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♤第六話:陽キャたちと班を組まされることになった校外学習が波乱の展開過ぎる(一)♡





 「よし、じゃあ始めましょうか」


 昼休みだというのに、教壇に人が立っているのを見るのは、やはり不快なものである。学級委員の二人は、黒板にいくつか文章を記入すると、俺たちに校外学習の班を決めるように指示を出した。


 ・・・まったく、授業時間中に終わらなかったからといって、休み時間を使うというのはいかがなものか、と物申したい。

 

 大体、俺は結局、余った人と組むことになるんだし、ここで議論に参加する必要はないのだ。これさえなければいつものように、部室で優雅な時間を過ごせていたというのに・・・。


 そう、しぶしぶ心の中で考えながら、俺は男子たちが集まっている廊下側に移動した。誰のものかわからないが椅子を引っ張り出して座り、周りがワイワイと盛り上がっているのをぼーっと眺める。



 (山梨の湖畔でカレーライスづくり・・・か。そうなると料理が得意な奴とかと組めればラッキーだな。あとは、うるさくないやつだとありがたい)


 クラス替えがあって新顔も多いため、どのような組み合わせになるのかは全く想像がつかない。俺は自分が班に欲しいタイプを、頭の中で列挙し始めた。


 (あ、でもよく考えれば誰がどんなやつなのかすら、わからんな・・・)

 

 そんなことを考えていると、おそらく何度か声をかけられていたのだろう、少しいらだったような声で俺の名前が呼ばれた。

 決して無視をしていたわけではなく、先ほども言ったように、こういう話し合いに俺がかかわることなどほとんどないため、自分が呼ばれるなど思ってもいなかったのである。


 「―――あ、すまん。ぼーっとしてた。なにか用か?」


 (バスケ部の・・・・高松・・・だったっけ?それと、サッカー部の島田・・・いずれもクラスでも人気の高い人物だ)

 「はあ?・・・まあ、いいけどよ。俺らと班組まないかって言ったんだ」



 「・・・⁉」


 意外過ぎる高松の一言に、俺はまさに、鳩が豆鉄砲を食ったような感じだった。


 「一緒にいる男子の中でちょっと余っちゃってさ、良かったら一緒に組もうよ」

 俺が黙っていると、島田もフォローに入る。


 (余るって感じのやつらじゃないけどな・・・てか、もし仮に余ったとして、俺のとこまでくるとは思えんが)


 「別に断ってもいいんだけど、他の男子はもうほとんど決まっちゃってるっぽいから、たぶん俺たち三人が余ると思うんだ」


 半ば強制とも取れるような発言だ。そこまでして俺と組みたいのか?いったいなんのメリットがあるのか、気になるところではある。





 「・・・まあ、別にグループを組むくらい構わんが・・・どうせ最後に余ったやつと組もうと思ってたからな」

 「助かるよ」


 そう言うと、島田は女子側に「こっちも終わったよ」と声をかけた。

 すると男子が決まるのを待ってたらしい彼女らは、一斉にこちら側にあるグループの吟味を始めた。

 その中で、元気よくこちらに飛び込んでいたのは、咲菜。俺の名前を呼んで、班を組もうと提案してくる。




 「あ、そういうことか・・・」

 「え?なにが?」

 「いや、なんでもない。こっちの話だ」

 俺は黒板に記された咲菜グループのメンバーを確認した。


 甘沢咲菜、天海みや、皆川優希・・・いずれもクラス内で非常に評判のいい女子たちだ。

 そのなかでも、咲菜が俺とよくつるんでるのは周知の事実だし、天海も最近俺と同じ部活に入ったわけで、こいつらが俺のいる男子グループを選ぶ確率はまあまあ高かったはず。


 (つまり俺は餌にされたってことか・・・)


 この野郎、優しそうな面して・・・とんだ策士じゃねえか。


 

 なんにせよ、嫌な予感しかしなかったが、ここまで来たしまった以上、もはや俺にどう止めろというのか。



 結局、そのまま話が進み、校外学習の二年三組五班は、俺、高松、島田、咲菜、天海、皆川の六人に決まった。




 (はあ・・当日台風でも来ないかな・・・・)




 *・・・・・・*




 【一週間後:校外学習当日】


 「んんっ~」


 大空の下、俺は大きく伸びをした。きれいな空気、一面の自然と幸か不幸か、空は一面青く染まっている。

 ―――これで一人旅なら完璧なんだが・・・。


 「ミスター・ストレート?班長が呼んでるよ」


 (・・・)


 さっそくか・・・もう少しゆっくりさせてほしかった。


 「ああ、今行くよ・・・てかその名前やめてくれないか?」

 「嫌だった?私は結構気に入ってたんだけど」


 「インスタの件でミスター・スラントが使えなくなったからって、いくらなんでも適当すぎるだろ・・・」


 (なんか野球選手みたいになってるし・・・)



 天海は残念そうな表情を浮かべると、「じゃあなんて呼べばいい?」と俺に問う。

 「そこは、榮倉でも、右代でも好きにしてくれ」



 「―――じゃあ、右代にしようかな。右代も、私のことみやって呼んでくれていいよ」



 「・・・それはちょっと」



 俺は少し考えてから答える。クラスでも彼女を名前呼びしてるのは数人の女子だけで、そんな中、男子の、まして俺なんかが下の名前で呼んだらどうなるかわからない。


 「ああ、そう。じゃあこの話はなしで、ミスター・ストレート」

 「分かった、分かったから。」


 彼女を名前呼びするより、そのあだ名で呼ばれる方が変人感増す気がする。

 「じゃあさっきのところからやり直しだね?」


 彼女はそう言って、先ほど来た道を戻っていく。



 

 「おはよう右代。今日もいい天気だね」



 (―――いやそっからやり直すのかよ)

 俺はすぐに彼女のやらんとすることをくみ取った。先ほどの、天海とミスター・ストレートのやり取りをやり直そうというのだろう。


 「なにもそこからやらなくても・・・」


 「おはよう右代。今日もいい天気だね」

 みやは、まるでロボットのように表情も語気さえを変えず、本日三度目もセリフを繰り返した。


 なんとしてもやり通す気のようである。




 「うっす・・・み・・みや」


 「・・・・まあ、合格でいいか」

 少しためらいつつ、つまりながらになったが、なんとかみやを納得させることができたようで、彼女はいつも通りのクールさで俺に合格を出した。



 「ところで、右代は料理できるの?」

 「・・・・俺は料理に関しては全然だめ、かな・・」


 料理場へと移動する際、話題はこれから始まるカレー作りの話に移った。


 高校生でカレーかよ、と思うかもしれないが、まあその辺は屋外でできてかつ単純な料理と言えば、カレーが筆頭だろうというのが、学校側の主張なんだろうか?俺としては、山梨まで来たんだから、ほうとうとか作りたいと思ったが。


 「ふうん、そういえば、そういうのなにも考えずに班決めしちゃったよね」

 「まあ、カレーぐらいなんとかなる・・・よな・・?」

 一抹の不安がよぎり、俺たちの足取りは心なしか速くなり、ほどなくして調理場へと到着した。



 (にぎわってんな・・・)

 一学年六クラスが集まればこんな感じにもなるか・・・。下手すれば迷子にもなりかねない。自分の班のテーブルと、調理スペースの場所は最低限記憶しておくべきだろう。



 「もう~、どこ行ってたの?右代、心配したじゃん!」


 そのテーブルに着くや否や、俺は咲菜から軽いお叱りを受けた。

 島田は「まあまあ」とそれをなだめ、話を調理担当決めに持っていった。


 「ごめん、俺もクラス替えしてすぐだから、みんなのことよくわかってないんだけど、この中で料理が得意な人がいたら教えてほしいんだけど・・・」


 俺と天海はもちろん、イメージ通りと言ったら失礼かもしれないが、高松と皆川も料理が得意とは言えないらしく、島田の問いに答えることはなかった。


 その中で、唯一咲菜だけはシャキッと手を挙げた。


 「はーい!私、家でたまに料理しまーす!」


 「・・・よかった、一人でも多く料理経験者は欲しいからね」

 島田は心底安堵したようにそう言った。こいつが実は一番心配していたのかもしれないな。


 「じゃあ、調理担当なんだけど・・・・材料の下準備に、俺、優希、天海さん。実際に調理するのが、甘沢さんと剛太。榮倉君は、炊飯の担当をお願いできるかな?」


 (おいなんで俺だけ一人なんだよ・・・)


 「ん?どうした?」

 俺の恨めしそうな心の声が聞こえたのか、島田はまるで何度話しかけてもセリフが変わらないゲームキャラのようにそう答えた。


 「いや、別に」

 まあ、考えようによっては悪くない分け方だったかもしれない。皆川さんや高松と二人きりになる地獄はひとまず、避けることができたのだからな。


 俺は焦げ付いた飯盒を持ち出すと、五班に割り当てられた炊事場へと向かった。既にほとんどの班が炊飯を始めているようで、俺は多少急いで準備を進めた。



 (これでよし・・・)

 起こした火の上に、中身を入れて重くなった飯盒を吊るす。あとはぐつぐつとちょうどよく炊けるのを待つだけだ。


 ずっとしゃがんだままというのも体が痛くなるので、俺はちょうどよく後ろにあった岩にもたれかかった。周りは、話し声や笑い声で騒がしいが、よく耳を澄ませると、水の音や鳥のさえずりも聞こえてくる。


 (いいところだな・・・またいつか来よ)


 「・・・よそ見してると、焦げるぞ・・・・?」

 あまりに放心して見えていたのか、ちょうど俺の隣の場所で同じように飯盒を火にかけていた女性が俺にそう警告した。


 「あ・・ああ、どうも」

 「気にするな、教師として当然の務めだ」

 

 「「・・・・・・・」」


 (あーあ・・・ナチュラルに避けてたんだけどな~~~)

 しかしこうなればもう、なにも話さないというのは、それはそれで空気悪くなるよな~~~。


 「せ、先生はどうして?」

 「これは教員用だ・・・なにか面倒なことがあれば若手、とりわけ女に任せるというのは、日本社会の腐った一面だ。そう思わないか?榮倉・・・」


 岩切先生は、いつも以上に尖った口調でそう言い放った。



 「いや、たしかに・・・そ、それな~~~」

 (なにしてる俺・・・動揺してJK口調になってんじゃねえか⁉相手はもう二十七だぞ)



 「私は二十六だ榮倉・・・」

 「さ、さいですか・・・・」

 (なんでわかるのまじで怖いんだけどぉぉぉ)


 「榮倉、お前はあんな老害には成長するんじゃないぞ」

 「―――は、はあ・・・そのつもりです」


 (教師の闇・・・怖し‼)


 やっぱ人間関係とか、極力作らない方がいいんじゃねえの⁇怖いんだけど俺、こんな風に思われるの怖いんだけど⁉


 「「・・・・・・・」」


 ・・・まずーーーいっ‼いつのまにかこの辺に校外学習とは思えない空気が漂い始めている・・・・この空気はやばい・・・少なくともこの大自然には似合わなーい!




 (・・・それにしても)

 よほど完璧主義なのか、話している間も先生はずっと動かず、熱せられ続ける飯盒を見ている。ていうか、こんな日くらいスーツじゃなくてもいいのに・・・この人私服持ってないのか?相当熱いだろ・・・。


 「―――体制きつくないですか?」



 「それなりにきつい」

 「だったら・・・・」


 「・・・だが、料理とは忍耐とよく言うだろ?焦がして「あーあ女のくせに、料理もできないのか」なんて目で見られた日には、私はなにをするかわからない」


 (あ゛ーーー!先生、料理できない系女子か~~~~~)

 たしかにそれはむかつくわ・・・でもさすがにそこまでじっと見る必要ないと思うんだけどな。自炊とか絶対してないな、この人。

 



 「・・・し、しりとりでも?」

 「そうだな・・・久しぶりにやるか」

 

 「「・・・・・・」」

 (―――俺からかっ・・・)

 

 「そうですね・・・じゃあ、<やま>でどうでしょう?正直、こんなにきれいに見れるとは思いませんでした」

 「たしかにな、天候に恵まれた。<やま>・・・<まどぎわ>」

 

 「・・・・?<わいんぐらす>」

 「すー、すー・・・ああ、<すみっこ>・・・・・なんてのはどうだ?」

 

 (・・・・・)

 「でしたら俺は<こーひー>で、<ひ>でも、<こ>でもいいですよ?」

 「だったら、<ひ>で、<ひとり>だな・・ははは、楽しいな、これ」

 

 (この人、絶対俺で遊んでストレス解消してるだろ・・・)

 

 「―――あれ、続きはどうした?」

 「ああ、なんか、むなしくなるからやめましょう」

 

 

 「残念だ・・・」

 彼女はそう言って小さくうつむいた。

 

 (――え?無意識・・・?)


 だとしたら本当に気の毒になってきた。きっと両親からも早くいい人紹介しなさいとか、言われてるんだろうな・・・。

 ・・・そう考えると、ストレス社会を体現したような人だな、本当に。

 

 そんな感じで時間が経つと、岩切教諭は急に立ち上がってこちらに困った表情を向けた。どうやら、飯盒が「ぐつぐつ」と良い感じの音をたて始めたらしい。白い泡があふれ出し、もうそろそろ炊き上がることを暗示している。

 

 「お、おい・・・どうすればいいんだ?これ・・・」

 「・・・気になるなら、トングを使って中の状態を見てみたらいかがでしょう?」


 「え、と、トング、トング・・・」

 (―――まったく、あんたは教える側でしょうが・・・)

 

 「俺、やりますよ・・・」

 俺は先生からトングを受け取ると、器用に蓋をずらし、中の状態を確認した。


 「すまんな・・・やっぱり持つべきは、榮倉のようなできる生徒だ・・・担任として、誇りに思うよ、若人」


 (できる・・・ねえ)

 まあ、そう言われて嫌な気にはならないが、どこか薄っぺらい気がするのは俺だけじゃないはずだ。



 「・・・・・おそらく、いい感じに出来上がっているかと」


 「本当か?」

 「気になるなら、自分でも確認してみてくださいよ」


 「・・・あ、いや、大丈夫だ・・・私は見てもわからんしな」

 

 (あーあ、とうとう白状しちゃったよこの人)




 「―――それより、なにか焦げ臭いが・・・そっちは大丈夫か?」


 (・・・あ)


 振り返ると、俺たちの班の飯盒が灰色の煙を上げているところだった。蓋の横についている黒いものは、泡が焦げた後だろうか?なんにせよ、中身がどうなっているかは一目瞭然だった。






 「・・・・・・まったく、持つべきは優しくて美人の先生・・・ですねえ?」



 *



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