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超短編小説『千夜千字物語』

『千夜千字物語』特別編~生きるもの

作者: 天海樹

「虐待、イジメ、そして戦争…はぁ、やりきれない」

その声で目が覚めたシンゴは辺りを見回した。

しかし、誰もいない。

「どうして意味もなく傷つけたり、

 殺したりするんだろう」

確かに声は聞こえるが、姿が見えない。

目の前で座ってテレビを見ている猫のペケ以外は。

「これでも人間って

 他の生きものよりも特別だと思うかい、シンゴ」

そう言ってペケが振り返ると初めて声の主に気がついた。

「どう思う?」

シンゴは今起きていることを考えるよりも、

急かされている質問の答えを探していた。

「人間だけが特別に理性ってものを持っているから…」

それを聞いてペケは大きく笑った。

「その理性とやらがあるからこんなことをするんじゃないか?」

魔女裁判やホロコースト、数々の戦争が

テレビ画面にダイジェストのように映し出された。


「君ら人間が下等動物と言っている僕らのほうがまともじゃないか?

 僕らは決して差別なんかしないし、それによって殺し合いもしない。

 生きものはいつだって平等であるべきなんだ。

 それなのに不平等だけが平等に与えられている

 君らの世界っておかしくないかい?」

寝起きのシンゴには話についていくのがやっとだった。

「生きること、子孫を残すこと、

 それが生きものがこの世に生まれてきた意味であるなら、

 どうしてその他の理由で他を排除することなんできよう。

 僕らには全く理解できないよ」


「シンゴに見せたいものがあるんだ」

そう言うと、辺りが真っ暗になった。

しばらくすると、目の前には写真や映像で見たことのある

青々しく光り輝く地球があった。

「ここから見る地球はどうだい?」

「キレイだね」

「この星であらゆる生き物が生きている。

 こうして遥か遠くから見ると、

 何が違うかなんてわからないし、あまり問題じゃない。

 そもそも、みんな同じ遺伝子、細胞、メカニズムを持っている。

 生命体としてはなんの違いもないんだ。

 そんなことは君たちの方こそ知っていると思うんだけどね

 だと言うのに、君たちは何かと差別をして

 無暗に傷つけたり、殺したり…嘆かわしいね」


まどろみの中、ようやく目が覚めた。

テレビを見ていていつの間にか眠ってしまったらしく、

寝る前と同じソファに横になっていた。

傍らにはペケが丸くなって寝ていた。

「まったく、猫がしゃべるわけないんだよな。

 夏目漱石じゃあるまいし。

 な、ペケ」

そう言って水を飲みにキッチンに行きかけた時、

「なにか言ったかい、シンゴ」

夢の中で聞いた声が聞こえた。

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