不安に思う。
別にバカップルを心配しているんじゃない。
これを聞いた僕と美咲にも、悪影響があるのでは無いかと心配しているのだ。決してツンデレじゃない。
そんな心配を他所に、バカップルは話を始める。
「今日の朝、多数のニュースで麻薬中毒者がどうのこうのって言ってたろ?」
思い出せば、そんな事を言っていた気がする。
今朝、何の前触れも無く救急車が都内を走り回り出し、多くの患者を病院に運んだのだという。
そしてそのほとんどが、未成年の麻薬中毒者だったそうだ。
「その事件にな、榊組っていうヤクザが関わってるらしいんだ」
思わず、え? という言葉が口から漏れた。
榊組が関わっているから、という訳じゃない。
なんで、裏のトップとされる組の情報を、ただの一般人でしかないバカップルが知っているのだ、という事に驚いた。
「何が、どう関わってるって情報なの? それは」
「ん、いやなんだ。……ここだけの話だから小声になるがな? なんでも、前々から榊組の部下達がその麻薬事件に巻き込まれて、誤認逮捕やらされてたらしいんだがな。ここ最近で、暴行などの被害も出てるらしい」
それがな、
「それが、榊組に対する挑戦者による行為じゃないか、と言われてるらしいんだ。そして、その挑戦者ってのが、羊飼いって名乗ってるそうだ」
どこで、そんな情報を手に入れたのだろうか。
いや、今はもうそんな事を言っている場合じゃない。
どう考えても、それはトップシークレット。
そんな情報を、いくら小声であろうとも公共のファーストフード店で話している時点で、かなり危険だというのに。
僕は興味津々に、その話を聞いていた。
「んで、今朝。とうとう大掛かりな襲撃があったそうだ。だけど、相手が相手なだけに、戦争にもなりゃしない。まるでゲリラだよ、相手は」
「……そんな機密そうな話を、こんな所でしても大丈夫なの?」
問いに、バカップルは鼻で笑う。
「大丈夫さ。まさか、ファーストフード店の、しかも俺達の近くに、ヤクザ関係者が都合良く居るわけないだろっ?」
自信満々に、親指を突き立てて言うバカップルを見たら、信じざるを得なかった。
もっとも、僕だって聞かれているなんて思っていない。思いたくない。
ただ、少しだけ、不安だった。
そんな不安を胸に抱きつつ、食事を続ける事にした。
この後はバカップルの馬鹿話で盛り上がり、いつしか不安は吹き飛んでいた。
結局、店を出たのは一時間後となってしまった。
とりあえず、僕はバカップルと別れて、美咲と次の目的地へと歩き出した。
次は、親戚の喫茶店にでも行こうかな。