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93 砂浜の恐竜王国



「しまった、オレって砂遊びの天才だったかもしれん」

 砂浜にそびえ立つのは、白鷺城もといフラミンゴ城。

 なぜ、本気を出してしまったんだヨウル、こんなところで。


 いや、うん。『造形』パネェ。

 ざざざーって砂が動いていくさまは、ちょっと所じゃなく感動した。

 初めて建物を作れる3Dプリンターを見た時もスゲーってなったけど、それを自力でやれるってところが面白いな。

 ヨウルがいつの間にやら『製図』だの『設計』だのを生やしてたんで、心強いったらなかったわ。


「ヨウル。わたし『造形』が爆上がりしたんだが」

 お手伝いしていただけなのに。

 やっぱ大物を作るとスキル磨きが捗るな。それとも共同製作ってのが良かったのか。

 中の人の西邑先輩とは、『魔力循環』をしている仲なんで、ヨウルの魔力にも干渉しやすい。

 ヨウルが細かい作業をしてそちらに気を取られている間に、土台が衝撃で崩れないよう魔力で支えていたりとか、そんなこともお茶の子さいさいだ。


「これがクリティカルってやつか…?!」

 そんなもんTRRGではない方の『異界撹拌』にはありはしない。でも気持ちはわかる。


「んなわけあるか、馬鹿どもめ。

 …ま、見事なもんではある。

 直ぐに風化しちまうのが勿体ねえな、サンドアートっていうやつはよ」

 教官に呆れられてもへっちゃらだ。


 材料、砂、水、以上!

 すごい物どころか砂を固める砂糖水すら使ってないけど、いや『造形』って楽しいわ。

 ヨウルと2人して、童心に返って、子供らしくないものをつくってしまった。


「スクショとろう、スクショ。エンフィのやつに自慢したろ」

 サイズ把握の為に側に立てと言われたので、そわそわしている水麗人たちを手招きする。


「撮影する時だけ、『変化』を解いて貰っていいだろうか?」

 きらんきらんの水麗人たちを侍らせ、はい、ポーズだ。


「…やべえ、フラミンゴ城が、竜宮城になってら!」

 ゲラゲラ笑って苦しそうなヨウルと交代でフォトスポットを変わる。

 やっぱり背景には海も欲しい。


「ヨウル、すごい、城、水麗人に映える…!」

 ヨウルのゲラが移って苦しい。

 なんかフォトジェニックな一葉が撮れてしまった気がする。

 紺碧の海に、薄桃色の砂浜。

 優雅な砂の城に、煌めく鱗の水麗人。


「だよな!思った!この海は水麗人のホームなんだな、やっぱ」


「オーナー、ヨウルさま、お城に『保護』を掛けてもいいですか?

 いつか崩れてしまうとしても、少しでも長く留めておきたくて」


「ドーゾー。オレは作ったらそれで満足!」


「そうか、『保護』があるなら、次は滑り台もいけないか?」


「採用!恐竜にする?キリンにする?」


「海ならタコとかクジラじゃないか。でも、恐竜はいいなロマンがある。

メジャーなプレシオサウルスか、滑り台の長さを求めてより首長のエラスモサウルスか」


「おっ。お前も恐竜博士だった口か」


「男の子の2割は通る道じゃないか?」


「よしそれならオレは最愛のトリケラトプスでいく」


「それならわたしは、顎が可愛いコンプトソグナトゥス……ううん、やっぱり首長竜か」

 最愛のとか言われると浮気性だったな幼児のオレは。

 割りと恐竜関連は満遍なく嗜んでいた。

 でかくて強いとか、最高じゃねえ?

 …これで魔物として出てこなかったら憧れのままで済んだんだけど。

 リアルにお目に掛かるのは、ご遠慮申し上げたかったなあ…!


「両方作れば?」


「ん、そうする」






 魔力にあかせて『造形』を使い、砂浜を満足するまで蹂躙したところで、昼寝をとらさせられた。

 今回の遠征の目標でもある、家亀狩りは真夜中になる模様。

 ゲームでとる睡眠の良いところは、寝ようと思ったら直ぐに寝られるところだ。


 そんなわけで、なんかいっぱい寝てしまった。

 天幕の寝床が快適で、もぞもぞ起き出したら38日目になりたてほやほやだった。

 しまったバーベキュー食べ逃がしたと、天幕から出てみれば、あの外布には『遮音』、『遮光』効果が付与されている代物だったらしい。

 浜辺には簡易街灯が差し込まれ、キャンプファイアが踊っている。

 そういや、天幕内では波の音がしてなかった。


「お目覚めですね!お腹が空いたでしょう、マスター。バーベキューの準備できてますよ!」

 さささと席を用意されている間に、ヨウルも欠伸しながら起きてきた。

 ウィングブーツで空から哨戒していたらしい、サリーも下に降りてくる。


「おはよー」


「おはよう御座います、リュアルテさま、ヨウルさま。

 そろそろ起こしに行こうと思っていたところでした」

 

「おはよう。こんなに明かりを焚いて大丈夫なのか?」

 踊り子豆の炭火に赤が灯り、網が熱せられていく。

 そこにメイドさんが野菜や、ノベル自慢のソーセージやらを熟練の手つきで投入した。

 つい、じーっと見てしまう。

 大きな骨付きソーセージって夢があるな。


「…動物だったら、警戒してくれるんでしょうが魔物ですから」

 じうじう、ぱちり。焼けるソーセージに目をとられて気もそぞろになっているオレらにサリーは優しい眼差しだ。

 それを察したヨウルが咳払いをする。


「なあ、サリーさん。水麗人の人らが浜辺を掘り返しているのなんで?」

 昼間海に潜っていた彼らは現在、スコップ片手にあちこちで砂を掻いて山を作っている。


「ふふ、卵泥棒です。

 新鮮な卵は卵として、孵りそうなのは孵化してからソフトシェルの小亀の状態で食べるそうです。

 浜の清掃をしばらくしていませんでしたから、彼らもそれはもう必死ですね。

 3年後あたりから、家亀が大増殖するんじゃないかと頭を抱えてましたよ」

 サリアータに移住したのは全員が全員ではないけれど、働き盛りの子育て世帯が多いからなあ。


 年寄りは海を守って死ぬつもりで残っていると聴いたし。

 やめて。そーゆーの。

 年寄りは家族に大事にされながら、孫の世話でもしていてほしい。もちろん仕事が生き甲斐っていうのもアリアリだ。


「あー。砂遊びしたの邪魔なら崩してもいいんだけど」

 オレらのやった犯行で、城やら、恐竜王国やら。ロマンチックだった浜は一変、賑やかなことになっている。


「浜辺は広いですから、平気ですよ。むしろやってもやっても終わらないと黄昏てました」


「人員の入れ替えは、いつやるんだ?」


「家亀が上陸して、産卵を始めてからですね。産み終わりの体力を消耗したところを狙いますので」


「うわ、鬼畜ぅ!」


「お元気な北海の勇者に立ち向かうなんて、とてもとても。

 こずるい立ち回りが我らの身上でして」


「お野菜、ウィンナー焼けましたよー!

 今夜は長くなりますからね、どんどん食べて下さいねっ!

 焼おにぎりと、海鮮焼きうどんだったら、どちらからいきます?」

 肉を新たに焼きながら、メイドさんはニッコニコだ。

 営業スマイルかもだけど、元気印のその姿は癒される。うちの子、本当にいい子ばかりだ。


「肉には米かな」

 熟考の末、ヨウルが重々しく判断する。その意見に異論はなし。

 焼きたてのウィンナーは熱々で、パキリと噛ると香辛料も華やかに肉汁が溢れる。

 んー……旨い。外で食べるなら、腸詰めって大きければ大きいほど嬉しくなるのなんでだろ。


「おう、早いな。お前さんら。良く寝れたか?」


「おふぁようございます」

 ちょうど肉にかぶりついたタイミングだったヨウルがふがつく。


「構わんから、良く噛んで食え」

 言われたんで、オレは手の形だけで挨拶してモグモグする。


「先生さんも、たくさん召し上がって下さいね!」

 あっという間に取り皿やらがサーブされ、グラスにお茶が注がれた。

 炎の照り返しで、グラスが黄金色に輝いている。


「おう。旨そうだ、頂きます」

 教官は好物の甘いサツマイモやカボチャを狙って食べ始めた。

 そう言えば。


「サリー、食べ物の好き嫌いはあったりするのか?」


「癖の強すぎる初見のものは、警戒が先にたちますね。

 それと子供が好きなような料理は、たいてい好きですよ」


「清酒を塩で飲むようなヤツがなんか言ってるな?」

 サリーは教官のちょっかいにも涼しい顔だ。


「そちらも勿論、愛しています。いいですよね淡麗辛口。

 清酒といえば地元は加水して一番美味しい度数にしてたりするんですが、サリアータの酒蔵は惜しみ無く度数を上げたものも提供してくれるので好ましいです。

 つい、株を買って応援してしまいますね」

 これは飲んべえだ。間違いない。

 『異界撹拌』は小さな酒蔵がいたるところにあるので、呑助天国だと聞いた。


「それでは大人になったら、一緒に呑もう」


「はい。それまでに、とっておきの1本を見つけておきますね」


「そりゃあ、楽しい仕事だな」


「いいえ、ご褒美ですよ?」


「はは、違いない。お前さんが辛口なら、俺はお前さんらに甘いのを見繕うか」

 満天の星空の下、和やかな雰囲気が漂っていた、その時だ。


「家亀の姿を確認しました!」

 その報告に立ち上がる。そして座る。オレが焦ってもしゃーないわ。


「産卵はどれくらいの時間が掛かるのだろうか?」


「はい、個体によりますが2時間は見ていただけたらと。

 ゆっくり食事を召し上がって、それから駅の『解錠』をしても充分間に合います。

 ただ、穴堀りをしていた人員は産卵前に見付かると追いかけられますので止めさせますが」

 卵泥棒だからなあ。


「少し休憩して、帰る前に小腹でも満たしていくといい。

 はしゃぎすぎだ」

 報告してくれた彼もさ、疲れが顔に出てやがるし。

 うちはブラックじゃないんだから、やめろ。


「申し訳ありません。せっかく海に来たのだからと、あれもこれもと目について」


「駅を通したのだから、これからはいつでもこれるだろう?

 目溢しするのは昨日までだ。

 今日はゆっくり休んで、また明日からだ。

 あまりに自主的に社畜をするようであれば、問題が片付いても駅を封鎖してしまうぞ?」


「善処します!」

 それは、いいえの意味じゃないよな?


「…もしなにかあれば、わたしはレイに報告をしなければならない。わかるな?」

 虎の威を借りますよっと。


「はいぃ!」

 水麗人が良い返事をしてくれたので解放する。


「脅かしすぎじゃね?」


「…統括しているオルレアは従業員のやる気を邪魔しないタイプだから」

 メイドさんが、そっと目をそらす。

 どうやら心当たりがあるようで。


「有給あるのに、皆使ってくれないのなんでだと思う?」


「お前んとこ、それ大丈夫なん?

 やっぱ上司が休まないことには、下がやりづらいんじゃね」


「わかった。そのうち、オルレアを誘って樹海探索でもしてみる。冒険者らしく」


 有給の使い方としては間違っている気もするが、やらないよりはマシだろう。




 いいね、評価、誤字報告ありがとう御座います。

 相変わらず誤字が多いので、お手数をかけています。


 コメントは何度、頂いても嬉しいです。気に掛けて下さってありがとう。

 頑張ろうって気になります。


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