♡第七話:陽キャたちと班を組まされることになった校外学習が波乱の展開過ぎる(二)♤
――――焦げたご飯は割とおいしい。おそらく、先生も同じ感想を持っただろうし、今回の校外学習の感想文は、それについて書こうと思う。
もちろん体にはよくないんだろうが、なんというかこう、癖になりそうな味だった。
昼食が終わり、しばしの自由時間が始まると、俺は特にやることもなく読書でもして時間をつぶすことにした。本当なら湖の周りを探索してみたかったが、行動範囲が制限されてしまっている以上致し方ない。
とはいえ、なんだかんだ言っていい校外学習になった。なんといっても、おかげで授業が一日つぶれるというのが大きい。
しかしこのまま何事もなく、という風にはいかなかった。俺のもとに不吉な誘いが届いたのである。
「――――はあ、バスケット・・・」
「そう、あっちにコートがあってさ、せっかくだから五班のみんなでやらないか?榮倉も昔やってたんだろ?」
「まあ、一応・・・・って言っても、現役の高松を相手にできるとは思えんが・・・」
「ああ、だからバランスよくなるようにチームを組んだ。どうだ?やるだろ?」
(バランスが良くなるように・・・ねえ・・・)
本音で言うと、運動っていう気分でもなかったが、ここで断って後で面倒なことになるのも嫌だしな・・・俺はとりあえず参加するだけ参加してみることにした。
(・・・・で、チーム分けっていうのが、これか・・・・)
[俺、島田、天海]のチームと、[高松、咲菜、皆川]のチームという分け方になっているようだが。
たしかに、こっちに島田がいるのはありがたいが、バスケ部の皆川もあっちチームかよ。
「よろしく、ミスター・・・じゃなかった、右代。なんか緊張するね」
「ああ、だな・・・」
遊びと言えど、俺以外人気者の揃った班ということがあってか、周りには十人ほどギャラリーも集まっていた。コートに入るとその視線を強く感じる。
(なんだあいつ、みたいに思われてるんだろうな・・・・)
「―――榮倉君、作戦みたいなのはどうしようか?一応経験者に任せたいんだけど・・・」
「あ、ああ。そうだな、とりあえず天海は咲菜、俺が皆川さん、島田には高松のマークを任せる」
と、聞かれたからには、一応それらしく戦略を立ててみる。
「え?俺が高松の相手なんだ?」
「当たり前だろ?俺たちはか弱いボランティア部員だからな」
「・・・」
「―――よーし、始めるぞ~!」
まもなく開始が合図され、ジャンプボールで勝った高松チームのボールで試合が始まった。
(審判までいるのかよ・・・ずいぶん手が込んでるな)
「・・・隙あり!」
「・・・ん?」
俺が呆けていると、すぐ横を素早く皆川がドリブルで抜き去る。するとそのまま流れるようなパスワークから、高松が華麗なレイアップシュートを決めて見せた。
「ナイス~!二人とも~!」
後ろから見守るようにして立っていた咲菜も、嬉しそうに称賛の声を上げる。ゴール前に突っ立ってるが、あいつはキーパーかなにかと勘違いしてるのだろうか?
「右代~しっかりな~」
俺の心の声が聞こえたのか、咲菜はそのあとしっかりと俺を馬鹿にすることも忘れなかった。
(しっかりって言われてもな・・・)
その後二回ほど俺たちボールでの攻撃があったが、バスケ部二人の壁が厚く、咲菜にたどり着くことなく返り討ちにされてしまう。
「参ったな・・・たまに剛太の試合は見てたけど、実際にやるとこんなに難しいのか」
完璧イケメンの島田も、これにはさすがにお手上げといった感じだ。
「右代、本当に経験者なの?さっきから簡単に抜かれてるけど」
「失礼な、ちゃんと小学校のころやってたわ」
「・・・ふうん、じゃあ単純に下手なのかな」
「・・・いや厳しくね?」
事実とはいえ、みやにはもう少し言葉を選んでほしいものだ。
「島田・・・?なにしてんだ?早くボールを出してくれ」
エンドライン上でボールを持っている島田が、なかなか始めようとしないため、俺はそう声をかけた。
「ああ、ごめん。いま渡すよ」
「・・・そういえば、さっき剛太が言ってたんだけど、あいつこの試合に勝ったら甘沢さんに告白するらしい」
ボールを俺に預け、向こう側へと向かっていくとき、島田は俺の近くでそう呟いた。
「――はあ?おいちょっと・・・」
一方的に訳の分からないことを言っておいて、島田は俺の追及は完全に無視である。
―――あんなこと俺に伝えて、いったいどういうつもりなのか。俺を奮い立たせて意地でもゲームに勝ちたいのだろうか?
別に俺は咲菜が誰と付き合おうが、彼女がそうしたいならそれでいいと思ってるんだが。
「・・・・・」
まあしかし、よく考えると目の前でリア充が爆誕するかもしれないというのに、黙って見ているというのもしゃくである。
そして、高松はおそらくさっきまでで勝利を確信しているはず・・・いいだろう。こうなれば全力で抵抗して、できる限りその余裕の笑みを苦痛の表情に変えてやるとしよう。
(今晩の飯はうまいだろうな・・・・)
「・・・・ほら、よそ見してるとさっきみたいにとっちゃうよ!」
最初のときと同じように、素早く伸ばされた皆川さんの手を軽くいなし、俺はそのまま前に進んだ。
「・・・⁉うわっ!ごめん、抜かれちゃった」
(よし、まずは油断してた皆川さんをかわすことに成功したな)
こうなれば二対二。高松は島田のマークから離れられないだろうから、実質俺と咲菜の一対一!
(ははは!残念だったな‼まずはこれで二点返すぞ)
「ってあれ・・・?」
シュートをしようとした俺の手から、ボールがこぼれる。
「「ナイス!咲菜!」」
一斉に相手チームの歓声が上がる。まさか、俺が咲菜に・・・?
「ふっふっふ~!驚いたか!私だって昔、右代の試合たくさん見て勉強してたんだもんね~~」
咲菜は自慢げに、ボールを拾い上げてそう言った。
これって・・・なんか、逆に雰囲気良くしちゃってないか?
(・・・まあいい、俺たちボールでのスタートだし、次こそ地獄を見せてやるさ)
俺は島田とみやを呼ぶと、新しい作戦を告げる。
―――まずは第一段階として、俺が得点する。というかしなくてはならないのだが・・・当然、俺のマークに来た皆川さんは、多少は俺のことを警戒しているだろう。
とはいえ、まだそれは素人相手の警戒であって、俺にもつけ入る隙はあるだろう。
「あ、え⁇うそ⁉」
俺はフェイントを入れてマークを外すと、次の瞬間、俺の手を離れたボールはゴールリングに何度か反射しながらも、吸い込まれていった。
(あっぶな・・・)
「ナイッシュー、榮倉君」
「あ、おう・・・あざすあざす・・・」
差し出された右手に、俺はぎこちなくハイタッチで答えた。
すると、思いがけない反撃に多少動揺したのか、高松チームのミスからボールがこっちに渡る。そして、ここからが作戦の第二段階なわけだが・・・
「・・・島田についてなくていいのか?」
「ああ、今日お前に活躍してもらうわけにはいかないんでな」
俺が島田からボールを受けると、今度は高松が俺のマークに付いた。皆川さんを見ると、少し不服そうにしている。どうやらマークを交代したらしい。
とはいえ、どちらにせよ三回もドリブルで抜けるとは思ってない。
「みや、いまだ!」
俺は合図で走り出したみやに、ドンピシャのボールをパスした。
「・・・わあ、本当に届いた」
ボールを持って驚いた表情のみや。正直バスケット初心者には、ゴール下であっても決めるのは簡単ではないが、もうすべてはみやにかかっている。
「たあ!」
やや気の抜けた掛け声ではあったが、みやは見事にネットを揺らした。これで二点差。みやが決めたということもあって、周りからも今日一番の歓声が起こった。
「・・・・・・」
しかしこの一見こざかしいともとれる得点が、現役のバスケ部の闘争心に火をつけてしまったらしい。咲菜のリスタートを受けた皆川さんが島田、みやの順でするすると抜き去ると、ゴール手前の高松に完璧なパスを送った。
「へへ、ナイスパス!」
そう呟くと、高松はドリブルで俺の方に前進してくる。
(こうなりゃ俺が止めるしか・・・・っておい!)
「―――うそだろ?」
ゴール前で飛び跳ねた高松は、そのまま飛び続け、最後はボールをゴールに叩き込んだ。
「「「「―――うおおおおおお‼」」」」
こうして、「今日一番」はあっという間に更新されたわけだ。
*・・・・・・・・・・・・・・・・*
「すげーな、高校生なのにダンクかよ⁉」
「バケモンか?お前‼」
試合が終わると、周りの人たちがわらわらと集まってくる。それに乗じて、私は気づかれないようにコートの外に出た。というのも、少し話したい人物がいたからだ。
「ねえ、ちょっといいかな」
「ん?ああ、甘沢さん。ナイスゲームだったね!」
島田翔貴は、いつものように優しい笑顔で答えた。
「そうだね、いい思い出になりそうだよ~」
「それは良かった!
・・・で、話ってなにかな?」
「うん・・・島田君、右代になに言ったのかなって思って」
「なんの話かな?」
いきなり核心を突いた質問にもかかわらず、島田翔貴は表情を変えることなくそう問い返した。
「そんなこと言って~・・・わかってるよね?試合中、右代態度が急に変わったじゃん?あれ、島田君がなにか言ったんでしょ?」
「ばれちゃったか・・・きみの話をしたんだ、内容は・・・ちょっと言えないんだけどね」
「まあこの際それはどうでもいいんだけどさ・・・あんまり右代に変なちょっかいかけないでって言いたいだけだから」
「・・・右代には、いろいろつらいことがあったから。わかってくれるよね?」
「・・・・・いつまでも、ああやってぼけーっと過ごすのが、彼にとってプラスになるとは思えないけどな」
「・・・・やっぱり、島田君はなにもわかってないよ」
「?」
「とにかく、これは警告だから。なにが目的かわからないけど、右代はいまのままでいいの。変なことしないで」
こうして、私たちの校外学習は終わりを告げた。
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